女性がイキイキと活躍する物流現場とは?
三重ロジセンターが実践する「女性活躍推進策」

更新日:2019年3月7日

人手不足が叫ばれて久しい物流業界。いま、流通・配送・倉庫管理などに関わる業界各社で、働き方改革による業務効率化や多様な人材が活躍する職場づくりが推し進められている。 そんななか、「女性の活躍推進策」を断行し、目覚ましい成果を上げているのが、東芝グループの物流子会社・東芝ロジスティクスの三重ロジセンターだ。
女性の免許取得を推進する、安全・安心に配慮した職場づくりを行うなどの施策を行い、女性の活躍によって職場全体の業務効率を上げることに成功、「全日本物流改善事例大会2018」で物流合理化賞を受賞した。
三重ロジセンターの女性活躍推進策とはいったいどんな内容なのか、成功のポイントや、その後の変化とは……?
取り組みのキーパーソンである前田貴子氏、所長の阿竹泰之氏に、詳しいお話を伺った。

TLロジサービス株式会社 三重営業所 所長 阿竹泰之氏/TLロジサービス株式会社 三重営業所 前田 貴子氏

私たちも活躍したい! "暗黙の作業区分"を取り払う試みが始まった

三重ロジセンターは、東芝インフラシステムズの三重工場内にある産業用機器専門の物流センターだ。
東芝インフラシステムズが製造する変圧器、モーターコントロールセンター、インバータなどを取り扱い、主にその梱包や発送作業などを行っている。
扱う機種は大小合わせて約5,400種類、出荷件数は月17,800件。
出荷物の重量は1個10㎏~500㎏程度のものが多く、なかには10tを超える重量物もあるという。
約50名の従業員のうち11名が女性で、今回の取り組みは、この「11名の女性たち」が中心になって進められた。

「以前から女性たちの間で、『待ち時間が多い』『業務効率が悪い』ということが話題になっていました。
原因は、男性と女性の間にある“暗黙の作業区分”。
重量物を扱うのは男性の仕事で、ラベル貼りや梱包などの軽作業を行うのは女性の仕事、という、なんとなくの分担のようなものができていて、そのため、女性が、男性の荷運びの作業などを待たなければいけないことが多かったのです。
女性が免許を取得して、自分で重量物を運ぶことができるようになれば、男性の作業が終わるのを待つ必要がなくなります。それだけでなく、荷物の運搬や積み込みを手伝うことができるようになる。
男女関係なく同じ仕事ができるようになれば、女性の待機時間が減り、業務効率が上がって、みんなのストレスが大幅に減るのではないかと考えました」

こう語るのは、三重ロジセンターの前田貴子氏。
子供が中学生になったことをきっかけに派遣社員として三重ロジセンターに入り、入社から約5年後に玉掛け、クレーン、フォークリフトの免許を取得。
以降、男性と同じように作業ができる数少ない女性社員として、現場で活躍し続けてきたという。
前田氏が免許を取ったきっかけは、「たまたま当時の上司が、積み込みなどの作業のため他の現場に行ってしまうことが多かったから」。
作業が頻繁に止まってどうにもならなくなってしまい、「必要に迫られて仕方なく取った」と笑う。が、その姿がロールモデルとなって、女性たちの間で、業務に対する改善意識と「私たちも前田さんのように活躍したい!」という機運が高まったというのだ。

「ちょうどそんなとき、会社側からタイミングよく『女性の活躍を推進する取り組みを行わないか』という声掛けがありました。それで今回の取り組みを始めることになったのです」(前田氏)

女性でも重量物を扱えるよう、免許の取得を推進した

前田氏をはじめとする女性たちが最初に行ったのが、「現場で困っていること」をテーマとしたブレインストーミング。
業務の課題や職場の環境などについて、女性の視点で、改めてざっくばらんに話し合った。
その結果、「男女の間で暗黙の作業区分ができてしまっていること」「女性の免許保持者が不足していること」のほかに、「自分の担当外の仕事を知る機会がないこと」「女性目線での整理整頓や安全配慮が不足していること」といった課題が浮かび上がったという。
これを踏まえて、今回の活動の大きな目標を「男女間の役割分担を発生させている要因を排除することで、2017年2月末までに役割分担をなくすこと」と設定し、あわせて、「作業工程間の停滞ロスのゼロ化」「全職場の作業応援可」といった、より具体的な目標を掲げることを決定した。
女性グループが働く職場では、全8工程のうち5箇所で作業停滞が発生。恒常的に待機時間が生まれてしまっていた。
「目標が決まったあとは、『各問題点に関する要因の抽出と分析』『改善の方向性や具体策の整理』『改善の実施』というフローで取り組みを進めていきました。全施策のなかでもっとも力を入れたのが免許の取得です。私自身が免許を取ったことで働きやすくなったと感じていたので、他の女性スタッフたちに『絶対に免許を取ったほうがいいよ!』『仕事が思うように進まないストレス、やってくださいとお願いしなきゃいけないストレスから解放されるよ!』と、かなり強めにプッシュしました。結果、たった半年で11名中6名が、玉掛け、クレーン、フォークリフト、いずれかの免許保持者になったんですよ。これらの免許は、3日間、みっちり教習所に通って勉強すれば取得できます。教習所での講義や実技にしっかり集中して取り組めば、自宅での予習や復習は不要です。そういう意味で、家庭を持つ女性でも取りやすいのではないかと思いますね。もちろん、女性だから操作しにくいとか、実技で不利な点があるといったようなこともまったくありません。取ろう、取りたいという意識があれば男性と同じように取れるものだと思います」(前田氏)

女性の免許保持者が増えたことで、作業が大幅にスムーズに進むようになり、また、女性同士での声掛けや助け合いも効率的な行えるようになったという。
「なにより、男性に頼らず自分たちの力で仕事を進められるのがいいなと感じています。みんな本当にイキイキと、楽しそうに仕事をしているんですよ」と前田氏。
女性が活躍することで、より一層、三重ロジセンターの活力が高まっていると言えそうだ。
ピンクの差し色が目を引く女性専用フォークリフト。女性活躍推進活動の一環で導入した

全職場での教育訓練を実施し、女性の多能工化を実現!

自分が所属する職場だけでなく、他の職場での作業も手伝えるように、「他職場での教育・訓練」にも力を入れた。
全女性従業員が全職場での作業を身に付けられるよう作業教育訓練計画を策定し、75時間に及ぶ研修やOJTを実施したのだ。

「私たちが扱う製品は、実に多種多様です。大きいものもあれは小さいものもあり、取り扱いにおける注意点や重心も異なります。これらを破損することなくスムーズに扱うには、製品の特徴を知り、そして実際に作業をして慣れるしかありません。免許を取ったら、毎日、さまざまな職場でクレーンやフォークリフトを操作してもらい、並行して、倉庫の荷揃え作業や乾式トランスの梱包教育などを実施するようにしていました」(前田氏)。

こうした努力の甲斐もあって、女性従業員の多能工化に成功。現在は、全女性従業員が柔軟に、他の職場の応援に駆け付けられるようになったという。その他、工具類の保管場所をつくり管理ルールを決め整理整頓を行ったり、梱包作業の際に使う釘打ち機から釘が飛んだ際に怪我などしないよう、作業場の周りにネットのパーテーションを設置するなどの安全対策を行った。

「男性従業員も以前から気にはなっていたようですが、最初のうちは女性から声掛けをしないとなかなか動いてくれなくて……。ルールを決めてあきらめずに何度も『協力してほしい』と伝えることで定着し、いまでは整理整頓や安全対策など、好意的に受け止め動いてくれるようになりました。免許の取得も応援してくれ、教育にも積極的に参加してくれて。非協力的な男性はいないと言っていいぐらい。この活動を通して、男女間のコミュニケーションも、非常に円滑になったと感じています」(前田氏)

成功のカギは、ロールモデルの存在と雰囲気づくり

2016年10月~2017年3月の6カ月間の取り組みで、女性単独作業職場数がゼロから9カ所に増加。
免許の保持者数は3人から6人に、釘打ちなどの資格取得者数はゼロから10人にと、こちらも大幅な増加を成し遂げた。
三重営業所 所長の阿竹泰之氏は、「活動成功の要因は、ロールモデルがいたことと、職場全体の雰囲気ができていたところにある」と分析する。
「いち早く免許を取り、男性と同じようにバリバリと活躍する前田さんがいたからこそ、他の女性従業員たちも積極的になれたのだと思う。女性全員が『やればできる』ということを理解しており、『前田さんのようになりたい』と思っていた。明確な成功イメージがあったから、うまくいったのだと思います。また、10年ほど前から三重ロジセンター全体で業務改善活動に取り組んでいたこともあって、男性従業員の意識が高かったというのもポイントでしょう。女性だけでなく男性にも『男女の性差なく活躍できるようにしなければならない』という空気があった。これらの下地があったため、特にトラブルなくスムーズに、短期間で成果を出すことができたものと思っています」(阿竹氏)

その他、「マネジメント層の危機意識が高かったこと、理解が深かったことも、成功を後押しする重要なファクターになった」と阿竹氏は振り返る。

「女性の活躍推進活動を会社の動きとして認め、全面的にバックアップし、女性専用車の導入や環境整備を力強く推し進めたことも成功につながりました。こうした改革は、現場の従業員だけが努力をしてもなかなか浸透しません。早い段階で会社側・従業員側、双方の人材が協力することが欠かせないと思いました」(阿竹氏)

「女性従業員全員が仕事に対して前向きな気持ちを持っていた、というところもよかったのだと思います。みんな『自分たちでやろう!』という強い気持ちで動いてくれました。心から、人に恵まれたなあと感じています。これからもっともっと、女性が活躍する職場が増え、そして物流業界に若い女性が増えると嬉しいですね」(前田氏)

今後は三重ロジセンターでの取り組みを、東芝ロジスティクス全社で展開していく構え。
また三重ロジセンターの好事例が刺激となって、東芝グループ全体での女性活躍推進が、さらに拡大する効果も期待できそうだ。
物流業界だけでなく全産業的に人手不足や高齢化が深刻化しつつある昨今。
女性をはじめとする多様な人材が活躍する環境づくりは、あらゆる企業にとって必要不可欠な、喫緊の課題だと言ってよい。
女性が当たり前のように活躍する、活気ある社会へ――。
三重ロジセンター、東芝ロジスティクス、そして東芝グループの挑戦は、まだまだ続いていく。

この記事の内容は2019年3月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。