今回の実証事業は、4つのサブプロジェクト(タスク)から構成される。
太陽光発電を活用したEV充電管理システムとEVカーシェアリング ※EV:電気自動車
ここで、東芝デジタルソリューションズ株式会社のプロジェクトマネージャーである、スマートコミュニティ・ソリューション技術部の山口直樹に、それぞれのプロジェクトについて解説してもらおう。


再生可能エネルギー発電設備導入と、ビル内のエネルギー利用効率化によるポジティブ・エナジー・ビルディングの実現
ビル完成イメージ
今回のプロジェクトで実際に建設されるPEBのモデルビルが「P-plot街区ビル」。日本人建築家の隈研吾氏が設計を手がけた地下1階地上8階建ての大規模多目的ビルで、外壁の多くが太陽光パネルで覆われているのが大きな特徴です。高い効率性やデザイン性に配慮した太陽電池モジュールを始め、蓄電池や蓄熱システム、LED照明システムなどの最新技術を導入し、さらに東芝デジタルソリューションズ株式会社のエネルギー管理システム「BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)」「HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)」を用いて、ビル全体のエネルギー利用率を高めます。実証事業では、ビル内の住居・オフィス・商業エリアのさまざまな電力使用パターンを検証して、PEBの実現可能性などを探ります。

再生可能エネルギーをエネルギー源としたEV(電気自動車)のカーシェアリング展開による、温室効果ガス排出ゼロの交通インフラ実現
実証事業が行われる再開発地区全体の交通手段として、EV(電気自動車)を利用したカーシェアリング環境を導入します。交通渋滞や駐車スペースの不足、排気ガスによる環境悪化は、世界中の都市における共通の課題ですが、EVを必要な人が必要なときだけ利用するカーシェアリングを導入することで、そうした課題の解決が期待できます。今回のプロジェクトでは、EVを動かすエネルギーを太陽光発電でまかなうことを想定しています。CO2を出さない都市交通システムは画期的といえるでしょう。
なお、太陽光発電をエネルギー供給手段として用いる場合、晴れている日であれば余剰電力が発生、雨や曇りの日には電力不足と、電力系統の不安定化が懸念されます。そこで、東芝デジタルソリューションズ株式会社が開発した、晴れているときにより多くのEVに自動的に充電するEV充電管理システムや、カーシェアリングスケジューリングシステムを導入し、EV充電とカーシェアリング予約の最適化を図っていきます。

家庭内エネルギーモニタリングシステムによるエネルギー消費の見える化と住民の意識改革実現
スマートコミュニティの実現を目指す再開発地域には、従来からの住民が暮らす住宅が多数残っています。そうした既存住宅に対するエネルギー最適化の試みも今回のプロジェクトの対象です。具体的には、一般的な既存住宅に対して、大掛かりな工事を行うことなく省エネルギーを実現できる仕組みを提供しようというもの。エリア内の200〜300世帯を対象に、分電盤のスイッチ単位で電力量の計測が可能な多回路レコーダーを設置。部屋ごとの電力消費量を把握するとともに、水道メータやガスメータからのデータも取得することで、エネルギー消費の詳細な見える化を実現します。住民は電気やガス、水道を実際にどれだけ消費したのか、インターネット経由のタブレット端末で確認することが可能。また、使いすぎのアラーム、省エネルギーを推奨する機能なども盛り込んでいます。プロジェクトでは、こうした設備を導入することで、実際の省エネルギーにどれだけ役に立つのかを検証します。

CMS(コミュニティマネジメントシステム)の構築と、対象地域全体のスマートコミュニティ化の実現
これまで紹介してきた、ポジティブ・エナジー・ビルディングやEV充電管理システム、家庭内エネルギーモニタリングシステムなどには、多目的ビルや電気自動車、一般住宅などのエネルギー供給や消費に関する膨大なデータが存在しています。そこで、各システムからデータを集約・分析して、自治体の都市計画やエネルギー政策の立案などに役立てるのが、「コミュニティマネジメントシステム(CMS)」です。
スマートコミュニティを実現する上で本システムのデータはとても貴重であり、今回の実証事業では、システムの有効性を検証するとともに、実際にどのようなマネジメント指標が有効なのかを探っていきます。

※本内容は、2012年9月に取材した内容をもとに構成しています。
記事内における数値、組織名、役職などは取材時のものです。