東芝グループは、自社の体型センシング技術や体型フィッティング技術を用いた仮想試着システムの実証試験を開発。JR川崎駅西口直結の大型商業施設「ラゾーナ川崎プラザ」にて、実証実験を行った。仮想試着システムを設置した美容サロンから複数のアパレル店舗へ送客、異業種が連携して集客する新たな手法が仮説検証された。ファッション業界に新風を巻き起こすソリューションとして、仮想試着システムの実力が試されている。
- 実店舗への来客数の増加を模索する、アパレル業界や百貨店の課題に対し、異業種の連携により店舗に新顧客を呼び込み、売上げアップに貢献できるソリューションを検討。美容サロンとアパレル店舗の協力を得て、仮想試着システムの実証試験を実施。美容サロンは、パーソナルカラーを可視化して伝えられるツールとしてその効果に期待。アパレル店舗は、新たなターゲット層へのブランド認知と新規顧客の獲得に期待を寄せた。
- まるでフィッティングルームで洋服を試着するような感覚で仮想試着システムを利用してもらうことができ、美容サロンで働くヘアカラーリストのモチベーションアップにも大きく貢献。また、アパレル店舗ではこの実験に参加して来店した顧客の70%が新規という結果となった。異業種の連携による集客効果が今回の実験で実証された。
インタビュー全文
導入の背景
「ラゾーナ川崎プラザ」で仮想試着システムの実証試験を実施
2006年に開業した、JR川崎駅西口に直結する大型商業施設「ラゾーナ川崎プラザ」。ここは、三井不動産商業マネジメント株式会社が運営・管理を行っている。スペイン語で絆を意味する“Lazo”と地域を意味する“Zona”の合成語が由来のラゾーナ川崎プラザは、敷地面積およそ7万m2の中に大小あわせて約330の店舗や施設が集まって構成された複合施設で、「旅」「音楽」「食」をテーマに店舗運営やイベント開催に積極的に取り組む、日本のトップレベルの複合施設である。
ラゾーナ川崎プラザそんなラゾーナ川崎プラザを舞台に、東芝グループが開発した「仮想試着システム」の実証試験が行われた。仮想試着システムとは、東芝グループの持つ体型センシング技術と体型フィッティング技術を活用し、事前登録された複数ブランドの洋服を、利用者の体型にフィットさせながら仮想空間上で違和感なく自然な形で試着できるシステムだ。
導入の経緯
東芝グループが仕掛けた異業種が連携する新たな試み
仮想試着システムの送客効果を検証するためには、美容サロンやアパレルブランドからの理解と協力が必要である。
MEN'S GROOMING SALON AOYAMAby kakimoto arms
そこで仮想試着システムを設置する美容サロンとして声をかけたのが、1976年に東京・自由が丘で美容室を開業し、現在「kakimoto arms」ブランドで東京を中心に10店舗を展開している株式会社柿本榮三美容室(以下、kakimoto arms)だ。kakimoto armsは、地毛の髪色はもちろん、瞳や肌、唇などその人が生まれ持った“パーソナルカラー”を総合的に診断する専門のヘアカラーリストを日本で初めて誕生させた革新的なサロンであり、自分らしさを最大限に表現するヘアカラーリングの提案が同社の大きな特徴だ。
また、仮想空間上で試着する洋服やアクセサリーの商材提供を打診したのが、kakimoto armsを利用する顧客層にマッチした、ワールドのBISES OPAQUE、BAYCREWSのJournal StandardとIENA Slobe、そしてUrban Researchであった。ワールドは、国内有数のアパレルメーカーとして、直営店を中心とした小売事業をはじめ、全国の専門店への卸売事業や韓国や中国などアジアを中心にビジネスを展開している。
そして、仮想試着システムに向けて業種の異なる両社の協力を得るべく、東芝グループが双方をはじめ、数社にアプローチを開始した。
導入のポイント
異業種による、ストーリーの共有と連携
株式会社柿本榮三美容室広報・ブランディングマネージャー
村松 亜子 氏
今回の仮想試着システムの実証試験についてkakimoto armsの広報・ブランディングマネージャー 村松 亜子氏が期待したのは、顧客のパーソナルカラーにあった髪色の提案が、洋服などを通してイメージとしてはっきり伝えられるようになることと、新規顧客の増加だったと振り返る。「お客様個人が持つ肌や瞳の色などのパーソナルカラーは、ヘアカラーを決める上で大事なこと。もちろん、ファッションはトータルで考えるので、化粧や洋服もヘアカラーを決める上で重要な要素となります」。そこで仮想試着システムを使うことで、様々な洋服を試してもらいながら似合う色とは一体どんなものなのか、パーソナルカラーの持つ意味がしっかりとお客様に伝えることができると考えたという。他にも、近隣のアパレル店舗に仮想試着システムで試した洋服がきちんと在庫として存在していることも、異業種のコラボレーション環境としては新たな可能性を感じるものだと村松氏は評価。また、店舗リニューアルのタイミングと重なっていたこともあり、その目玉イベントとしても今回の実証試験に期待を寄せていたという。
kakimoto arms ラゾーナ川崎プラザ店の店長である遠藤 敬一氏は「雑誌に掲載されているスタイリングをそのまま求めるというより、今は自分らしさとは何かを問いかけてくるお客様が増えています。パーソナルカラー診断はその要望に応えるための重要な武器の1つです。その診断結果の付加価値として、お客様に洋服やメイクなどの提案は以前から行ってはいたものの、カラーリストごとにキャリアが異なり、個人差があったのが正直なところでした。でも、仮想試着システムによってカラーリストが持っている専門スキルをこれまで以上に活かすことができると考えたのです」とその意義について力説する。
株式会社ワールドオペーク丸の内
ストアスーパーバイザー
荒川 智子 氏
仮想試着システムに洋服を提供するアパレル店舗として、当時「BISES OPAQUE」のラゾーナ川崎プラザ店の店長だったワールドのオペーク丸の内 ストアスーパーバイザー 荒川 智子氏は、「本部の方から話を聞いたときは、仮想空間で試着ができる仕組みがあるということにまずびっくりしました。楽しそうな仕組みですし、仮想空間で私どもの洋服が試着されることをお客様が喜んでいただけるのであればぜひご協力したい。そして新たなお客様に私たちのブランドを認知して頂ける良い機会と考えました」と語る。
実際のプロジェクトでは、利用者が手元で洋服を選ぶためのタブレットアプリの開発や店舗に設置するバーチャルフィッティングシステムの制作など様々なものを同時進行で制作し、毎週木曜日に実施していた定例会のなかで進捗の共有を実施。実証試験の前には店舗スタッフを集めて操作説明会などを開催し、実験の根底となるストーリーを全員で共有していった。
それぞれの思惑が重なるなか、美容サロンとアパレル店舗、そして東芝グループという異業種による仮想試着システムの実証試験がスタートした。
導入の効果
美容サロンは単価アップ、利用者の70%がアパレル店舗を訪れる
仮想試着システムの流れとしては、事前に各アパレル店舗に専門のスタイリストが訪問し、カラーリストとともに登録するための洋服をピックアップする。次に写真撮影などを行い、洋服をあらかじめシステムに登録しておくことで準備は完了する。実際に顧客がkakimoto armsに来店した際には、カラーリストがタブレットを利用して顧客にヘアカラーを提案しながら色味を軸に洋服に関するアドバイスを実施、顧客自身がコーディネートしたものをサロン内に設置された大型ディスプレイに映し出し、その前に顧客を誘導してフィッティングしてもらうという仕組みだ。
この仮想試着システムで評価が高かったのは、フィッティングシステムの完成度だった。「体が動くと洋服も同じようにフィットした形で動きます。普段フィッティングルームに入ると体を左右に動かすものですが、まさにその特徴や癖を的確に捉えていました」と村松氏は評価する。「普段は洋服に髪の毛をあわせていくという順番だったものが、今回はヘアカラー発信から全体の洋服選びに繋がるという新しい流れが作れるものだと弊社の会長はじめ、全員が高く評価していました」と村松氏。
結果として、店舗のリニューアルなど様々な要素が関係しているものの、対前年度比で客数が300〜400名のアップ、ヘアカラー客数も伸びている状況で、この実験結果が実際の効果となって現れていると村松氏は評価する。
kakimoto armsLAZONA KAWASAKI PLAZA
店長 遠藤 敬一 氏
店舗側から見た仮想試着システムの効果については「カラーリストが持っている専門知識をいろんな形で提供できるいい機会でした。カラーリストのモチベーションも上がりお客様の満足度にも貢献していると考えています」と遠藤氏。すでに実証試験が終わって数ヶ月が経過しているが、未だにお客様の方からこの実証実験で体験した時の話題が上がり、笑顔となることもあるという。また、「新たな試みとしてアパレル業界の方が新規としてお越しいただく機会が増えました。アパレル業界も差別化が難しい時代ですので、業界として注目を集めていたことも功を奏しています」と遠藤氏は評価する。
アパレル店舗としての効果については、「実験開始当初からクーポンの活用が徐々に増えていき、後半になると洋服を指定して見に来られる方も。そこでお客様との新たなコミュニケーションが生まれる機会も増えました。これまで着たことのないジャンルの洋服に挑戦したいと考えている方も、普段はなかなかその一歩が踏み出せないものです。パーソナルカラー診断に基づいた仮想試着システムは、新たなチャレンジに背中を押してくれる素晴らしい仕組みだと感じています。これはお客様からも頂戴した言葉でした」と荒川氏は評価する。実際にクーポンを利用した方の70%はこれまで同店舗を利用したことのない新規顧客という結果が出ており、「今回はスタイリングを見てショップを知ってもらうことができました。新たなショップ認知の手段としても効果があったと感じています」と荒川氏。スタイリングを意識してか、単品での購入よりもセットで購入するセット率も向上しているという。
また荒川氏は「商品を1度に2〜30アイテム程度お貸し出ししていましたが実際に掲載する商品の在庫を日々確認して表示を変えて貰うよう工夫をお願いしました」と語る。また、タブレットに表示されている商品を常に意識しながら接客を行うことでお客様とさらなるコミュニケーションを図ることが出来たという。
なお、東芝グループのサポートについては「洋服の選定などの事前準備やスタッフへの教育部分もスムーズでしたし、操作をするお客様もすぐに使いこなしていました。副次的な効果として、現場で一丸となったチームワークを実感できたことにも大変感謝しています」と遠藤氏。村松氏は「東芝ソリューションは、何かあればすぐに駆けつけてくれました。充実したサポートがあったからこそ実証試験を成功させることができました」と評価も高い。
将来展望
継続してチャレンジを希望、異業種が連携することの有効性を確信
株式会社柿本榮三美容室広報・ブランディングマネージャー
村松 亜子 氏(左)
kakimoto arms
LAZONA KAWASAKI PLAZA
店長 遠藤 敬一 氏(中央)
株式会社ワールド
オペーク丸の内
ストアスーパーバイザー
荒川 智子 氏(右)
今後について村松氏は「店長会議や全社員の前で今回の実証試験の話をすると、各店舗からうちもやりたいと言う声が上がってきました。機会があればぜひまた挑戦したいですね」と語る。遠藤氏は「大きな商業施設に入っているのは、異なる店舗同士が連携できるチャンスでもあります。今回の実証試験で異業種連携が有効であることが確信に変わりました。異業種がコラボレーションして新規顧客の創出に効果を出すという新たな価値をもっと広げていきたいですね」と語る。
荒川氏も同様に「女性はトータルで綺麗になりたいという願望があります。今回のような仮想試着システムで新たなスタイリングを体験できるような、お客様の背中を押してくれる仕組みがもっと増えてくることを願っています」と語る。
ファッションおよび美容業界に新風を送り込んだ東芝グループの仮想試着システムは、異業種を繋ぎ、新たな集客の手段となるべく、今後も進化していく。
お客様の企業情報
- 会社名:
- 株式会社柿本榮三美容室
- 設立:
- 1976年
- 代表者:
- 代表取締役社長 柿本 哲
- 本社所在地:
- 東京都港区南青山5-6-10-601
- 事業概要:
- ヘアサロン kakimoto arms、メンズグルーミングサロンの経営
- URL:
- http://www.kakimoto-arms.com/
- 会社名:
- 株式会社ワールド
- 設立:
- 1959年1月13日
- 代表者:
- 代表取締役社長 寺井 秀藏
- 本社所在地:
- 神戸市中央区港島中町6-8-1
- 事業概要:
- 婦人・紳士・子供服等の企画販売
- URL:
- http://corp.world.co.jp/
この記事内容は2014年9月10日に取材した内容を基に構成しています。記事内における数値データ、組織名、役職などは取材時のものです。