本文へジャンプ

セカンドステージへと向かう東芝のCPS戦略の取り組み
(前編)

イノベーション, テクノロジー
2020年3月30日

 2018年11月、東芝は世界有数のCPS(サイバー・フィジカル・システム)テクノロジー企業を目指すことを宣言した。取り組みを開始して1年。その実現に向けたファーストステージでは、基盤づくりやカルチャーチェンジなどが着実に進み、その中で得た知見やノウハウがお客さまにも還元されつつある。
 なぜ、基盤づくりやカルチャーチェンジが必要だったのか。どのような取り組みを行ってきたのか。デジタルテクノロジーによる社会の変化を俯瞰しながら、東芝のCPSテクノロジー企業に向けた取り組みについて、東芝デジタルソリューションズ IoT技師長 中村公弘が解説する。

東芝デジタルソリューションズ株式会社 IoT技師長 中村公弘(動画:1分20秒)

「令和」- デジタルテクノロジーが社会実装されていく時代

 2019年5月、元号が令和へと変わりました。戦後の昭和は物質文明。石油を資源としてさまざまな工業が興り、工場にヒト・モノ・カネと資源を集積することで生産性を高め、高度成長が成し遂げられました。平成に入ると、インターネット革命が起こり、グローバル化して世界がフラットになりました。人と人がネットで繋り、そこに新しい経済が生まれ、消費者主導型の経済に変わってきました。また、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)という巨大なプラットフォーマーが登場し、富が偏在するようになりました。

 これからの令和の時代は、ヒト、モノ、システムなど、すべてが繋がっていく時代です。自動運転や自律制御が実用化され、ロボットやAIなどが一般に普及していきます。デジタルテクノロジーが、実証実験の段階から社会実装されていく段階へと移っていきます。ここでカギになるのが、いかにサイバーの世界とフィジカルの世界を融合させ、新たな価値を生み出すのかということであり、それを実現するテクノロジーがCPS(サイバー・フィジカル・システム)です。

 現在、世界各国は2025年、2030年をターゲットに、さまざまな政策を打ち出しています。中国の「中国製造2025」、ドイツの「インダストリー4.0」、欧州連合(EU)の「デジタル・シングル・マーケット」、SDGsなどがその一例です。これらを実現するため、さまざまな実証実験で何ができるかが検証されてきましたが、今まさに社会や企業活動への実装の時代に入ろうとしています。デジタルテクノロジーを、実際のビジネスや業務のどこで使うのか、どう使っていくのか、どこで成果に繋げていくのかが問われるようになってきました。政府も、法やルール、枠組みをつくるなど、デジタル時代に向けた法制度を整備しています。そして2025年、2030年には、それらが当たり前になっていき、もはやデジタルテクノロジーなしでは立ち行かない時代になっていきます。

 先に紹介した国の中で、コンセプトが一歩先行しているのがドイツです。ドイツは2030年のインダストリー4.0実現に向けて、3つの課題領域を挙げています。第一はオートノミー。いわゆる自動運転や自律制御などです。それを社会で実際に使っていくためには法やルールの整備が重要になるとしています。第二がインターオペラビリティ。これは機械が繋る相互接続性だけではなく、企業間やシステム同士を繋げていくことも含まれます。そのためのデータ流通制度やデータコードの意味などを定義するとともに、やり取りする相手やデータが正しいかどうか、信頼性を担保するような法的枠組みをつくることも重要になります。第三がサスティナビリティ。環境対応だけではない、働き手の観点も含まれます。英国オックスフォード大学の調査によると、AIやロボットが普及することで、米国の就業者の47%がAIやロボットに代替されると言われています。これからの時代は、AIやロボットが当たり前になり、働き手にもこれらの新しいテクノロジーを使いこなすための新しいスキルを身につけることが求められます。

各国で進むデジタル社会を見据えたルールづくり

 欧州では、先まで見据えたルールづくりが行われています。2018年5月に施行されたGDPR(EU一般データ保護規則)に加え、2019年には産業データ保護を打ち出し、2020年にはEUとしてのデータ戦略を打ち出しました。AIの領域でも、2019年4月にAI倫理ガイドラインを策定するなど、矢継ぎ早にEU域内のデジタル市場を保護しながら育成していく政策を打ち出しています。これはEUをデジタル単一市場化し、GAFAに代表される他の地域に経済価値を独占されないようにする大きな流れの1つだと言えるでしょう。

 ドイツでは、インダストリー4.0を推進するため、「労働4.0」というデジタルテクノロジーが働き方に与えるインパクトを分析しており、働き手が取り残されてしまうことのないような政策・施策の必要性を訴えています。IGMetal(ドイツ金属労組)のホフマン会長も、「デジタル化で価値形成の場がサイバー側にシフトしている。これは雇用全体にも大きなインパクトを与えている。これまでやってきた仕事をデジタル化させていくために、働く人をどうアップグレードするか。それにはデジタル化に対応する能力開発・教育が必要になる。誰も後に取り残さない(no one leave)施策が必要だ」と言っています。

 さらにEUでは2015年より、ますます高まる環境対応と経済成長を両立させる戦略として「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」を発表しています。従来の資源消費型の経済の仕組み(リニアエコノミー)では地球資源がもちません。サーキュラーエコノミーはモノを作ったらそれを徹底的に使用し、共用なども行い、再資源化していくというモデルです。このようなモデルになると、ビジネスモデルやメーカーの取り組みも変わっていく必要があります。製品寿命は長くなり、使用期間も延長されることになるため、高品質な製品が求められるようになります。また、量のビジネスから期間で稼ぐビジネスモデルへと転換していく必要もあります。こういった取り組みにより、顧客との付き合いも長く、多面的になります。これらの変化の中で重要になるのが、「インテリジェントアセット」です。インテリジェントアセットとは、製品・設備をインテリジェント化することで、そのモノや設備の使われ方に応じて、機能や性能、サービス、メンテナンスなどを提供したり、顧客のライフステージに合わせてアップデートできるようなアセットです。

CPSテクノロジー企業へと姿を変えつつある東芝

 このような時代を背景に、2018年11月、東芝は「東芝Nextプラン」として、「世界有数のCPSテクノロジー企業を目指していく」という長期ビジョンを発表しました。2023年までに収益性の確保と技術による成長を実現すること。そして2023年から2028年に向け、サイバーとフィジカル技術を融合し、社会のさらなる発展に貢献できるよう新規事業を生み出し、既存の事業もサイバーフィジカル技術で進化させていこうというビジョンです。

 東芝はデジタルエボリューション(DE)とデジタルトランスフォーメーション(DX)の2つの方向性でビジネスに取り組むことにより、CPSテクノロジー企業を目指しています。DEでは、自社のハードウェアにデジタルサービスを付加することで進化させ、ビジネスを推進します。一方DXでは、自社および他社のハードウェア、サービスも含めたサービスとしてお客さまに提供するという新しいビジネスモデルを確立していく取り組みです。このように、DEとDXを同時に推進していくのが東芝のデジタルへの取り組みの特長です。

 東芝ではCPSの共通フレームワークである、リファレンスアーキテクチャーづくりにも取り組んでいます。それが「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー(Toshiba IoT Reference Architecture)」です。米国のNIST(アメリカ国立標準技術研究所)や インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)などが定義しているIoTおよびCPSのグローバルな業界リファレンスモデルに準拠しています。基本思想は「オープン&クローズ戦略」で、自社の技術だけでは足りないところを他社の技術、製品、サービスと組み合わせてお客さまに価値を提供できるよう、外部仕様はオープンにし、内部仕様はクローズにするアーキテクチャーとなっており、どこでどのようなテクノロジーが必要かを理解できるようにもなっています。このアーキテクチャーに則った様々なサービス(As a Service)を続々と提供していく計画です。

 また、カルチャーチェンジも同時に進めています。「みんなのDX」という、DXに向けたアイデアを役員クラスの前で発表するピッチ大会や、山本コーポレートデジタイゼーションCTOの主導で、東芝IoTアーキテクチャーはどうあるべきかを、東芝グループ各社のCTOとディスカッションする「東芝IoTアーキテクチャボード」などを開催しています。2019年11月に発表したユーザーファーストのIoTサービスのオープンな共創を目指す「ifLinkオープンコミュニティ」もカルチャー変革に貢献しています。ifLinkには既に100を超える企業が賛同しています。

 ここまでの取り組みは、あくまでもCPSテクノロジー企業に向けたファーストステージ。これからセカンドステージへの取り組みが始まります。

執筆:中村 仁美
撮影:鎌田 健志
  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2020年3月現在のものです。

「DiGiTAL CONVENTiON(デジタル コンベンション)」は、共にデジタル時代に向かっていくためのヒト、モノ、情報、知識が集まる「場」を提供していきます。

掲載されている内容は取材時点の情報です。別ウィンドウで開きます マークは別ウインドウで開きます。

このページのトップへ