ビジョンから実践へ。東芝の「次世代ものづくりソリューション」最前線

東芝の「ものづくりDNA」を受け継ぎ、製造業をIoTで変革する/中村 公弘

今、日本のものづくりを取り巻く環境は急激な変化にさらされています。ドイツの「Industrie 4.0」が目指すマスカスタマイゼーションや、米国の「Industrial Internet」が進める製造業のサービスビジネス化の動きを捉えながら、日本の製造業にもIoT活用やビッグデータ分析を取り入れた変革が求められるようになってきました。こうした中、東芝は日本の強みであるものづくりの力をさらに高めるため、2016年4月、「次世代ものづくりソリューション」の提供を開始しました。創業以来140年にわたって脈々と続く東芝の「ものづくりDNA」を受け継ぎ、エッジからクラウドまでトータルに提供できる強みを生かしながら、日本の製造業がグローバルな存在感をさらに発揮するための積極的な貢献を続けていきます。

「第4次産業革命」から見えてきた、ものづくりの新たな潮流

 世界の製造業は今、大きな変革期を迎えています。各国はIoTやビッグデータ分析を中心とした新技術に積極的な投資を行い、国を挙げてものづくり改革を進めています。第4次産業革命とも呼ばれるそのうねりは、製造業だけでなく、産業構造そのものを根底から変えてしまうインパクトを持っています。

図1 次世代ものづくりの概要

 ものづくりの次世代化の潮流には、大きく二つの方向性があります。一つはIoTの活用により生産プロセスを革新する「ものづくり」の次世代化、もう一つは製品が使われた場所からセンサーなどで集めたビッグデータを解析し、製品価値の向上や新たなサービスの創出を目指す「ものづかい(製品の使用局面)」の次世代化です(図1)。

 前者をリードするのが、ドイツの国家プロジェクト「Industrie 4.0」です。現実世界の製造プロセスをデジタル空間上で再現し、リアルタイムな状況把握やデータの分析結果を現場にフィードバックする「Cyber Physical System」をベースに、量産並みのコストで顧客の個別ニーズに応えるマスカスタマイゼーションなどにより、製造業で圧倒的な国際競争力を得ようと産官学で取り組んでいます。

 後者にはゼネラルエレクトリック社(GE)が提唱し、米国で急速に広がる「Industrial Internet」が挙げられます。ジェットエンジンやガスタービンといった産業機械の稼働状況や部品の状態をセンサーから収集・分析して、飛行ルートの最適化や発電効率の最大化を図るものです。エネルギーの節約によるコストダウンや故障の予兆を察知した安全性の向上など、ソフトウェアによる新たなビジネスモデルの構築を目指しています。

 製造業のデジタル化が進展する中、日本のものづくりも世界の潮流に乗り遅れるわけにはいきません。製品のライフサイクル全般にIoTを活用し、生産性、性能、品質、顧客価値の向上や環境負荷の軽減を図っていく。ここにお家芸である「現場力」を生かして、日本の強みである製造業の力を維持・変革する新たな取り組みが求められています。

  • ※ IoT:Internet of Things

「ものづくり」と「ものづかい」の
次世代化を実現する東芝の実績・技術

 世界各国がものづくりの次世代化を目指す中、東芝も現場の生のデータを活用した先進事例ともいうべき、さまざまなプロジェクトを推進してきました。

 その代表的な例が、NAND型フラッシュメモリを製造している東芝の四日市工場における、品質改善と生産性向上への取り組みです。約200機種/4千台の製造装置にセンサーを設置して、各装置から収集される1日16億件ものビッグデータを分析し、装置の稼働状況や処理状況をリアルタイムにモニタリングしながら、随時現場にフィードバックしています。

 製造装置の出力データを個々の製品にひも付け、処理や加工方法、検査結果などの履歴の数兆通りの組み合わせによる相関分析から、不良が出る製造パターンを精密に把握し、次工程の加工条件などにリアルタイムに反映することで歩留まりを大きく向上させています。

 加えて製造装置や搬送システムの稼働状況を解析し、生産ライン全体の効率が一目瞭然に見渡せる仕組みも導入しています。この情報を元にラインの平準化を図り、搬送や着工順をフレキシブルに組み替え、生産性や装置の稼働率を向上させています。

 このような自社工場での知見を生かし、お客さまの課題解決にも積極的に取り組んでいます。

 IoTによる製造現場の革新を進めているオムロン株式会社様の草津事業所には、製造ラインでの不良要因を分析するソリューションを提供し、元々高い品質をさらにもう一段高い品質にしていくプロジェクトに寄与してきました(参照記事)。

 「ものづかい」でも、製品や装置などから得られるビッグデータを活用し、ビル設備やオフィス機器、情報機器、ストレージ装置などの故障予兆の把握や予防保全によるダウンタイムの極小化、現場作業者の音声認識を活用したプラント保全業務の高度化など、その取り組みは幅広く、多岐にわたっています。

バリューチェーンを統合する、次世代のものづくり情報基盤を開発

 これら豊富なプロジェクトの経験を通して、新たな技術とノウハウを蓄えてきた東芝では、ものづくりの次世代化を実現するための情報基盤として、水平方向と垂直方向の情報結合が実現できるフレームワークが必要だと考えています。

図2 次世代ものづくりのフレームワーク 水平・垂直のデジタル結合

 「水平結合」は、製品の企画、設計開発、生産、運転・保守といった一連の製品ライフサイクルに関する情報をシームレスにつなぎ「いつ、どこで、何が起きているか」を製品ごとに可視化する横の流れです。一方「垂直結合」は、現場からマネジメントレベルまでの情報をリアルタイムに結合、見える化し「いま何が起きているのか」を正確に把握して、必要なアクションにつなげるものです(図2)。

 これら二つの情報結合でバリューチェーン全体を最適化できれば、歩留りや品質、生産性の向上はもとより、多種多様な市場ニーズや顧客個々の要望までも捉えた独創的でフレキシブルなものづくりや、トレーサビリティーの確保による付加価値の高いアフターサービスの提供も可能になります。

 そこで東芝では、現実世界の製品に関わるバリューチェーン全体をデジタル空間で再現し、「ものづくり」から「ものづかい」に至るあらゆるデータ、例えばビジネスデータだけでなく機器や装置から得られたデータや周辺環境も含めたセンサーデータなどを関連付けて蓄積できる、ものづくり情報プラットフォーム『Meister DigitalTwin』を提供。さらに現場の機器やセンサーを介して製造現場を精緻にモニタリングし現場へフィードバックする「製造プロセスIoT」、市場における製品の使用状況を把握する「フィールドIoT」を提供し、これらをMeister DigitalTwinと連携させることで、水平方向と垂直方向のプロセスが相互につながる環境構築を図っていきます。

ものづくりの次世代化にいち早く取り組み、
IoTとクラウドの連携も強化

[写真] 梅木 秀雄

 ものづくりの次世代化の実現に向けた新たなフレームワークの下、東芝は2015年3月に、まずMES(製造実行システム)ソリューションを刷新(参照記事)。そして2016年4月に、ものづくりの現場におけるIoTデータの収集・蓄積・分析・活用を一気通貫で支援する「次世代ものづくりソリューション」の提供を開始しました(参照記事)。

 Meister DigitalTwinをプラットフォームとして提供するこのソリューションには、現場のモニタリングデータをリアルタイム・精緻に可視化するものや、ビッグデータ分析による不良要因の特定や故障予兆の察知を行うものがあります。「ものづくり」の現場で発生するデータを的確に可視化・分析し、アクションにつなげることで、逐次変化する現場の状況に的確に対応できるものづくりが可能になります。

 さらに、製造現場にあるさまざまな製品や装置をネットワークに接続するソリューションでは、現場に近いところでリアルタイムに処理するエッジコンピューティングにより、インテリジェント化されたデバイスをクラウドと連携させる「Chip to Cloud」などの最新技術も提供。エッジからクラウドまでのトータルなIoTソリューションにより、すべての機器が連携し、現場の状況に合わせて自律的に動く革新的なものづくり環境を創出していきます。

140年磨き続けたものづくり力で、製造業の次世代化を切り拓く

 ものづくりの次世代化を実現するためには、単なるIT化ではなく、現場の業務や現実世界を変えていく必要があり、まだまだ多くの課題があります。企業や国の枠を超えたコンセンサスやルールづくりも必要です。

 東芝には、140年にわたり脈々と受け継がれてきた「ものづくりDNA」があります。その間、製造業を取り巻く環境の変化を幾度も乗り越えながら、社会インフラや産業機器、家電・オフィス機器、電子部品、半導体に至る広範な分野で、ハードウェアからソフトウェアまで実際にモノをつくる力を磨き続けてきました。

 これからも、その力を発揮してお客さまとの先進プロジェクトの推進、新たな技術開発を進めるとともに、グローバル企業との連携にも積極的に取り組んでいきます。そして、ICTソリューション事業を担う私たち東芝デジタルソリューションズ株式会社だけでなく、生産技術を磨き続けてきた東芝の生産技術センターなどと一緒にグループの力を結集して、お客さまのものづくりの次世代化を支えてまいります。

“目利き”の技術で、生産現場に変革を 「生産技術センター」が考える 次世代
ものづくりの必須要件とは?

[写真] 堀 修

株式会社 東芝
生産技術センター 所長
森 郁夫
- Ikuo Mori -

 東芝の高度なものづくりを支える生産技術センターでは、生産に関わる要素技術をはじめ、生産エンジニアリング技術、構造設計・製造技術、メカトロニクス技術などの研究開発を行ってきました。そんな私たちが今、次世代ものづくりの課題をどのように捉え、今後の解決に向けて何を提供していくのかを紹介します。

次世代ものづくりのアプローチは、現場のデータ活用から

 製造データを扱うインフラが脆弱だった時代とは異なり、現在、製造現場で取得可能な情報は、その種類も量も増大しています。これらを可視化し分析するツールが次々と登場したことで、以前は目視で確認していたものを画像処理技術で解析して、比較的簡単にパターン化できるようになりました。これまで見えていなかった部分の把握や改善のスピードを飛躍的に高める仕組みや環境の実現こそ、私たちはものづくりの次世代化へのアプローチの第一歩と捉えています。

 しかし、製造データを集め、それらを有効に活用するためには、製品特性や製造形態を十分に考慮しておかなければなりません。例えば、タービンのような大型の受注生産においては生産進捗管理や現品管理の最適化が非常に重要な要素となります。一方、半導体のような超量産型のプロセス系製造ラインでは、不良や不具合が発生する要因をさまざまな視点から検証することが必要です。

現場で培った高度な“目利き”で、特性に応じた次世代化を推進

 こうした次世代化の課題に対する当センターの強みは、ものづくりの特性に応じた効果的なICTの活用を見極めることができる“目利き”の技術です。例えば、受注設計製品における繰り返し加工のプロセスに量産品の生産管理を生かすなど、製造を構成する要素を細分化し一般化することで、多種多様な製品や製造現場で培ったノウハウの横展開ができると考えています。

 また半導体製造の工程内や工程間の条件を動的に変えて最適化を行うフィードフォワードやフィードバック制御にもICTの活用は欠かせません。そのために品質や効率の変動メカニズムを推定する高度なノウハウや豊富なナレッジを蓄積し、さらにビッグデータ解析やシミュレーション技術によってその精度や効果を高めています。今後はそのポテンシャルを最大限に活用して、安定した生産を見据えた設計・製造・部材調達や、出荷後の輸送コストまでも考慮した企画〜設計〜生産プロセスの最適化など、製品ライフサイクルの上下流にまで生産技術を広げていきます。

 次世代ものづくりを実現しようにも、どう具体化すべきか、現場のデータをどう改善に役立てればいいのかが、大きなハードルの一つになると思います。それを超えるために当センターでは、今後も数々の現場で培った目利きの技術と高度なテクノロジーに磨きをかけていきます。そして東芝デジタルソリューションズ株式会社と密に連携を図りながら、それぞれの現場で親和性が高い次世代化を実現し、ものづくり起点の新たな価値創造に貢献していくつもりです。

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