加速する、サービスビジネスへの変革。東芝が拓く「共創イノベーション」最前線

UXデザイン手法を活用し水処理管理サービスのUIを刷新/古澤 健太

UX※1デザインとは、製品やサービスを通じてお客さまに優れた経験価値を提供するためのデザイン手法です。ユーザーの心理状況や行動までをも把握して作業効率などの改善を図るUXデザインは、経営課題の解決を図る方法論の一つとして、東芝においてもさまざまな事業領域でその開発と活用を推進しています。
UXデザインの活用においては、システム開発者からは見えにくいエンドユーザーのニーズをいかに共有して、機能や操作性、視覚的なデザインに落とし込むかが鍵となります。こうした手法が「共創」には欠かせません。今回はその代表的な例として、栗田工業株式会社様の水処理管理サービス「S.sensing」の顧客ポータルサイトにおけるユーザーインターフェース(UI)のリニューアル事例を紹介します。

  • ※1 UX:User Experience(顧客の経験価値)

栗田工業様の経営課題解決を水処理管理サービスの顧客接点から探る

図1 水処理管理サービス「S.sensing」の全体概要図

 栗田工業様は、水処理における世界的なリーディングカンパニーです。環境にも配慮した先進の水処理技術による製品とサービスで、社会と産業の維持・発展をグローバルに支えています。中でもさまざまな国と地域で導入が進んでいるのが、世界中の水と水処理施設の今が見える水処理管理サービス「S.sensing」です。本サービスは、東芝の長年の実績を積み重ねた遠隔監視のノウハウとIoT(株式会社東芝) ※2技術を生かし、工場やビルなどに設置された装置や機器の稼働状況をセンサーで取得し、リアルタイムにモニタリング。設備の安定稼働と水処理管理の効率化を計ります。今後、世界30か国、約1万拠点への展開を予定しています(図1)。

 水処理領域におけるグローバル競争は、年々激しさを増しています。競合企業に勝る価値を生み出し続けるためには、弛まぬイノベーションにより製品やサービスを進化させていかなければなりません。

 そこで私たちは栗田工業様が向き合う経営課題の解決を支援するため、S.sensingの顧客ポータルサイトに着目。センシングデータを見える化し、各種情報サービスの窓口として重要な役割を果たしているユーザーインターフェース(UI)を、UXデザインの観点からリニューアルすることを提案しました。UIがより見やすく、使いやすくなれば、水処理管理業務はさらに効率化され、S.sensingもこれまで以上に豊かな価値を創出できると考えたのです。

  • ※2 IoT:Internet of Things(モノのインターネット)

「共創」による合意形成で目指すべきUIのコンセプトを見いだす

 今回のプロジェクトのゴールは、S.sensingを活用する栗田工業様のお客さま(顧客)が真に求めるUIを形にすることです。開発の軸となるUIのコンセプトを策定するためには、私たちからは直接見えない顧客の潜在的なニーズまで掘り下げて、経験価値の視点からサービスの本質を改めて定義することが必要でした。そこで私たちは、共創により顧客のニーズを共有し、よりよい合意を形成しながらゴールに向けて走っていくことを提案。まずは専門分野や立場を超えた多様なメンバー(営業部門、技術部門、開発部門、情報システム部門)による活発な意見交換から、提供するべきUIの種を探し出すワークショップを開催しました。当日は、栗田工業様から17名の方をお招きし、東芝からは10名(うち、東芝のデザインセンターから6名)が参加。東芝のメンバーは、ディスカッションに参加すると同時に栗田工業の皆さまの知見と想いを最大限に引き出すファシリテーターの役割を担いました。

 五つのグループに分かれ、プログラムは東芝内で体系化されたUXデザインのツールを活用。創造的な思考へ導く四つのステップのフレームワークに則って進められました。

【ステップ① B2B共感マッピング法】
顧客が何を感じ、何を求めているのか、思い思いに付箋に書き出してマッピングしました。共通した顧客像は何か、一見違っていても共通するイメージはないかなどをディスカッションし、仮想顧客(ペルソナ)を設定しました。

【ステップ② カスタマージャーニーマッピング法】
共感マップで抽出されたペルソナをさらに具体化するため、顧客が出社してから業務を終えるまでの一日のタイムラインをまとめました。その時々で顧客が経験する事柄や感じる気持ち、困りごとなどを明らかにし、S.sensingがよりよい経験をどこに提供できるかをまとめました。

【ステップ③ 評価グリッド法】
ステップ②で見いだされたS.sensingによる提供価値をカテゴライズ。この時、カテゴリーごとにタイトルをつけて抽象化し、UIのリニューアルに向けて真に大切にすべき概念をキーワードとして抽出しました。

【ステップ④ コンセプトツリー】
五つのグループで抽出したキーワードを整理して集約。参加者全員の合意の下、「安心が魅える」「日常が見られる」「ノウハウを生かせる」という三つのコンセプトを導き出しました。各コンセプトには顧客の具体的な体験や、実現する上でのサービスの機能などをひも付けて書き出し、UIがこのUXのコンセプトに沿って設計されるよう整理しました。

共有した三つのコンセプトから経験価値を高めるUIをデザイン

 以上のステップを経て、ワークショップは議論の発散と収束を繰り返しながら、最終的には栗田工業の皆さまも東芝のメンバーも納得した形でコンセプトの合意を形成。サービスの魅力を存分に引き出すUIの方向性を見いだしました。

図2 UXデザインを活用したエンドユーザー向けポータル画面

 この三つのコンセプトをもとに、イメージ画像の抽出やコンセプトカラーの選出を行い、それらが最終的なデザインに落とし込まれ、図2のようなUIとして完成しました。各コンセプトがどのように視覚化、具現化されたのか、以下に紹介します。

【コンセプト① 安心が魅える】
問題のある設備を素早くチェックし、将来的な故障の予兆を早期に把握する。これらサービスの利点がよりよく活用できるよう、全体の稼働状況を一覧で表示。シンボルマークにより一目でわかるようにしました。

【コンセプト② 日常が見られる】
現時点の設備や薬品の状況を直感的に把握し、日々の管理業務の効率を高められるようにしました。重故障は赤、軽故障は黄といった具合に、拠点別に各設備の運転状況をアイコンで色分けして表示。水処理の残量もイラストでわかりやすく表示し、薬品の補充がスムーズに行えるようにしました。

【コンセプト③ ノウハウを生かせる】
設備の故障状況の詳細なデータを、クリックするだけで見られる機能を追加。過去の経験を今後の管理に生かせる工夫を付与しました。

 全体のデザインは青を基調に水をイメージさせながら、先進の機能性とインテリジェンスを感じさせる幾何学的なグラフィックスを採用。サービスロゴもこれに合わせて一新し、S.sensingを利用する顧客に、水と環境のリーディングカンパニーにふさわしい知性と、パートナーとしての信頼感を感じてもらえるようトータルな変革を行いました。

 リニューアルされたUIは今後、S.sensingと世界中の顧客とのタッチポイントに活用され、サービスの価値を余すことなく提供する使命を果たしながら、グローバルに水処理管理を支えていきます。

 今回の事例を経て、私たちは共創におけるさまざまな合意形成の大切さを認識しました。お客さまの先にいるお客さまのニーズをいかに共有するか、ゴールをどこに設定し、互いにどう摺り合わせていくか。今後も栗田工業様の競争力拡大を支援するために、密なコミュニケーションで直面する課題を共有しながら、共創による新たな価値の創出に挑んでいきたいと考えています。

お問い合わせ
東芝デジタルソリューションズ株式会社
電子メール
e-mail:tdsl-infoweb@ml.toshiba.co.jp
FAX
044-548-9522
所在地
〒212-8585 神奈川県川崎市幸区堀川町72番地34