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コラム

[第3回] 地元企業の後押しが、地域課題の解決につながる!
シビックテックの可能性(前編)

更新日:2016年8月29日

「シビックテック(Civic Tech)」という言葉をご存じだろうか。これは「市民(Civic)」と「テクノロジー(Technology)」を掛け合わせた造語で、市民が主体となってITの力を活用し、住んでいる地域や身の回りの課題を解決する運動のことを指す。2000年代中頃に欧米で生まれ、2010年代には日本にも普及。IT化の流れに取り残されがちな公共事業や地域社会に新しい風を吹き込むキーワードとして、大きな注目を集めている。そこで今回は、シビックテックが秘めている可能性について詳しく紹介する。

市民参加型の行政を後押しする、世界的なオープンデータ化の流れ

2000年代中頃から、欧米ではインターネットを活用して政府の情報を公開し、市民の行政参加を促す「オープン・ガバメント」という考え方が急速に広まっていく。なかでもアメリカは2009年より、「透明性」「市民参加」「官民連携」の3原則 を掲げ、国勢や経済状況など政府が保有する情報のオープンデータ化をいち早く進めてきた。そのような状況のなかで設立されたのが、シビックテックのパイオニアである非営利組織「Code for America 」だ。

当団体は、公共サービスを改善するために優秀なIT人材を市・州などの自治体に派遣し、オープンデータを活用したアプリなどを開発している。これまでにも、市民が道端の粗大ゴミや道路の破損などを写真に撮り、位置情報を添えてWeb上で報告できる「SeeClickFix 」や、位置情報を頼りに雪に埋もれた消火栓を掘り出すゲームアプリ「Adopt-A-Hydrant 」など、数多くの市民参加型の公共サービスを提供。「Code for America」を中心にシビックテックの運動は全米に拡がり、現在も発展を続けている。

「Adopt-A-Hydrant」 雪から掘り起こした消火栓には、好きな名前をつけることができる。

一方、日本でも2012年に内閣府が「電子行政オープンデータ戦略 」を策定。行政機関のデータが徐々に公開され始めると、2013年には「Code for Japan 」が設立される。当団体は、IT人材を自治体に派遣するフェローシップ事業を行うとともに、定期的に勉強会やイベントを開催。地道にシビックテックの普及に取り組み、現在は全国約40か所に「ブリゲード」と呼ばれる公認コミュニティが存在し、地域に根ざした活動を行っている。

2013年、G8のサミットで「オープンデータ憲章 」の採択を受けたことにより、日本では政府機関や地方自治体が保有する情報のオープンデータ化が急速に整備され、位置情報を付与したデータも増えつつある。しかし、それを一般企業や市民が十分に有効活用できているとは言えず、どのようなオープンデータを公開すればよいのか、模索している自治体も少なくない。膨大なデータは役に立つかもしれないが、それよりも、地域課題をどのように解決するのか、そのためにどんなデータが必要なのか、行政や企業、市民が意見を交わして考えることのほうが大切だろう。シビックテックの魅力は、単にITを活用したサービスの創出のみならず、行政と企業、そして市民の関係性を変える可能性まで秘めている点にあるのだ。

市民の自発的な社会参加とコミュニティの形成が、地域社会を変える

では、シビックテックの可能性とは具体的にどのようなものだろうか。ここでは、大きく2つのポイントにわけて紹介しよう。

(1)市民の自発的な社会参加を促進
シビックテックの活動は、「行政にすべてを任せて不満をぶつけるのではなく、自分たちから動いて住んでいる町をよくしていこう」という自発的な姿勢に基づいている。そのため、新たに生まれるサービスも市民参加型のものが多い。先述した「SeeClickFix」は、道路のちょっとした破損や壁のらくがきなど、自分が住んでいる街で気づいたことを投稿し、住民たちで解決策を議論することができる。従来の行政サービスでは拾いきれなかった「住民が気になっていること」が可視化されるため、自治体側も早期改善に取り組める。実際に、同サイトに投稿された課題の半数以上が解決に至ったという。このように、気軽に課題解決の取り組みに参加でき、自分たちのアクションが街を動かしたという実感を得ることで、街への関心や愛着が高まり、市民がより深く行政に関わるきっかけにもなるだろう。

(2)地域コミュニティの活性化
近年、地域コミュニティの希薄化が懸念されるなか、ITの力で「ご近所付き合い」を再構築する動きにも注目が集まっている。代表的な例が、アメリカのスタートアップが開発した、同じ街に住む人だけが参加できる地域密着型SNS「Nextdoor 」。実名と住所が明らかなユーザー同士で、街のイベントやおすすめの飲食店などの情報交換、物の貸し借りや譲り合いなど、近隣住民ならではの交流を図れる。また、空き巣や不審者情報の共有や、行政と連携して事件発生時や停電などの緊急時にアラートを表示させるなど、安全な街づくりにも貢献している。このような、テクノロジーを駆使した「ご近所付き合い」に、どこか冷たい印象を抱く人もいるだろう。しかし、SNS上での情報交換は、かつての回覧板や近所での立ち話であり、空き巣情報などの共有やアラート機能は、かつての住人による防犯パトロールであるように、むしろ昔ながらのコミュニケーションと同じ役割を果たしている。そして何よりも、このSNSを契機に対面のコミュニケーションが生まれ、住民同士の絆が深まる可能性があることは言うまでもない。

地域密着型SNS「Nextdoor」 PCはもちろん、スマホにも対応している。

市民の自発的な社会参加と、地域コミュニティの活性化。この2つが実現すれば、これまで行政だけでは解決できなかった課題に個人や企業も一緒に取り組むようになり、公共のあり方にイノベーションを起こせるかもしれない。それは、人口減少による経済的な疲弊や行政の財政難に直面する地方においても大きな助けとなるだろう。

課題は資金調達。ベンチャーキャピタルや地元企業の後押しがカギ

日本でも少しずつ拡がりを見せているシビックテックだが、さらに世の中に浸透していくためには、全国各地での活動を増やし、持続させることが大切だ。人材の確保や育成といった課題とともに、避けて通れないのが資金調達の問題。アメリカのシビックテック市場は2015年に64億ドル に達したと言われており、今後も確実に伸びる領域として盛んに投資が行なわれている。一方、日本においてシビックテックはまだまだ市場として認知されておらず、一部の大手企業やベンチャーキャピタルが、事業化に向けて一歩を踏み出した段階だ。また、シビックテックに取り組む地域の企業や団体の出資も期待されている。例えば、NPOバンク「ピースバンクいしかわ」は、地元のシビックテック関連団体への出資を前向きに検討しているという。このような、地域の企業や金融機関の資金面を含めた「協働」は、「自分たちの地域社会をよくしていきたい」というビジョンを共有できる点で、大きな後押しとなるだろう。

日本のシビックテック運動は、まだスタートラインに立ったばかり。今後、地域社会にどのような変革をもたらすのか、引き続き注目していきたい。

ライタープロフィール

ライター:松山 響
大手広告代理店や電気通信事業者のオウンドメディアにて、取材・ライティングを担当する。若者の実態調査、地方創生プロジェクトに関する記事を継続して執筆。また、生協の週刊情報誌の編集に創刊から携わり、食と安全にも明るい。


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