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社員インタビュー

在庫と需要予測に基づく輸配送業務改善を実現
「輸配送の最適化」で描く未来とは?

 デジタル技術を活用した各種ソリューションの提供からデジタルビジネス戦略に関するコンサルティングを手掛ける東芝デジタル&コンサルティング株式会社(以下、TDX)は、2018年に設立された。鉄道やエネルギーなど業界別にデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)によるビジネス変革を支援している。今回、物流デジタルトランスフォーメーション推進部のシニアコンサルタント 畑福 康人およびシニアソリューションアーキテクト 島村 千鶴子に、物流の荷役・輸配送部分に関するDX推進の取り組みについて聞いた。

東芝グループにおける物流の取り組み

 商品や部品を届けるために欠かせない物流。サプライチェーンの一部として、ものの発生から消費までを効率よく循環させる重要なプロセスとして、物流はさまざまな進化を遂げてきた。そんな物流領域での課題解決に貢献してきたのが、東芝グループが手掛ける物流デジタル事業である。

 TDXには、鉄道やエネルギーなど東芝グループが注力する業界ごとにDX推進を支援する部署がある。その1つが物流業界向けにDX化を推し進める物流デジタルトランスフォーメーション推進部だ。畑福と島村が所属する同部では、デジタルトランスフォーメーション(ビジネス変革)の前段階であるバリューチェーンのデジタル化、いわゆる「デジタルエボリューション」を担当。主に在庫と需要予測に基づく荷役・輸配送計画を通じて物流の最適化を図る『物流戦略支援サービス』、つまり業種に関わらず物流事業者の視点でコンサルティングを実施し、価値を還元していく事業を展開している。「収益改善や新たな事業創出の際に、単なる企業戦略コンサルという視点だけではなく、経営課題解決のためのサプライチェーン改革を見据えた物流戦略を重要視するお客さまが増えており、物流としての知見が求められます。ここが、私たちに大きく期待されている部分であり、東芝の強みだと思います」と畑福は語る。

■図1:お客さまと実現する、戦略的共創

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輸配送の最適化への取り組みとその効果

 現在、多くのお客さまとプロジェクトを進めている。「例えば、物流倉庫の統合を計画していたお客さまでは、物流ソリューションだけでなく、物流センターでの再生可能エネルギーの活用などの新規案件などに発展した例もあります。また、輸配送業務改善による利益創出を狙い、輸配送の最適化についてのPoC(Proof of Contept)を実施した例もあります。その効果が具体的に示されたので、次のステージにステップを進めたところです」と島村は語る。

 「輸配送の最適化」とは輸配送ルートの最適化により手配する車両を減らすことで物流を効率化し、さらに締め時間を調整して緊急傭車(ようしゃ)を最小化するなど、コストが抑制できることをお客さまに提言することが可能になること。単に荷主から指定された時間を守るということだけでなく、このようにすればコストを抑制した輸配送が可能であるということをシミュレーションデータに基づきロジカルに提案、調整していくことが重要なポイント。荷物を届けるに当たっては、自前のトラックで輸配送する場合もあれば、荷物の物量や荷姿に応じて宅配便や路線便、チャーター便などを使い分ける場合もある。これまでは、経験豊富な熟練者が持つ匠の技を駆使して輸配送ルートを決定し、どんな便を組み合わせれば最適な輸配送が可能なのか、多くの輸送会社は経験則で決めていた。

島村 千鶴子氏

物流デジタルトランス
フォーメーション推進部
シニアソリューションアーキテクト

島村 千鶴子氏

 しかし、この匠の技に代わり、特定のアルゴリズムや配車シミュレーションを通じて最適解を導き出すことで物流を効率化する取り組みが、輸配送の最適化に向けた手法の1つとなっている。例えば従来100台のチャーター便が必要だったところを、シミュレーションによって10%減らすことができれば、1台3万円換算のチャーター便で1日あたり30万円、1年間に1億円強のコスト削減が可能になるという計算だ。「自前で物流網を持つ物流事業者などであれば、減らせた車両で別の荷物を運べるようなるため、売上拡大にも貢献できるのです」と島村は力説する。

 また一般的には、荷主が希望する締め時間に応じて物流事業者が最適な便を手配しておくが、タイミングによっては急に物量が増えてしまうことがあり、その場合は締め時間に間に合わせるために緊急傭車をチャーターせざるを得ない。この緊急傭車は通常の便よりも高額で、繁忙期にはさらに費用がかかってしまう。実はこの緊急傭車が日常的に発生しているケースが少なくないため、荷主と締め時間を事前に調整して最適な配車計画を立てることで、余計なコスト増を抑制できるようになるのだ。

畑福 康人氏

物流デジタルトランス
フォーメーション推進部
シニアコンサルタント

畑福 康人氏

 これらの施策の背景には、労働環境を改善していくための働き方改革も関係していると島村は指摘する。「ドライバー不足で車両確保が難しい場面が増えている上、輸配送指示が依頼元から届いてから数時間のうちに配車計画や車両の手配を行わなければならない配車係にも結果として負担や責任が重くのしかかってしまっているという実態もあります。そんな課題を解決すべく、現状を見える化し、シミュレーションによって最適化していくことで、業務改善につなげるのです」。

 物流改善の分析に必要な情報をデジタル化するには苦労も多いという。「デジタコ(*1)などからは輸配送距離や時間などのデータは取得できますが、輸配送分析に必要な肝心の荷量そのものの情報は十分にデジタル化されていないケースが見受けられます。また、積載率や実車率などの輸配送KPIなどが取得しにくいため、KPIを設定して管理するのが難しい点も業界における現状の課題」と畑福は指摘する。例えば野菜など季節によって荷姿が変わるような荷物の場合、適切な荷量の把握が難しい。そこで、ドライバー自身がスマートフォンのアプリから荷量を登録してデジタル化(見える化)するという試みもお客さまのご協力のもと実施、デジタル化の実現に向けたプロジェクトを推進しているという。

(※1)デジタコ:デジタルタコグラフ
自動車の走行時間や走行速度などの運行記録を自動的に記録し、メモリーカード等に保存するシステム

 なお、年間1億円ほどの物流費削減が見込まれている、前出の事例では、年間15%の輸配送コスト削減、配車計画作業の手法を変えることで、約540時間の配車計画の作業時間削減に寄与するといった効果も現れている。さらに「店着時間を調整することで28%ほどの輸配送コスト削減になったという例もあります。シミュレーションの効果を、輸送時の料金を決めるための指標の1つとして活用できれば、輸送会社の収益も変わってくるはずです」と畑福。

■図2:輸配送業務のDX

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輸配送の最適化で、日本の物流事業を変えたい

 「私たちは、物流費の高騰を抑制したいという強いニーズにデジタルでお応えしたいと思っています。物流費に占める輸送費の割合は6~7割ほどで、この部分にメスを入れることが物流費の削減にダイレクトにつながります。また、ドライバーの高齢化によって人材不足が顕著になり、効率的に運用していかなければならないという、業界の危機感の解決にも貢献できると信じています」と畑福は語る。島村も「物流業界の人手不足はドライバーだけにとどまりません。倉庫の立地条件によっては、倉庫までのアクセスが悪く、倉庫内の荷役に従事する人が確保できないという問題もあるのです。倉庫内の自動化を含め、物流の課題をしっかりと捉え、私たちの技術と知見で、お客さまを支援していきたいと思います」と熱く語る。

畑福 康人氏

 実は、海外に比べてデータの標準化が進んでいないなど、人材不足以外にも課題は山積だ。「標準化されている部分が多い海外のほうがスピード感のある仕組みが整備されています。消費者に届けるラストワンマイルは、日本のサービスの方が格段に優れていますが、これは、前段の処理に費用と時間がかかる上、時間通りに配達するという点で、全体的に高コストな仕組みにならざるを得ません。そして、このコストは物流事業者が負担しているケースが多いのです。だからこそ、できる限り標準化を推進し、そのプロセスをしっかりと落とし込んでいきたい」と畑福。

 二児の母親でもある島村は、今後も、デジタルによる効率化によって解決できるサービスの提供をしていきたいという。「物流に限らず、自分のやっている仕事が、20年後の子どもたちが担う社会に役立つような形にしたいという思いが強くあります。日本に暮らしてよかったと子ども世代が思える社会づくりの一端を担っていきたい。社会に貢献できることが仕事への大きな原動力ですね」と語る。

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全国規模のシェアリングや集中輸配送の基盤も担いたい

 畑福は「店舗に店員がいない、宅配ロボットが街中を走っている、物流センターも真っ暗で自動化されている環境がすでに中国では当たり前になっているところもあり、まさに物流デジタルトランスフォーメーションが日々実現されています。日本の品質は維持しつつ、中国に負けない自動化の領域に達するまで、その際の中心的な役割が果たせるよう、東芝グループとして全力で、積極的にアクションをしていきたい」という。

島村 千鶴子氏

 また、島村は、「今後は、各社が輸配送先や商品データを共有し、全国規模のシェアリングや集中輸配送といった仕組みが整備できれば理想的です。その基盤づくりを東芝グループとして担っていきたい」と意気込みを語る。川上から川下までに対応するような、サプライチェーン全体を網羅する標準的な仕組みは国内には未だない。それを実現するには、各社に利害関係が生じないよう、第三セクター等が運営するような仕組みづくりに向け、業界の関係企業が連携する必要があるのが現実だ。「難しい面は多々ありますが、東芝グループの総合力、技術力で、価値ある新しいものをどんどん生み出したい。そして一人でも多くのお客さまに使っていただけるような仕組みを作りたい。大きな視野を持って、業界の課題をデジタルで解決していきたい」と畑福。

 東芝は、今後さらにデジタル事業を加速させ、物流に関するコンサルで業界のお客さまの信頼を勝ち取っていく。社会をより良く変えていこうとしている彼らの活躍に、これからも期待したい。

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この記事の内容は2019年7月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、組織名、役職などは取材時のものです。

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