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コラム

[第10回] 2016年の金融トレンドを振り返る!(前編)
法改正による規制緩和で金融業の枠組みが大きく変化した1年

更新日:2016年12月12日

様々な出来事があった激動の2016年も、もう残りわずか。このコラムでは前後編の2回にわたり、金融や経済に大きな影響をおよぼした2016年のニュースやトレンドをピックアップして振り返る。前編となる今回は、主に改正銀行法や改正電気事業法といった法改正にまつわるトピックに注目。キーワードから見えてくる「2016年の金融業界」にあらためて思いを馳せてみよう。

国が本腰を入れてフィンテックの普及を推進した2016年

ここ数年、世界の金融界でもっとも注目を集めていたキーワードのひとつが、本コラムでも何度もご紹介してきた「フィンテック(FinTech)」だ。その名のとおり、「金融(Finance)」と「テクノロジー(Technology)」を融合させた造語で、IT、ICTを活用した金融サービスおよびその産業自体を指す。

巨大化・複雑化・国際化する金融サービスにおける数多の課題を解決するためには、新たなテクノロジーやそれを用いたソリューションが必要となる。また、フィンテックがもたらす恩恵はそうした既存の問題解決のみにとどまらない。これまでの技術では考えられなかったサービスの誕生や、それに伴う新たな市場開拓の可能性ももたらしてくれると期待されている。

日本政府や日本銀行もこうした動きには大きな期待を寄せており、フィンテック推進策に積極的に取り組んできた。2015年12月には金融庁がフィンテックに関する一元的な相談・情報交換窓口となる「FinTechサポートデスク」を開設。また、2016年4月1日には、日本銀行が決済機構局内に「FinTechセンター」を設立している。

FinTechセンターは、日銀の黒田東彦総裁によれば、「伝統的な金融業にとどまらない幅広い企業や、さらには学界などとの間での、建設的かつインタラクティブなコミュニケーション」のための「触媒」としての役割を持った機関だという。フィンテックというキーワードのもと、金融業界の枠組みにとどまらず横断的な動きとしてテクノロジーの開発・普及を支援することで、より大きな効果を目指していくという方向性が、政府や日銀によって示されてきたわけだ。

本コラムではこうした流れを受け、フィンテックベンチャーであるマネーフォワードに「フィンテックと銀行の関係」を伺ったり、金融ITフェア「FIT2016」のレポートをお届けしたりしてきた。

これらの取材を通して感じられたのは、フィンテックの多くは海外発のテクノロジーをベースにしたものではあるが、「日本固有の事情」に応じて急速な進化・発展を遂げつつあるということ。また、フィンテックといっても必ずしも企業会計や資産運用といった大掛かりなサービスばかりでなく、実は誰にとっても非常に身近なものでもあるということだった。

実際、現在話題になっているフィンテック系サービスの多くは、我々の生活を少し便利にしてくれるタイプのものが多い。マネーフォワードの例でいえば、個人のユーザーが“基本無料”の家計簿アプリを導入することで、お手軽に「銀行口座のデータと連動した正確な家計簿」を付けられるようになる。ほかにも、友達との割り勘を簡単に実現するSMILABLE社の少額決済サービス「アイムイン」など、生活に身近なフィンテックサービスを多く見ることができた。

今より少しテクノロジーを活用することで解決される課題は数多い。そうした情報や意識の共有や周知も含めて、フィンテックという言葉が普及、定着する意義は大きいといえるだろう。

規制緩和を受けて、各金融機関がフィンテックへの投資を加速

フィンテック関連で今年最大のトピックは、なんといっても2016年3月に国会に提出された「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案(銀行法等改正法案)」。金融庁の報告書に基づくこの一連の法案は2016年5月25日に可決され、改正銀行法が成立することとなった。

フィンテック法とも呼ばれる改正銀行法の内容は多岐にわたるが、その大きな目的は、時代に合わなくなってきた旧来の金融関連の枠組みを見直し、時代の実態に即した柔軟な運用が可能なルールに変えること。
その具体的な変更点として真っ先に挙げられるのが、銀行や銀行持ち株会社による事業会社への出資制限の緩和だ。従来の銀行法ではいわゆる「5%ルール(銀行が一般事業会社に出資する場合の上限を定めたもの)」と呼ばれる出資制限に加え、銀行の子会社に許される事業範囲も銀行業務のみに限られるなど規制が厳しく、銀行がITベンチャーに出資したり買収することも困難な状況があった。今回の改正では規制がかなり緩和されており、銀行グループがフィンテック企業に出資を行ったり、子会社として新たな業務展開を行うケースも増えていくことが期待される。

実際の改正法の施行はまだ先の話になるが、この動きを受けて今年はさっそく金融機関によるフィンテック関連企業への投資や提携、新会社設立などの明るいニュースが数多く見られた。

2016年5月11日には千葉銀行が子会社として「T&Iイノベーションセンター株式会社」を設立。これはもともとIBMの協力のもと第四銀行、中国銀行、伊予銀行、東邦銀行、北洋銀行とともに取り組んできた組織「TSUBASA金融システム高度化アライアンス」の流れを汲むもので、出資各行から出向者を受け入れ、フィンテックの調査・研究と金融サービスの企画・開発を行うという。
また、2016年11月に誕生したみずほ銀行とソフトバンクの合弁会社「J.Score」は、フィンテックを活用したレンディング(融資仲介)サービスを提供することを目的として設立された。設立時点では貸金業登録申請中で、2017年度前半から事業を開始する予定だ。

今後も金融庁が主導する形で、新たな金融サービスに対応するための法整備を進めていくことになる。2017年は銀行や保険会社など金融機関が主体となったフィンテック関連の新たな動きから目が離せない1年となりそうだ。

フィンテックだけじゃない! 電力自由化、Apple Pay上陸など激動の1年に

改正銀行法と並んで気になる法律関連のトピックが、2016年4月1日に施行された改正電気事業法(第2弾)。
いわゆる「電力自由化」が実現し、ソフトバンクでんき、東急でんきといった新電力サービスが一斉にスタートして話題となった。
金融ニュース的な観点から注目したいのは、電力の金融商品化だ。日本に先行して電力を自由化してきた欧州など諸外国では、電力を金融商品として扱うための市場整備を行っているケースも多い。日本でも経済産業省が主導する形で電力先物取引市場の創設が検討され、2016年5月には東京商品取引所にて電力先物市場の実証実験が行われた。しかし取引形態などの制度設計に時間がかかるため、電力先物の上場時期は2017年度に先送りされることとなった。これらの「エネルギートレーディング」の動きは、どうやら2017年の大きなトピックとなりそうだ。

最後に、2016年にスタートした最注目のサービスについても触れる。2016年10月25日から、AppleのiPhoneやiPadが決済サービス「Apple Pay」に対応。クレジットカードでの決済をiPhoneなどで行うことができるようになった。
Apple Payで注目したいのが、iPhoneをリーダーにかざすだけで決済ができる「非接触決済」ができること。財布からわざわざ現金やクレジットカードを取り出すことなく、交通機関でも店頭でもスマホをかざすだけで決済が済んでしまう快適さは、近い将来キャッシュレス化が急速に普及する可能性を感じさせてくれる。現在はまだApple Payに対応するクレジットカードやサービスは限られるが、もう少しインフラの整備が進めば、iPhoneのシェアが非常に高い日本だけに、一気にキャッシュレス化が進むのかもしれない。

本コラムでセキュリティの最新事情を伺ったジェムアルト社への取材で、同社の中村久春氏から「キャッシュレス化」「キャッシュカードとクレジットカードのIC化」が今後の大きな流れになるだろうという予測を伺った。この2つは、2020年に開催を控えた東京五輪に向けて経済産業省が強く推進しているという。五輪のために海外から訪れる世界中の人々に対応するために、あと3年の間にグローバルスタンダードであるキャッシュレス化とIC化を推進したいということだ。

来年以降、東京、ひいては日本全国の「決済システム」が一気に改革されていくことになるのかもしれない。金融機関も、変容する新たなシステムやサービスに対応していくことが求められるだろう。

余談だが、キャッシュレス化で先行するアメリカでは、Amazonによる次世代の店舗型サービス「Amazon Go」が2016年12月5日に発表された。
これは「レジでの行列」どころか「レジでの会計」そのものを不要とする画期的なサービスで、入店時に無料のAmazon Goアプリでチェックインすれば、後はレジでの精算など一切せず、欲しい商品を持ったまま店を出れば良い。持ち帰った商品の支払いは、Amazonアカウントに自動的に課金される。「どの商品を何点持って店を出たか」の判定には最新のAI技術が用いられている。
この衝撃的なサービスを展開する店舗は、まずAmazon社員のみを対象にベータ公開されたのち、2017年から正式オープン予定だという。

後編ではマイナス金利の導入に始まる日本経済全体の動向について振り返る。

ライタープロフィール

ライター:上野 俊一
ゲーム雑誌編集者、音楽制作雑誌編集者、VR雑誌編集者、フリーライターを経験。特にデジタルエンタテインメント分野に詳しい。最近はFinTech関連の記事を多く執筆している。


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