プラットフォームがもたらす産業構造の変革

イノベーション, テクノロジー
2019年10月8日

第4次産業革命と呼ばれる時代を迎え、新しいテクノロジーの登場によって、産業構造は大きく変わろうとしています。このようなグローバルな変革の動きが加速する中、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表される新たなビジネスモデルの台頭によって注目されているのが、プラットフォームです。

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ビオトープにもエコシステムが存在する

産業界の新たなエコシステム

ケニアのマサイマラ国立保護区であれ、観賞魚を飼っている水槽やビオトープの中であれ、そこには大小様々な生態系、つまりエコシステムが存在します。水槽やビオトープでは水草が水中に酸素を供給し、魚の餌となる藻を育て、魚のフンや死骸は土の中のバクテリアが分解して水草を育む養分を生み出すといった連鎖が生まれています。
我々のビジネスも、大なり小なりのエコシステムの中で営まれています。1社や1拠点のみで全ての機能が完結しているビジネス、1台の機械や1つの工程だけで構成されている生産ラインはほとんどないでしょう。

今、こういったエコシステムに集まる様々な企業が、多くの分野でIoT(Internet of Things:モノのインターネット)や人工知能(AI)などの技術を導入・活用し、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいます。また、様々な産業分野において、爆発的に増加するデジタルデータを核にしたプラットフォームを基盤に、新たなビジネスモデルを実現しようとする動きが加速しています。
このようなデジタル技術の進展によるビジネス環境の変化の中で、産業界の新たなエコシステムが形成されようとしています。

第4次産業革命により産業構造が変化し、従来の経済成長モデルが適用できない時代が到来しています。第4次産業革命は、現実世界のモノやコトのデジタル化や、それに基づく最適化・自律化が可能になるという新たな社会構造の変革です。
この実現を支えるのが、現実世界の大量のデータ(ビッグデータ)を基にAIがロボットや工作機械に対し自ら最適な行動を取るように促す、サイバーフィジカルシステム(CPS)です。これによってこれまで実現不可能と思われていた社会が実現可能になり、産業構造やビジネスモデルの劇的な変革がもたらされると言われています。

第3次産業革命までの時代は国境や言語で市場が分断されていたため、各地域のローカルな事業者が自らのパフォーマンスやクオリティを向上させるという範囲にとどまっていました。
一方、第4次産業革命は世界の国々がグローバル化し国や地域を越えてヒトやモノ、情報が往来するようになった後のはじめての産業革命です。均質な情報が共有されるグローバル社会で、共通的なプラットフォームを生み出し、そのエコシステムの中で「違い」を生み出すことができるプレイヤーに利益が集まるというビジネスモデルは、あらゆる産業に広がっています。

第4次産業革命という時代
出典:IoT、AI、ロボットに関する経済産業省の施策について 2016年3月3日 経済産業省 (pdf:2.1MB)を元に作成

デジタル化・ソフトウェア化・ネットワーク化による産業構造の変革

第4次産業革命がもたらされた要因として考えられるのは、従来Business-to-Customer(B2C)の領域で起きていたデジタル化・ソフトウェア化・ネットワーク化による産業構造の変革が、インダストリー領域にも波及したことです。中でも、ネットワーク化によりデジタルデータの流通や相互利用、遠隔からの活用が可能になったことは、産業構造全体の変革へと向かわせた大きなポイントだと考えられます。
ネットワーク上のサイバー空間が経済活動の「場(プラットフォーム)」となり、「場の提供者」と「場の参加者」によるエコシステムにおいて新たな産業が生まれています。

第4次産業革命では個々のモノではなく、つながった集合体に価値が移行し、1つ1つのモノは全体の部分(コンポーネント)に位置付けられるようになっています。これにより全体を最適につなげるためのプラットフォームやエコシステムの価値が増大したのです。
更に、プラットフォームを運営するためのルールや標準、インターフェース/プロトコル、エコシステムへの参加価値などが注目され、整備されるようになりました。

プラットフォーマーに大きな果実が集中

一方、このようなデジタル化・ソフトウェア化・ネットワーク化による産業構造の変革は、グローバルな経済価値を限られた勝者のみが吸い上げ、利益偏在を加速させるという面も併せ持っています。
プラットフォームを経済価値の観点で考えた場合、そこに参加する者も確かに一定の果実を得ることができるといえますが、胴元(プラットフォーマー)に大きな果実が集中することになります。

モノもコトも、インダストリーや国を越え、サイバー空間における価値共創のしくみの中に一体化されようとしています。それがプラットフォームの本質です。
プラットフォームを中心としたエコシステムの中で自社の強みを発揮しつつ、多くの仲間とつながり、顧客視点の新たなビジネスモデルを築いていくことが今後の企業に求められるのではないでしょうか。

福本 勲 写真

共通フレームワークとして参照されるべきアーキテクチャーの重要性

第4次産業革命の時代においては、さまざまなプレイヤーがDXを実現していくためのプラットフォームを活用したエコシステム作りがポイントとなります。さまざまなプレイヤーが参加して製品・サービス開発が推進されることになるため、共通フレームワークとして参照されるべきアーキテクチャー(リファレンスアーキテクチャー)の存在は重要となります。
ボトムアップ中心の日本ではなかなかこういったリファレンスアーキテクチャー策定が進んでいませんでしたが、著者が勤務する東芝グループでは「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー(Toshiba IoT Reference Architecture)」を策定し、この課題に対応しています。
東芝は「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー」を定義し、国際標準にフィードバックしていくことを目指しており、これが日本の製造業のグローバルプレゼンスの向上にも寄与すると考えています。
こういった動きが、従来グローバルの場でTake中心だった日本企業が、Give & Takeの道を歩みはじめるきっかけになると考えています。

株式会社 東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター
東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部
福本 勲
  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年10月現在のものです。

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