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コラム

[第4回] 成功のカギは、市民にとって“本当に必要なもの”を考え抜くこと
シビックテックの可能性(後編)

更新日:2016年8月29日

市民が主体となってITの力を活用し、住んでいる地域や身の回りの課題を解決する「シビックテック」。前編では、国内外における運動の歩みや、地域社会や公共のあり方を変革する可能性について述べてきた。では、実際に日本ではどのような活動が行なわれているのだろうか。日本のシビックテックを牽引する「Code for Japan」の事例を紹介する。

市民の課題解決“だけ”に特化した、シンプルなアプリ

「Code for Japan」には、全国約40か所に「ブリゲード」と呼ばれる公認コミュニティが存在し、各地で地域が抱える課題を解決するための活動を展開している。そのなかのひとつ、石川県金沢市を拠点にITサービスの開発やシビックテックの普及に取り組んでいるのが「Code for Kanazawa 」。革新的なアプリ開発やイベント開催を活発に行う、「Code for」の代表的なブリゲードである。その「Code for Kanazawa」の名が全国に広まるきっかけとなったのが、ゴミの捨て方がわかるスマートフォンアプリ「5374(ゴミナシ).jp 」だ。

当時、金沢市はゴミ収集の区分けが複雑だったため、いつ、どんな種類のゴミを出せばいいのかがわからない人たちや、正しいゴミの出し方をなかなか覚えられずに困っている人たちがいた。そこで当団体は、金沢市が公開しているゴミの出し方に関するデータを活用し、市民の課題を解決するアプリの開発に着手する。

アプリの機能は以下の2つ。
・ゴミのジャンルを色分けで表示
アプリを立ち上げた時点で一番近いゴミの日とゴミのジャンルを上から順に表示する。
・捨てることが可能なゴミを表示
ゴミのジャンルをタップすると、捨てられるゴミの一覧を見ることができる。

さらに、このアプリにはもうひとつの仕掛けがある。それは、金沢市以外の地域でも使えるようにソースコードを公開したことだ。コードの設計も非常にシンプルで、ゴミ収集日のデータを好きな地域のものに入れ替えて、そのデータに合わせてプログラムやデザインをカスタマイズするだけ。ソフトウェア開発に関する知識が少しあれば、簡単に自分たちの地域にあったゴミ出しアプリが作れてしまう。結果として、70以上もの地域にアプリが普及。なかには、自治体の公式アプリとして採用されたケースもある。それらの功績が認められ、「5374.jp」は「2013年度オープンデータ流通推進コンソーシアム優秀賞/OKFJ賞」や「アーバンデータチャレンジ2014ソリューション部門賞」など、数々の賞を受賞している。

このアプリの素晴らしいところは、「ゴミの日がわからない」「正しいゴミの分別がわからない」という課題を解決することに特化している点だろう。市民から必要とされていない機能は一切つけずに、誰もが使えるシンプルさが、ここまで普及した要因だと考えられる。

「5374.jp」は現在、事業化に向けた準備を進めている。従来の機能に加えて、ゴミを捨てる日が近づくと事前にお知らせしてくれるPUSH通知機能や多言語対応、いらなくなったものを捨てる人と欲しい人をつなげるリサイクルサービスなどをパッケージ化したプロフェッショナル版を開発し、全国の自治体に年間契約で提供するという。その際、各地域の環境系NPOや地元企業を事業パートナーとして迎え入れ、運用を協働で進めるという動きも予定されている。このように、地元の団体や企業と協力し合ってビジネスを生み出し、利益を地域コミュニティにも還元する姿勢は、「市民の力で街を元気にする」というシビックテックの考え方が具現化された好例だ。

とことんユーザー目線にこだわり、“本当に必要なもの”を生み出す

「Code for」の取り組みでもうひとつ、大きな話題を呼んだプロジェクトがある。それが、北海道札幌市を拠点に活動している「Code for Sapporo 」が2014年に公開した「さっぽろ保育園マップ 」だ。これは、自治体のオープンデータを活用して、札幌市にあるすべての認可保育園、認可外保育園、そして幼稚園をWeb上でひとつの地図にまとめたもの。保育園のアイコンをクリックすると、開園時間などの情報が表示され、ポップアップ内の保育園名をクリックすると保育園のサイトにリンクする。ある地点から一定の距離にある保育園もわかり、公立小中学校の学区を表示すれば、お兄ちゃんやお姉ちゃんの学校も考慮しながら保育園を探せる。さらに、一時保育や夜間保育の有無などを絞り込める検索機能付き。保育園・幼稚園探しに必要な情報や機能がほぼ完璧と言っていいほど備えられている。



自治体のホームページにも保育園に関する情報は掲載されているものの、ひと目で位置情報のわかるマップがない。保育園と幼稚園は管轄機関が異なるので一元化された情報がない。育児に追われながら、子どもの預け先をゆっくり精査する時間がない……など、保育園探しに悩む親の負担を少しでも減らしたいという思いから誕生したこのサービスは、公開後すぐに大きな反響を呼び、様々なメディアにも取り上げられた。

さらに、同サービスも「5374.jp」と同じくソースコードを公開すると、東京や茨城、沖縄など全国10以上の地域で一元化されたマップが作成され、その反響は全国に拡がりを見せている。

「さっぽろ保育園マップ」の優れた点は、とことんユーザー目線にこだわっているところだろう。複数の自治体が公開しているオープンデータを、わかりやすく統合する。学区表示や絞り込み検索など、ユーザーにとって必要な機能を不足なく搭載する。このように、当事者の困りごとを徹底的に解消していくことで、市民にとって“本当に必要な”サービスを創出することに成功している。

小さな気づきが、やがて大きな社会の変革につながる

前述した2つの事例は、ゴミ出しのことや育児のことなど、どちらも大きなテーマというよりは、市民の暮らしに根ざした身近なテーマに焦点を当てた取り組みである。しかし、そのような等身大の日常のなかにこそ、行政がキャッチアップしきれない悩みが潜在していることが多く、市民ならではの気づきが必要とされている部分なのだろう。そして、その悩みはもしかすると、地域の人びとや全国各地にいる何百人、何千人、何万人が抱えているものと同じかもしれない。「5374.jp」や「さっぽろ保育園マップ」のように、市民から生まれた小さな気づきが、テクノロジーの力でたくさんの人に届き、やがて社会を変えていく。そのようなポテンシャルを秘めているのが、シビックテックという運動なのだ。

ライタープロフィール

ライター:松山 響
大手広告代理店や電気通信事業者のオウンドメディアにて、取材・ライティングを担当する。若者の実態調査、地方創生プロジェクトに関する記事を継続して執筆。また、生協の週刊情報誌の編集に創刊から携わり、食と安全にも明るい。


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