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Power of US ひとつ上のビジネスを、創る力。

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プロジェクトのメンバー KeyPerson

2014年9月30日 未知の領域を開拓し、新たな文化を創り出す東芝グループのチーム力。東芝グループが保有する幅広い技術をさまざまな領域に向けて活用することで、創造的成長を実現する「New Concept Innovation」。今回ご紹介する「仮想試着システム」の実証実験は、東芝グループの熱い思いと強い団結力で推進、新たなイノベーションを生み出した。

New Concept Innovationを具現化した実証実験

 2013年に就任した東芝の田中社長が新たなコンセプトとして提唱したのが、東芝グループの技術を新たな価値創造につなげる「New ConceptInnovation」だ。東芝グループ全体で新規事業に積極的に取り組んでいく姿勢を鮮明にした。そして、その東芝の新規事業の一つとして検討されたのがファッション業界への挑戦だった。

 「社長の田中から、ファッション業界における新規事業の可能性につき質問がありました。そこで、ファッション業界への取り組みが新規事業の種になるかどうか、東芝グループ内での取り組みについて調べ始めたのです」と語るのは東芝の新規事業開発部に所属する藤原だ。東芝ソリューションが2012年に浴衣の仮想試着イベントを開催したことを知り、東芝ソリューション全体の技術・商品戦略を取りまとめている技術統括部と担当部門である流通・金融ソリューション事業部にその状況をヒアリング。新規事業における候補の一つとして検討を開始することとなった。「さまざまな新規事業を検討しましたが、その中でも、生活者としての私自身の経験や感性が生かせると考えました」と藤原はその熱意をのぞかせる。

株式会社 東芝 新規事業開発部 戦略企画担当 参事 藤原 千悦子 株式会社 東芝
新規事業開発部 戦略企画担当
参事 藤原 千悦子

 仮想試着システムの実現に長年取り組んできた営業担当の三上は「店舗に新規顧客を呼び込むなど、売り上げに直接貢献できるソリューションを作りたかった」とそのきっかけを語る。

 三上が担当している流通・小売業界では、ネット通販ショッピングが拡大する中で店舗への来客数をいかに増やすかという課題に直面している。また、百貨店やアパレルの現場では複数の店舗の洋服を組み合わせて試着できる仕組みが限られており、その要望も大きかった。そこで、それらに応えるためのさまざまな解決策の一つとして仮想試着のアイデアが生まれたのだ。「お客さまと、店舗にいらっしゃる方々、双方に喜んでいただける商品を作りたいと、商品企画という視点を絶えず頭に入れ、日々の営業活動をしていました」(三上)。今回の技術的なサポートについては、東芝の研究開発センターに直接相談を持ちかけ、拡張現実(AR)の技術を研究していた研究主務の西山に意見を聞き、実現の可能性を探りながら孤軍奮闘していたのである。

流通・金融ソリューション事業部 商品戦略部 商品戦略第二担当 主任 三上 茂 流通・金融ソリューション事業部
商品戦略部 商品戦略第二担当
主任 三上 茂

体型に合わせて作り出す拡張現実の世界

株式会社 東芝 研究開発センター インタラクティブメディアラボラトリー 研究主務 西山 正志 株式会社 東芝 研究開発センター
インタラクティブメディアラボラトリー
研究主務 西山 正志

 西山がもともと研究していたのは、画像から人の情報をセンシングするための技術だが、「センシングするだけでなく、相手に伝える技術についても同じくらい大切なことだと考えていました。そこでAR技術の研究にも取り組んだのです」と研究の経緯を語る。今回取り組んだ仮想試着システムは、現実世界と仮想世界を違和感なく融合するAR技術を使って、新しいライフスタイルを作り出すための一つの具体的な事例になる。「社内の技術展示会などに三上が足を運んでくれたことがこのプロジェクトに関わるきっかけになりました。百貨店やアパレルなど実際のお客さまからの生の声を聞くことで、現場のニーズに合わせながら私たち独自の強みを生かした技術開発を進めることができました」(西山)。

 特に今回は、人体の情報を基にした3Dの「体型センシング技術」と洋服を合わせる「体型フィッティング技術」が一体となって違和感のない仮想試着が可能になっているが、実証実験に至る道のりは決して平たんなものではなかった。「新規事業開発部として仮想試着システムによる新規ビジネスの可能性を判断したかったのですが、当初は試作機がありませんでした。そこでまず試作機を作ってもらい、評価する機会を設けることになったのです」(藤原)。

 そして試作機が完成した段階で、東芝のマーケティング責任者も同席して仮想試着を試した藤原だったが「楽しいはずの試着がまったくそう感じられず、違和感をおぼえました」。1カ月後に開催される社内の技術展までに品質を高め、来場者に満足してもらえないと、実証実験の実現は難しいレベルだった、と当時の厳しい状況を振り返る。

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実証実験の実現を勝ち取るためのチャレンジが始まる

流通・金融ソリューション事業部 商品戦略部 商品戦略第二担当 主任 吉岡 寿朗 流通・金融ソリューション事業部
商品戦略部 商品戦略第二担当
主任 吉岡 寿朗

 この段階でプロジェクトに参加したのが、今回のプロジェクトマネージャーとなる商品戦略部の吉岡だ。「どれだけ違和感なく現実に近づけるのかというフィッティングの部分が大きな課題でした。これまでは研究所にいた数人の男性のデータのみでチューニングされており、女性も含めたさまざまな体型データが不足していました」。そこで、残り1カ月で開発投資を実施し、品質を高めるために急ピッチで調整を進めていった。

 また吉岡は同時に、実証実験に向けて開発体制の整備や仮想試着を行うための筐体作りをはじめ、どんな場面で使ってもらうのかといったコンセプト作りも並行して行った。「藤原も含め、女性の意見を集めるべく、社内の女性にインタビューを実施しました」(吉岡)。そして、女性をターゲットにした仮想試着システムの本格的な開発がようやく動き出すことになる。

 さらに三上は、洋服を購入する際に後押しとなる要素がどこにあるのか、現場で市場調査を実施。「実際に買い物をする場面を観察したり、店員の方にお話を伺ったりしながら、買い物に関する行動分析を行いました。もともと小売業を担当していたので店舗目線については情報や感覚がありましたが、“消費者目線での買い物”という点で、このインタビューや店舗での調査の結果は大いに役立ちました」(三上)。

 それぞれのメンバーが実現に向けて奔走する中、研究所でも必死の思いで品質の改善に努めていた。「研究開発は一気にできるものではなく、コツコツと積み上げていくものです。それが無に還るのは研究者として悲しいこと。研究開発したものを世の中に出すことで東芝の事業に貢献することになり、ひいては社会貢献につながります。この1ヵ月が最後のチャンスだという思いでした」と西山は当時の決意を振り返る。

当日の朝まで調整した運命の展示会

 2013年11月末、社内技術展が開催された。「チームみんなで集まって展示会のオープンと同時に見に行きました。まるで実際に試着しているようなその出来栄えは、1カ月前とは比べものにならないくらい素晴らしいものでした」と藤原はその時の感動を振り返る。ディスプレイに映した体にきれいにフィットして見え、体を動かしたり回転させたりすると、バーチャルな服も一緒に動く。

 劇的に改善した理由の一つに挙げられるのが、展示会に合わせて導入された新たなセンシング技術だった。「技術自体は以前からありましたが、個別に研究されていました。それを今回のタイミングで導入してくれるとは思っていませんでした。しかも、見栄えに対する課題を克服するため、さまざまな工夫が随所に散りばめられていました。この技術を実装した仮想試着システムとして紹介できることになるとは、正直“思いもよらない驚き”でしたね」と三上は笑う。

 実際、西山の開発作業はぎりぎりの調整だったという。「一気には実装できないため、今回の展示会にあわせて少しずつ調整していきました。実は、この技術の一部は欧州にある東芝のケンブリッジ研究所のもので、そちらの研究者とタッグを組みました。最後の2週間は欧州から研究者が来日し、一緒に川崎の研究所に詰めっぱなしで対応しました。展示会がオープンする直前まで微調整を続け、何とか間に合わせることができました」と西山は語る。

美容室で仮想試着をするという斬新なアイデア

 この社内技術展で認められ、実証実験の段階に進むことになった。今回の実証実験の大きな特長は、百貨店やアパレルの店舗ではなく、美容室に仮想試着システムを設置したことだ。自身のパーソナルカラーに応じて髪の色を染めるタイミングで、その色に合った洋服を美容室のカラーリストがオススメする。気に入った服は、仮想試着システムを使ってバーチャル・フィッティングするという流れだ。「プロジェクトメンバーの女性陣から、美を意識する場所は美容室だというアイデアが飛び出しました。そこで一つの候補として美容室での設置も検討することになったのです」と吉岡。「美容室は、髪の毛のケアだけでなく、さまざまな雑誌をチェックしたり、第一線のファッションを知る美容室の方々と触れ合える場所であり、貴重な情報収集の時間でもあります。つまり、女性が憧れる、自分の理想像を思い描ける空間や場所なのです。仮想的に試着したいと思う心理的なタイミングとしては絶好の機会ということです」(藤原)。

 実は百貨店などではアイデア自体には賛同してくれるものの、なかなか設置にまで至らないのが実情だった。「視点を変える必要を感じていました。美容室であればニーズはありそうですし、アパレル店舗にお客さまを誘導するための新たな導線として、収益の面でも貢献してくれる可能性を感じました」(三上)。

 実証実験に参加いただく美容室として選んだのは、連日多くの人が訪れるラゾーナ川崎プラザ内に店舗を持つ「kakimoto arms」だった。「kakimoto arms」は美容室業界の草分け的な存在。日本で初めてヘアカラーリストを養成し、一人ひとりに合わせたパーソナルカラーを診断しながら最も似合うヘアカラーの提案をする。

 三上が実証実験の協力を打診したところ、快く応じてくれた。「この美容室には、カラーリストと呼ばれる“色のプロ”や、スタイリストがいます。しかも、ちょうど川崎の店舗が2014年4月にリニューアルすることも決まっており、実証実験を行う場所もタイミングも最高の条件でした」(三上)。

実ビジネスを想定し、最新アイテム100着以上をタイムリーに表示

 しかし、ここで難題が浮上する。仮想試着システムのコンテンツとなる洋服を提供してくれる、最終的な送客先となるアパレルとの交渉が難航していたのだ。「最先端のブランドを手掛けるアパレルにアプローチしていたのですが、当社の営業先が情報システム部門だったこともあり、広報部門やマーケティング部門に直接働きかけるのに壁があったり、時間もかかりました」(三上)。結果として当初見込んでいたアパレルとの交渉が停滞し、プロジェクトは大きく足踏みすることになる。

 そのような中、吉岡もさまざまなルートから糸をたぐり寄せ、根気よくアパレルへのアプローチを継続する。併せて女性メンバーも自身が参加したセミナーで講演していた著名なファッションエディターに協力を求めるなど、それぞれ状況を打開するための努力を続けていった。そして、最終的には美容室のターゲットに合ったブランドからの協力を取り付けることに成功する。「ファッション(アパレル)業界にネットワークがなく、誰がキーマンなのかも分からなかった。メンバーの協力で、業界に精通した人たちと出会え、何とかプロジェクトを前に進めることができたのです」と吉岡は当時の切迫感を吐露する。

 ブランドが決まってもコンテンツ作りはさらに難航を極めた。「店舗にある洋服が2週間で入れ替わるという“時間軸”が厳しかった。洋服入れ替えサイクルに合わせて、商品の撮影からコンテンツ制作までを終わらせなければいけないという壁にぶつかりました」と吉岡。

 そこで、洋服の撮影やコンテンツ制作、そして実際のチューニングに至るさまざまな工程をすべて洗い出し、品質を落とすことなく運用できる形になるよう、フローを全面的に見直した。このコンテンツ制作のフローをアパレルに説明し、ついに実証実験の協力を取り付けることに成功したのだ。結果的に彼らの努力が実を結び、4ブランドから100着以上のアイテムを表示することに成功。しかも店舗が商品を入れ替えるタイミングごとに、システムにも同じ新商品を表示させることができた。「雑誌を読む感覚でたくさんの最新アイテムから試着できるからこそ、仮想試着を楽しむことができました。アイテム数を減らすことなく今回のシステムが実現できたことは、体験者の喜びを生み出し、アパレル店舗への送客につながった大きな要因の一つだと思います」と藤原は語る。

新たな領域への挑戦を続ける東芝グループのチームワーク

 実証実験は2014年4月22日〜5月31日の間に行われたが、この実証実験を迎えるまでにはコンテンツ制作から、フィッティング感を高めるためのシステム調整、試着したものを映し出す筐体の作成、そしてタブレットと連動した仮想試着システムの実装など、さまざまな作業が同時進行だった。

 プロジェクトマネージャーの吉岡は、「各作業のセクションメンバーはそれぞれ熱い思いで、最上級のものを作ろうと努力してくれました。私は、それに応えつつ、全体の最適化を念頭に進めていきました。プロジェクトに関わるメンバーは、PJメンバーをはじめ、各社のPRや美容師の方々までを含めると100名はゆうに超えます。すべての関係者がチームとなり、みんなが“お客さまに喜んでいただく”という共通意識を持ち、同じ方向にベクトルを合わせ、熱い情熱を持って取り組んだことが、実証実験の成功ポイントだと考えています」と語る。

 実験を開始後、大型ショッピングモールに飛び交う無線電波がシステムに影響を及ぼすことも多々あった。それでも都度、美容室と東芝ソリューションが連携、無事に実証実験を終えることができた。そしてこのシステムを体験した人の半数以上を実際の店舗へ誘導することに成功したのである。

 「アパレル店舗や百貨店への送客を目的に考えると、十分評価できるシステムだと考えています。このシステムを体験し、今まで着たことのない洋服が自分に似合うことを知り、行ったことのないアパレル店舗に足を運んで下さった方々が多くいらっしゃいます。お客さま視点でシナリオを描き、単なるバーチャル試着サービスとしてではなく、美容室とアパレルをつなぐ新しいお客さま体験価値を生み出すための、東芝グループのUX※1デザインのコンセプトである“うれしさの循環”を多くの方々に実感いただくことができました。私たちは、いつも新たなことに挑戦しています。洋服を買う際の試着が当たり前のように、試着の前に仮想試着するという“新たな習慣(文化)”を創り出し、定着させていきたいと思っています」と三上は語る。

 業種を越え、多くの協力を得ながらプロジェクトを成功へと導いた東芝ソリューション。今後も新たな領域に積極的にチャレンジしながら、東芝グループの力を結集して、さまざまな新規事業を創出していく。


※1 UX:User Experience 機能や使いやすさにとどまらない、使った時の良い体験(有意義な価値ある体験)のこと。製品やサービスを利用する過程(品質)を重視し、「楽しい」「嬉しい」「心地よい」と感じることを提供価値として捉えるコンセプト。

パーソナルカラー診断とバーチャルフィッティングの流れ

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実証実験に協力して

 今回の実験は“パーソナルカラー”がその根底にありましたので、kakimoto armsの特徴を生かしていただくことができました。

 東芝グループの皆さんは各自プロフェッショナルです。その皆さんが一つのチームとなり、同じ方向を目指して邁進。私たちも同じチームとして「全てはお客さまの笑顔のために」と、その情熱を共有していました。

 時間と共に強くなった皆さんとの絆、このPJに対する関係者全員の思いが、新たな力を生み出していたように思います。ぜひ、また皆さんとチームを組ませていただきたいです。



お客様のインタビュー(導入事例)はこちら

kakimoto arms 広報・ブランディングマネージャー 村松 亜子 様 kakimoto arms
広報・ブランディングマネージャー 村松 亜子 様

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