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新たな時代へと音楽を進化させたバッハのようなプラットフォーマーを目指す(前編)

経営, イノベーション
2019年9月26日

2018年10月1日、東芝グループのデジタルトランスフォーメーション事業戦略を拡大すべく、東芝の最高デジタル責任者(CDO)に就任した、執行役常務 島田太郎。東芝に入社して約1年。東芝グループの強みや特徴が見えてきたことで、東芝がとるべきデジタル戦略の輪郭がよりはっきりとしてきた。今後、島田はどのようなデジタル戦略で東芝グループを世界有数のCPS(Cyber Physical System)テクノロジー企業に進化させていこうとしているのか、話を聞いた。

株式会社 東芝 最高デジタル責任者
(CDO)執行役常務 島田 太郎(動画:50秒)

バッハの音楽に惹かれるワケ

第4次産業革命といわれるデジタル化による新たな社会構造の変革の波が、世界的な広がりを見せている。その先駆けともいえるドイツのインダストリー4.0は、2011年からドイツが国を挙げて推進しているプロジェクトである。
産業革命にいち早く取り組み工業化をリードしてきた同国は、クラシック音楽にも多大な影響を与えた作曲家を生み出してきた。バッハ(J.S.バッハ)、ベートーベン、ブラームス、いわゆるドイツの3Bはその代表例だ。現職に就任する前、ドイツが世界に誇る企業シーメンスに務めていた島田は、ドイツの3Bの中でも、「音楽の父」と呼ばれるバッハの曲に強く惹かれることが多いという。

「バッハが生きた時代はバロック音楽の時代と呼ばれています。この時代の音楽の特徴は対位法(複数の旋律を、それぞれ独立性を保ちつつ、互いに調和して重ねる技法)と通奏低音(合奏を支える最低音部。楽譜に記された低音旋律と、数字などで略記された和音を補いながら演奏する技法)です。バッハはこの対位法と通奏低音という音楽理論、いわばプラットフォームを根幹に、各旋律線を幾何学的に組み合わせて全体を構成していくことで、それまでに無い音楽をたくさん生み出したのです」(島田)。
つまりバッハは対位法や通奏低音というバロック音楽の理論を発展させ、新たな時代の音楽のプラットフォームを構築し、均整のとれた美しい音楽を次々と生み出していったのだ。

幾何学的な構造の音楽であるにもかかわらず、「素晴らしい芸術性を有している。演奏されるとその旋律は美しく、私たちの心に温かく訴えかけてくる」と島田は評する。
音楽がなぜ、人の心に訴えかけることができるのか。それは曲自体の素晴らしさももちろんだが、「バッハの音楽を理解したプロの奏者の演奏力があること。それがないと音楽は成立しないのです」と島田は語る。

なぜ、島田はバッハの話を出したのか。それには理由がある。
「バッハはそれ以前にあった音楽を集大成し、洗練させ、高みに持ち上げて、新しい時代の音楽の地平を切り拓きました。バッハの音楽のように、新しい時代の礎となるプラットフォームを生み出すことが、今の東芝にとって必要なことだと思うからです」(島田)。

CPSテクノロジー企業を目指すために必要なもの

現在、東芝グループは世界有数のCPSテクノロジー企業を目指し、「ビジネスモデル転換」、「テクノロジー」、「プラットフォーム」の三位一体によるデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)、デジタルエボリューション(Digital Evolution:DE)を推進している。
この3つの要素を先のバッハの音楽に例えると、「テクノロジー」はバイオリン、ピアノなどの一流の奏者、「プラットフォーム」は対位法や通奏低音、「ビジネスモデル」は人の心を打つ演奏である。

「東芝には学術的な取り組みを突き詰めてきた優秀なエンジニアがたくさんいます」(島田)。
そして優れたものを自分たちで作ることができるという技術力にも島田は驚かされたという。
「『GridDB』はその発露だと思います」(島田)。GridDBは、ビッグデータ/IoT時代に対応する社会インフラシステムに必要な要件を満たすデータベースが世の中に存在していないため、東芝が自ら開発し2013年に商品化。2016年にはオープンソースとして公開している。
「顧客を囲い込むために、技術をオープンにしない企業がたくさんある中で、東芝はこういうことができるのです」(島田)。

それだけではない。「技術的に本当に優れたものが他にあれば、即取り入れていくフレキシビリティもある」と驚きを表す。
その例として島田が挙げたのが、画像認識AIプロセッサ「Visconti5」の新製品のCPUコアを変えたことである。「今まで自分たちがこだわって作ってきたものがあるはずなのに、プラットフォームさえも変えることができる。テクノロジーはInvent(発明)だという人もいますが、Mashup(複数の異なる技術を複合させて新しい技術を生み出す)という考え方もあります。その両方を自在にできることが技術力の高さになります。東芝グループにはどの分野を見ても、その両方を柔軟にできる人がいます。そこが東芝の強みだと考えています」(島田)。

つまり東芝には十分すぎるほどのテクノロジーがある。だからこそ、「プラットフォーム化とかアーキテクチャー化していくことが、バッハのように次の時代を切り拓いていくにはとても重要だと思います。」(島田)。

島田 太郎 写真

TIRAを活用するビジネス的価値とは

では島田のプラットフォーム化、アーキテクチャー化とは具体的にどのようなことを指すのか。それが2018年11月に発表した「Toshiba IoT Reference Architecture(TIRA)」である。これは東芝がCPS(Cyber Physical System)を実現する製品・サービスを提供する共通フレームワークである。

IoTおよびCPSの業界リファレンスモデルである米国NIST(National Institute of Standards and Technology)のCPSと、米国のグローバル企業5社によって設立されたインダストリアルIoT実現のための国際団体であるIIC(Industrial Internet Consortium)のリファレンスアーキテクチャーIIRA(Industrial Internet Reference Architecture)に準拠し、様々なドメインで実用されている東芝の制御技術・IoTソリューションの実践知や、長年モノづくりで培ってきたコンポーネント技術を加味して策定されている。

最大の特徴はSoS(System-of-Systems)への対応を定義していること。東芝では、エネルギーや社会インフラ事業を行っており、こういった異なる複数のシステムが互いに複雑な関係を持つようなインフラシステムの構築にも対応できるアーキテクチャーを目指している。東芝の各ドメインのソリューションをTIRAに準拠させ、スィート製品、サービスのリリースに繋げていくという。

「TIRAを活用することは、大きなビジネス的価値をもたらすのです」と島田はいう。「ビジネス的価値には、コストサイドとプロフィットサイドの2つの側面があるのですが、コストサイドの話でいうと、TIRAを使うことで、IoTサービスを作るための期間やコストの大幅な削減が期待できます。というのもクラウドプラットフォームをはじめセキュリティモジュール、通信サービスなどがマネージドサービスで提供されるので、ゼロから自前で構築する必要がないのです。しかもビジネスプロセスを製品やサービスに無理矢理合わせるのではなく、限りなくテーラーメイドに近い、セミテーラーメードのようなシステムが作れるようになります」(島田)。

だが、「これらのコストサイドの価値よりもTIRAに期待しているのはプロフィットサイドのビジネス価値です」と島田は語る。「APIによって簡単にいろいろなシステムやサービスとつながることで、ネットワーク効果が得られます。それによって具体的に利益化するビジネスを創造できるようになるのです。だからプロフィットサイドの価値を重要視しているのです」(島田)。

世界に通用するプラットフォーマーへ

島田は、「このような仕掛けを駆使することで、東芝を世界に通用するプラットフォーマーへと転換させることが重要です。そしてそれこそが、これから東芝が目指すべきCPS戦略です」と語る。

すでに世界にはGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)と呼ばれる巨大なプラットフォーマーが存在しているが、「その地位も万全ではない」と島田はいう。「中国のアリババグループは、国内の巨大市場を背景に、自分たちでクラウドサービスを作り、さまざまなサービスを展開し、中国および東南アジア市場ではGAFAを駆逐する勢いでプラットフォーマーとして成長しています」(島田)。
「GAFAの時代がいつまでも続くとは限りません。プラットフォームの上や下に、新たなプラットフォームができることもあるでしょう。そろそろ、次なるプラットフォームが出てきてもおかしくない。その可能性は東芝にもあると思うのです」(島田)。

執筆:中村 仁美
撮影:鎌田 健志
  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年9月現在のものです。

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