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コラム

[第7回] フィンテック企業に聞く、API連携が見据える金融の未来

更新日:2016年10月24日

テクノロジーの力を活用し、金融サービスに新しい風を吹き込む「フィンテック(FinTech)」。2016年5月、フィンテック推進を目的とした「改正銀行法」成立を受けて、銀行とIT企業のさらなる連携強化が期待されるなか、金融機関による「API(Application Programming Interface)」の公開・活用の動きが活発化している。APIをIT企業に提供することで、金融サービスはどのように変わるのか。日本初となる銀行の公式API連携を実現させたフィンテック企業の株式会社マネーフォワード・内波生一氏に話を聞いた。

株式会社マネーフォワード アカウントアグリゲーション本部 本部長・内波生一氏

ユーザー目線から、いち早くAPI連携に取り組んだ住信SBIネット銀行

API連携とは、あるWebサイトのプログラムを公開し、外部のシステムやサービスと連携する仕組みのこと。銀行においては、金融機関が保有するユーザーの残高や入出金明細といった情報を、ユーザーの同意のもとで外部企業に提供する動きなどを指すことが多い。これによって、ユーザーは提携先企業のサービスを利用する際にログインIDやパスワードを預けることなく正確な口座情報を照会できるようになり、銀行と提携先企業も新たなサービスを迅速に開発することができるようになる。

自動家計簿サービスやクラウド型会計ソフトを開発・提供している株式会社マネーフォワードは、2016年3月に住信SBIネット銀行とのAPI連携を発表。住信SBIネット銀行の顧客向けの自動家計簿サービス「マネーフォワード for 住信SBIネット銀行」では、ユーザーがログイン情報を入力せずに口座残高や入出金履歴などを確認できるようになり、データ取得の正確性と利便性の向上につながった。

住信SBIネット銀行の公式APIの提供は、日本国内における初めての試みとなるだけでなく、世界的にも先進的な取り組みとして注目され、メガバンクや地方銀行も続々と外部企業とのAPI連携の検討を開始するなど、ここ数ヶ月の大きな盛り上がりの火付け役になったともいえる。

同社でAPI連携サービスをはじめとした、ユーザーの金融機関データを集約・情報化するシステムを担う内波氏は、これまで前例のなかった銀行API提携に着手した経緯をこのように述べる。

「世界のほとんどの個人資産管理(PFM)サービスが、“スクレイピング方式”という技術を使って、ユーザーの口座情報などを取得しています。これは、PFMサービス提供者がユーザーから金融機関のログイン情報を預かり、口座データなどを参照するというもの。弊社の家計簿サービスもスクレイピング方式を採用しています。

しかし、この技術ではオンラインバンキング側の画面デザインが変更された場合などに連携がうまくいかないことや、事業者にログイン情報を預けることに対するユーザー側の精神的な負担が大きいなどの課題があります。それを乗り越える方法としてAPI接続が有効であることは、創業時から視野にありました。そして、弊社サービスの需要が高まるなかで、銀行様にもAPIを公開するメリットをご理解いただけたことが、プロジェクトの実現につながったのだと思います」

同社のサービスを利用するユーザーが増えていくと、銀行のオンラインバンキングへのスクレイピング回数が増えるので、必然的にサイトへの負荷も増加していく。また、銀行側としても第三者が顧客のログイン情報を使って自行の口座データにアクセスしている状態を、公に推進するわけにはいかない側面もあったのかもしれない。

その一方で、外部サービスのユーザーが増加していったという事実は、そこにユーザーが求めるサービスが存在することを示しており、銀行側にとっても大きなビジネスチャンスがあると考えられる。それをいち早く理解し、推進していた銀行のひとつが住信SBIネット銀行だという。

「住信SBIネット銀行様は、日本にフィンテックという言葉が浸透する前から、よりユーザーメリットのあるサービスを提供すべきという考えで、弊社との業務連携を前向きに進めてくださっていました。そこで、よりセキュアな状態で、より両社の負荷が少なく、何よりもユーザーにとって使いやすいサービスを提供するために、公式APIの連携が採用されたのです」と内波氏は述べる。

銀行のメリットは、コミュニケーションの“面”が増えること

マネーフォワードと住信SBIネット銀行は、2015年8月に業務提携を発表。API連携の基盤となるPFMサービス「マネーフォワード for 住信SBIネット銀行」を公開したのが同年12月、そしてAPI連携がスタートしたのが2016年3月と、開発からリリースまでのスピード感も注目に値する。

「弊社としては、もともとAPI連携を視野に入れた技術基盤を構築してきたので、スクレイピング方式からAPI接続に移行するのはそこまで難しくありませんでした。それよりも、住信SBIネット銀行様のスピード感には驚きましたね。積極的に協力してくださり、そのおかげでサービス開発からAPI連携までをスムーズに進めることができました」と内波氏。

ユーザーのニーズを瞬時に酌み取り、どの競合よりも早くサービスの開発・リリースにつなげるスピード感は、フィンテック企業の魅力のひとつ。その一方で、銀行側はコンプライアンスや意思決定の複雑さから、フィンテック企業の業務スピードに対応できないというジレンマがある。ネット銀行とはいえ、住信SBIネット銀行の対応の早さにはフィンテック企業も驚くものがあり、それが日本初のAPI連携を実現した要因のひとつだろう。

この提携によって、ユーザーは外部サービスで安全かつ手軽に銀行の情報が閲覧できるようになり、常に最新のデータを活用することでより正確な家計簿を構築できるようになった。そして、ユーザー利便性の高いサービスを提供できるようになることは、マネーフォワードだけでなく住信SBIネット銀行にとっても大きなメリットがある。

「銀行様にとっては、“マネーフォワード”という新しい“面”を手に入れられたのが大きいのではないでしょうか。インターネット上におけるユーザーとのコミュニケーションが重要視されるなか、APIを連携することで自行のWebサイト以外にもユーザーと接触する場所が作れるようになります。“残高が見られるようになった”、“入出金が見られるようになった”ということ自体が価値なのではなく、そうなることで自分たちがユーザーに提供したいサービスを、いろんな場所でできるようになることが、API連携の大きな利点なのです」

“ユーザーファースト”のサービス実現に、API連携は欠かせない

2016年5月の「改正銀行法」成立により、これまで5%までに制限されていた銀行の一般企業への出資が、条件付きではあるものの制限を超えて出資できるようになる。日本政府も銀行APIのあり方を盛んに議論している段階で、API連携の波は今後、ますます勢いに乗ることが予想される。

マネーフォワードとしても個人・法人を含めると既に4行の銀行とAPI連携を実現しており、これからもユーザー目線のサービス開発のために、引き続きAPI接続に力を入れていくという。内波氏は、API連携が今の時代に必要とされる理由について、このように話す。

「便利で新しいサービスが次々に生まれる今の世の中では、一回ウェブサイトやアプリを作ったとしても、常にそれを進化させ続けないとユーザーの期待には応えられません。そのような状況下での開発のスピード感やコスト感を考えると、内部開発や外部委託の開発だけではなかなか厳しいものがあると思います。

一方、自分たちのAPIを外部に公開していくことで、自行のデータを活用した新しいアイデアが集まってきて、より便利なサービスを短期間で開発・公開できるようになる。それが結果的に自行のユーザーの期待に応えることになり、ときには潜在的なニーズを掘り起こすことにつながるかもしれません。外部のサービス提供者の力を活用しながら、自行のプラットフォームとしての価値を高めていくことができるのが、API公開における大きな可能性ではないでしょうか」

最後に、API連携によってユーザーの日常はどのように変わるのか、内波氏はこのように答えてくれた。

「銀行でいうと、“銀行のサービス”と“銀行以外のサービス”という境界線が薄れていき、より身近に銀行サービスを享受できるようになると思います。今、多くの人にとって“銀行”は遠い存在だと思うんですよ。ATMでお金を引き出すときがほとんどで、密接に関わるのも住宅ローンを組むときぐらいです。でも本当は“ファイナンス”って、人びとの日常生活と密接に関係するもので、それこそ家計簿から保険、資産運用まで、より人生を豊かにするために欠かせない分野ですよね。それを、ユーザーにわかりやすく使いやすいサービスという形で提示することで、銀行が持っている価値をいろんな場所で、簡単に使えるようになります。

ユーザーがあるサービスを利用しているとき、“今、私は銀行を利用しているんだ”という意識はないけれど、実質的には銀行サービスが利用されている。そのくらいユーザーの日常に銀行が浸透すると、ユーザーにとっても、銀行さんにとっても、私たちフィンテック企業にとってもうれしいことなのではないかと思います」

<プロフィール>
内波生一:ニュートリノ物理学を専攻、博士(理学)取得。その後、ITベンチャーでのインターンを経て、アクセンチュアにてエンジニアとしての経験を積む。2014年12月よりマネーフォワードに参画し、サービス基盤となるアカウントアグリゲーション技術の構築、開発に従事。現在はアカウントアグリゲーション本部にて本部長を務める。

ライタープロフィール

ライター:松山 響
大手広告代理店や電気通信事業者のオウンドメディアにて、取材・ライティングを担当する。若者の実態調査、地方創生プロジェクトに関する記事を継続して執筆。また、生協の週刊情報誌の編集に創刊から携わり、食と安全にも明るい。


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