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開発者インタビュー

“日本のソフトパワーがつまった世界標準”を手軽に導入できる
東芝の輸送計画システムソリューション「TrueLine®」とは?

第1回:「TrueLine®」誕生のいきさつ

[写真] 久保 英樹
東芝デジタルソリューションズ株式会社
ソリューションセンター 交通ソリューション部
久保 英樹

日本の鉄道運行は、その正確さが世界に広く知られている。決まっているのは始発駅の発車時刻と終点の到着時刻だけで、それすらも遅れることが日常茶飯事である外国の鉄道からすると、分刻みで遅れることなく運行される日本の鉄道というのは摩訶不思議な存在なのかもしれない。

こうした鉄道運行の正確さを支えているのはシステム、そして線路や架線のメンテナンスにほかならない。いわば過去のノウハウが蓄積したソフトパワーこそが正確な運行を生み出しているというわけだ。
そして、「日本の誇れるソフトパワーを“世界標準“として世界にも広めたい」という思いで開発をしたのが、東芝の輸送計画システムソリューション「TrueLine®」だ。クラウドサービスとして提供されるこのシステムは、日本が誇る輸送計画のノウハウをそのまま導入できるパッケージとして鉄道以外の業界や、国外からも 注目を集めはじめている。リリース後のメンテナンスや継続的な機能追加が可能なのも、従来のオンプレミスのシステムにはないクラウドサービスならではの特徴だ。

今回はこのシステムを開発するにあたってプロジェクトの中核となった、東芝デジタルソリューションズ株式会社 ソリューションセンター交通ソリューション部主幹の久保英樹氏に、システムの狙いからその設計、そして導入後の反響までをじっくり語ってもらおう。第1回となる今回は、マウスが使える特徴的なユーザインターフェースのほか、本サービスがどのようなきっかけでクラウドサービス化に至ったのかを紹介してもらう。

慣れ親しんだブラウザ上でマウスを使って操作できる

「TrueLine®」は、運転曲線作成、基本ダイヤ作成、乗務員/車掌運用作成、構内基本計画作成/構内作業管理、検査計画/車両割当管理、GIS運行監視という6つのサービスをパッケージ化した、輸送計画システムのトータルソリューションだ。その中にはさまざまな革新的な機能が含まれるが、ことユーザがふだん目にする操作画面に絞るならば、マウス操作に対応した直感的なインターフェースが、大きな特長として挙げられる。

従来のシステムであれば、電車の発車時刻を後ろに数分ずらす場合、テンキーで時間を入力して運転曲線を書き換える必要があった。一箇所を書き換えると以降のダイヤが連動してずれるわけではなく、駅ごとおよび列車ごとにそれぞれ時間を手動で入力してずらすという、手間がかかる作業を強いられていた。思い通りに操作できないためにシステム上での修正をあきらめ、すべて紙に出力して手書きで修正を行なう事業者もあったという。

しかし「TrueLine®」であれば、マウスで“スジ”そのものを選択し、ドラッグしてずらすだけで、以降のダイヤにも自動的に反映されるので、調整も含めてほんの数秒もかからない。ひとつずつ手入力で確認しながら書き換えずに済むことから、運行ダイヤを柔軟に調整したり、検討したりすることが可能になるというわけだ。しかもこれが専用のソフトウェアではなく、ブラウザ上で行えてしまうというから驚きである。

「ここまでマウスでドラッグして動かせる輸送計画システムは、過去にほとんど例がありません。また普通であれば単体のソフトウェアとして設計するところ、今回はブラウザ上で動かすというチャレンジをしています。技術的には二段跳び三段跳びになるため、たいへんな苦労がありましたが、慣れ親しんだブラウザ上でマウスを使って操作できることはお客様にとっても価値が高いと考え、なんとか実装にこぎつけました」と久保氏は振り返る。

[画像] マウスで特定のスジを選択した状態
マウスで特定のスジを選択した状態
[画像] そのスジをドラッグして動かしたことで以降のスジが自動調整された状態
そのスジをドラッグして動かしたことで
以降のスジが自動調整された状態

「こんなシステムがあればいいのに」が現実に。他業界からも引き合い

マウスで自由自在に編集できるシステムが過去にほぼ皆無だったというのは驚きだが、久保氏によると、顧客へのヒアリングの段階では、使い勝手に関するさまざまなヒントはかねてから寄せられていたのだという。「PowerPointや各種ドローソフトなど、マウスを使っての操作性に慣れたお客様からは、それらに近いユーザインターフェースを求める声が上がっていましたが、当社を含めどこも開発に着手するところはありませんでした」。

いったいなぜ着手に至らなかったのか。その最大の理由は開発の手間、そしてコストだという。
「これまでは我々も他社も、システムの開発に注力するあまり、ユーザインターフェースをもっと良くするという発想に至りませんでした。ユーザインターフェースを作るのはシステム自体の開発に比べて何十倍も手間がかかるため、他社を上回るシステムが作れるチャンスでありながら、軽く聞き流してしまっていたわけです」。

従来のオンプレミスのシステム開発では、仕様を一から策定して構築していくには莫大な手間がかかる上、鉄道事業者にとってもユーザインターフェースまで含めた高額なシステム開発費用がネックになり、予算を組むところまで至らない。その結果として「こんなシステムがあればいいのに」という要望だけが宙に浮いたままになっていたというわけだ。

今回のTrueLine®は、輸送計画作成に必要な機能をパッケージ化しクラウドサービスとして提供することにより、これらの問題を解決することに成功している。個々の顧客が莫大な受託開発費を負担してシステムを構築するのではなく、東芝が日本の鉄道運行のノウハウを盛り込みながら標準化した輸送計画業務の機能を開発し、それらを用いたソリューションをクラウドサービスとして複数の顧客に販売。サブスクリプション契約で利用料を徴収することで開発費を回収するという仕組みだ。顧客である鉄道事業者にとっても、一から開発するための予算を組む必要がなく、短期間でシステムを導入して使い始めることができる。

このことは、従来なかったマウスで自由に編集できるユーザインターフェースを生み出した遠因にもなっている。クラウドサービスとして新しいシステムを組むのであれば、既存のシステムの常識にとらわれる必要もなく、また国内外を問わず広く受け入れられる、ユーザエクスペリエンスを重視した操作性が求められる。マウス操作を含め、理想とするユーザインターフェースを新規設計するには好都合だったというわけだ。

こうして開発に着手されたTrueLine®は、およそ2年の歳月を経てプロトタイプが完成し、国内外の事業者から好評を持って迎えられている。詳しくは次回以降に詳しく紹介するが、鉄道以外にバスや航空業界からの引き合いも多いという点からも、システムの完成度の高さが分かるというものだ。

[写真] インタビュー時の様子

国内外での評価も高いTrueLine®

[写真] インタビュー時の様子

操作性とデザイン性を追求して完成したTrueLine®の直観的なインターフェースは、国内での評価も高く、「GOOD DESIGN AWARD」や「JISA Awards」など、数々の賞を受賞している。
導入コストや運用までのリードタイムが大幅に削減できるクラウドサービスでの提供というのも、他方面からの引き合いにつながっている一因となっている。

またクラウドサービス化したことは、海外市場への納入においても大きな強みとなっている。というのも、これまで鉄道を運営した実績があまりない新興国にとっては、一からシステムを設計することなく、ノウハウが凝縮された“日本のソフトパワーがつまった世界標準”のシステムをそのまま納入できる利点があるからだ。海外事業者にデモンストレーションを行うと「これが日本のシステムか!」と感激の面持ちで画面を見つめる事業者も少なくないのだという。これまで論文などで見聞きしたことがあっても、実際に日本から提供されたシステムを見た経験は皆無だったことから、実物を操作した時の感動はひとしおというわけだ。“日本のソフトパワー“が、国を超えて世界で認められはじめていると結果言える。

鉄道以外にバスや航空業界からの引き合いもあるなど、他業界からも大きな反響を得ているこのTrueLine®とは、いったいどのような特徴を持ったシステムなのだろうか。次回はこのTrueLine®の全貌を、詳しく紹介していくことにしよう。

輸送計画 ICTソリューション
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