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コラム

[第5回] フィンテック研究所長が語る
フィンテックと銀行 共存共栄の道

更新日:2016年9月15日

「フィンテック(Fintech)」とは、「金融(Finance)」と「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語。ITを活用した金融サービスの新しい動きとして大きな注目を集めている。従来の金融のあり方に変革をもたらすフィンテックは、既存の金融機関のビジネスを破壊する“脅威”として語られることもしばしばある。しかし、これまでにもATMの導入やインターネットバンキングなど、金融産業はテクノロジーの発展とともに、より便利なサービスを開拓してきた。では、今後フィンテックが世の中に浸透していくなかで、金融機関にできることは何なのか。フィンテックベンチャーである株式会社マネーフォワードの取締役Fintech研究所長・瀧俊雄氏に話を聞いた。

株式会社マネーフォワード 瀧俊雄氏

規制緩和が金融機関にもたらす、新たなビジネスチャンス

「金融×テクノロジー」という観点でいえば、金融は古くからコンピュータの高性能化やインターネットの普及など、テクノロジーの発展といっしょに成長を遂げてきた産業である。しかし、ここ数年で「金融×テクノロジー」の動きは「フィンテック」と呼ばれるようになり、世の中に広く浸透している。その背景について、瀧氏はこのように述べる。

「2014年に、フィンテック企業と分類されるスタートアップベンチャーが、全世界で120億ドルを調達しました。この金額は、それまでの3~5倍に相当するもの。このインパクトから既存の金融サービスがテクノロジーによって大きく変革されることが期待され、その産業に新しい名前が付けられたのです」

実際に、日本政府も規制緩和をはじめとしたフィンテック推進策に乗り出し、国内のスタートアップも多数生まれている。自動家計簿・資産管理サービスやクラウド型会計ソフトを開発・提供している株式会社マネーフォワードも、フィンテックベンチャーのひとつ。現在、会員数は400万人を超え、金融機関と業務提携を結ぶなど、急成長を遂げている業界の注目株だ。

スタートアップが革新的な金融サービスを開発し、フィンテックという言葉が流行り出した当初、ビル・ゲイツの「今ある銀行は必要なくなる」という発言に象徴されるように、「既存の金融機関VSフィンテックベンチャー」という対立構図が描かれることも多かった。しかし、瀧氏は「フィンテックは金融機関にとっても大きなビジネスチャンスであり、近年その機運も高まってきている」と述べる。

「以前から、Yahoo!や楽天など大手ECサイト事業者のクレジットカードや電子マネー、イオングループのイオン銀行やWAONカードなど、ユーザーの生活圏に対するパワーを持っている企業が営む金融産業は、満足度が非常に高いことが注目されていました。当然、既存の金融機関もそのようなプレイヤーと組んで、自分たちのサービスをよくしたいという思いはありましたが、一般企業への出資が法律で5%までに制限されていたのが大きな壁でした」

しかし、2016年5月に「改正銀行法」が成立したことで、今後は条件付きではあるものの、銀行から一般企業へ制限を超えた出資ができるようになる。

「ITの世界では、提供するサービスが優れていることはもちろん、わかりやすさやスピード感も生き残るうえで重要です。わかりやすさとスピード感は、従来であればベンチャー企業でないとなかなか提供できなかったのですが、今回の法改正で出資できるようになれば、金融機関も自らのブランドで、誰もが簡単に利用できるサービスを、すばやく提供できるようになる。競合との差別化が難しい金融業界だからこそ、そこに大きなチャンスがあると思うんです」

ユーザーの肥えた目に応えることが、金融サービスの課題

フィンテックとひと口に言っても、入出金情報などをワンストップで見える化するPFM(Personal Financial Management)サービスや、クラウド型の会計サービス、ビッグデータ解析やAI技術を駆使した資産運用サービス、保険サービスなど、その広がりは多岐にわたる。それぞれの分野で抱えている課題や今後の可能性は異なるが、フィンテックというイノベーションに共通して注目すべき2つのポイントがあると瀧氏は語る。

「ひとつが、スマートフォンの普及によるユーザー意識の変化。例えば、昔は冷蔵庫を買うときは複数の店舗に足を運び、性能などについて説明を受け、店舗ごとの価格を比較検討していました。しかし今は、比較サイトなどで誰もがどこでも、ストレスなく自宅に適した冷蔵庫を探すことができます。それに応じて、スマートフォン上のサービスもより直感的でわかりやすく、すぐに問題解決につながるものが求められるようになりました。

そのような利便性とわかりやすさに慣れたユーザーの目に、金融サービスが応えられなくなりつつあるということです。アプリの動作が重たいことや、暗証番号が複雑であることにはセキュリティ上の理由があるのですが、それを一般の消費者は考えない。言うなれば、Amazonや楽天など世の中のあらゆるサービスの中のひとつとして、金融サービスが見られているのです。

もうひとつが、送金や投資を気軽にできるアプリが増えてきているということ。日本ではまだLINE Payぐらいしか目立ったものはありませんが、海外だと送金や資産運用、投資を誰もが簡単にできるアプリが続々と登場しています。

これは金融以外の分野にも言えることですが、いろいろなサービスや機能を詰め込んだアプリよりも、できるだけ目的を絞ったアプリのほうが世の中に受け入れられる傾向にあります。例えば、株しか投資できない投資アプリでも、株で最高のエクスペリエンスを提供できるなら、そっちのほうが消費者にとってうれしかったりするのです。その一方で、銀行は預金も投資も保険も…というクロスセルが当たり前の世界なので、それらのサービスを全部詰め込むと、非常にモサッとしたアプリができあがってしまう(笑)。今のアプリの潮流は、実は既存の金融機関が不得意としている部分なのです」

ツールの“手触り実感”から、ユーザーの悩みや潜在的ニーズを発見する

目の肥えたユーザーの金融サービスに対する期待値と、従来の金融機関のサービス形態との乖離を改善すべく、マネーフォワードは静岡銀行や東邦銀行などの地方銀行と業務提携を結び、両社の資源を活用した新しいフィンテックサービスの共同開発を先駆けて進めている。なかでも、2016年3月に住信SBIネット銀行との間で始まったAPI提携は、日本で初めてのケースとして話題を呼んでいる。銀行APIを活用することで、ユーザーの同意のもと、よりスピーディかつ正確にユーザーのデータを収集できるようになり、より質の高いPFMサービスを提供できるようになるのだ。

「API提携は、ユーザーのデータはユーザー自身がもっと便利に使えるようになるべきだという世界観が根底にあります。住信SBIネット銀行さんは、APIを連携していくのはインターネットビジネスとして当然であり、自社のバリューを向上させるためにも必要な取り組みだと考えてくださいました。このような動きがもっと活性化すれば、ユーザーファーストの視点に立った金融サービスがどんどん増えて、ユーザーの金融サービスに対する満足度は格段に上がるはずなんです」と瀧氏は話す。

また、同社は2016年8月に、北九州市、北九州銀行、みずほ銀行とフィンテックを活用した地方創生プロジェクトの連携協定を締結。会計ソフトをはじめとした「MFクラウドシリーズ」を利用して業務効率の向上と経営改善を図り、雇用の創出や人口流入にも取り組む予定だ。このように、地域経済の活性化という観点でもフィンテックにできることはたくさんあると瀧氏は語る。

「お金だけでなく、人材のリソースも少ない地域社会において、少なくとも業務効率化や生産性の向上にフィンテックを役立てることができます。例えば、地方の山間部に住んでいて銀行店に通うのが大変な高齢者向けにビデオチャットを導入するだけでも、それは立派なフィンテックなんです」

では、これから銀行マンが自分の抱えている案件やサービスにフィンテックをとり入れようと思ったとき、どんなことから始めればよいのだろうか? 瀧氏はこのようにアドバイスしてくれた。

「フィンテックをトレンドとして捉えるのではなく、まずは自分たちが抱えている顧客に対する最大の課題は何かを考えることが大切です。“昔に比べてお客さんが相談してくれなくなった”という悩みを聞くことがよくあるのですが、それはつまるところ、ユーザーがその場でやりたいと思ったものがその場にないことや、ユーザー自身が気付いていない潜在的なニーズを提供できていないことが原因だと思うのです。その“提供できなかった何か”を届けられるようになれば、ユーザーはそこにきちんと手数料を払ってくれます。

そして、その“相談してくれない悩み”や“潜在的なニーズ”は、ビックデータに限らず、家計簿ツールで発見できるかもしれないし、もしかするとGoogleアナリティクスを見るだけでもわかるかもしれない。Skypeを導入するだけで解決できるかもしれない。それはフィンテックではないかもしれないですが、私はそれでいいと思っています。つまり、ある目的のために使えるツールを考えて使っていくことが重要なんです。

でも、それを組織の中でいきなり導入するのは難しいですよね。だからこそ、ぜひ普段から身近にあるツールやアプリを自分で使ってみて、“手触り実感”を大切にしてください。テクノロジーが金融に役立つのは今に始まったことではなく、昔から自明のことです。ただ、かつては敷居が高く感じられたツールが、今は安い値段や無料で手に入り、誰もが簡単に使えるようになったということ。たとえ安価なものであっても、技術的には大したことのないものであっても、“これ、何かに使えないかな?”と発想することが新しい発見につながるかもしれません。

金融は苦しい産業だとずっと言われてきましたが、それは付加価値を出しにくい商品やサービスを扱っているからで、逆説的には付加価値さえ出せればしっかりと利益を生み出すことができる産業ということです。そこにテクノロジーが貢献できる可能性は十分にあるので、ぜひフィンテックを有効活用してください。そして、みなさんもしっかり利益として頂ければと思います」

<プロフィール>
瀧俊雄:株式会社マネーフォワード取締役Fintech研究所長。2004年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究に従事。スタンフォード大学MBA、野村ホールディングスCEOオフィスを経て、2012年よりマネーフォワードに参画。2015年、マネーフォワードFintech研究所長に就任。

ライタープロフィール

ライター:松山 響
大手広告代理店や電気通信事業者のオウンドメディアにて、取材・ライティングを担当する。若者の実態調査、地方創生プロジェクトに関する記事を継続して執筆。また、生協の週刊情報誌の編集に創刊から携わり、食と安全にも明るい。


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