東芝の知財戦略を支える「Eiplaza 知財管理サービス」
知財管理業務に欠かせない情報共有基盤をクラウド環境で整備

 特許権や実用新案権、意匠権など知的創造物に関する権利をはじめ、商標権や商号、商品表示といった営業上の標識に関する権利など、さまざまな形で保護されている知的財産権。これら貴重な経営資源となる知的財産の権利を適切に管理していくことは、企業の競争力を高めていくために欠かせないものだ。その基盤となるインフラ作りはとても重要になってくるだろう。株式会社東芝(以下、東芝)は、知的財産の中でも意匠権の管理を目的に特許業務ソリューションのクラウドサービス「Eiplaza 知財管理サービス」を導入し、社内各カンパニーに分散していた管理基盤を統合、業務の効率化と競争力の強化につながる環境を短期間で整備した。今回は、東芝が掲げる知財戦略の方向性とともに、実業務の中でEiplazaがどう生かされているのか、その運用について東芝 技術統括部 知的財産室のメンバーに話を伺った。

知的財産による事業貢献と拡大を目指す東芝の知財戦略


株式会社 東芝
技術統括部 知的財産室
室長
熊谷 英夫

 現在東芝では、2015年12月に新生東芝アクションプランを発表し、強靭な企業体質への変革を図っている。その中でも重要な鍵と考えられているのが「技術力」の強化だ。「東芝だけが提供することのできる他社にない技術を創造し、その技術を顧客価値へと転換していくことが、変革への道につながると確信しています」と語るのは技術統括部 知的財産室 室長 熊谷氏だ。

 知財の基本戦略として“知的財産による事業への貢献と拡大”を掲げており、ライセンス収入による直接的な事業貢献はもちろん、間接的な事業貢献での収益拡大が重要だと考えているという。「社会インフラを中心とした事業では、東芝の知的財産を活用することでしか作れないソリューションを提供することで受注につなげていくという“間接的な知財活用”がこれまで以上に重要になってきます」と熊谷氏は力説する。

個別最適化された意匠管理の仕組みからの脱却を図る


 知財戦略に欠かせないのが、知的財産の管理基盤だ。東芝グループの知的財産の管理においては、特許権を中心に管理基盤が構築されているが、意匠権などデザイン性が問われる権利については、知的財産室やデザインを担当するデザインセンター、そして社内カンパニーごとに個別の管理が行われていた経緯がある。

 「意匠に関しての出願手続きは知的財産室が行っていますが、例えばデザインセンターでは提案段階のデザインを個別に管理しており、意匠出願後の情報管理は社内各カンパニーが個別に行っていた部分もあります。これらを統合することで、情報共有を円滑にし、管理負荷を軽減できる仕組みが求められていたのです」と知的財産室の山口氏は語る。

株式会社 東芝
技術統括部 知的財産室
室長附
山口 晴久

株式会社 東芝
技術統括部 知的財産室
室長附
千葉 牧子

また特許を中心としたシステムと管理項目の文言の違いはもちろん、意匠で重要なデザインのビジュアルが一つの画面で表示できず、別のシステムを呼び出す必要があった。

「特許で言えば“発明の名称”“発明者”という項目が、意匠の分野ではそれぞれ“物品名”“創作者”といった文言が使われます。意匠独特な文言で管理できる仕組みが必要でした」と知的財産室の千葉氏は実務における特許権との違いを語る。ほかにも、特許の場合は各カンパニーからの申請が主なものになるが、意匠の場合はデザインセンターが中心となるなど、業務フローが異なっている部分も少なくない。「知的財産室で管理している情報は社内各カンパニーには公開していなかったこともあり、情報共有できる基盤を整備したいと考えたのです」と千葉氏。

柔軟なセッティングおよび短期間導入が可能なクラウドサービスを選択


 意匠権を管理する新たな基盤を模索する過程で精力的に情報収集を行った山口氏だったが、意匠管理は特許権管理の大きなソリューションの一部として提供されているものが多く、個別に導入できるものが少なかったという。そんな中で山口氏の目に留まったのが、同じ東芝グループのインダストリアルICTソリューション社が提供するクラウドサービス「Eiplaza 知財管理サービス」だった。「複数の環境を統合するため、情報共有しやすいものが必要です。その点、クラウド環境であればどこからでもアクセスできます。また、項目名の追加や変更、画面インターフェイスのレイアウト、業務フォルダの作成など自社の運用に合わせた柔軟なセッティングが可能だという点も大きな魅力の1つ。意匠管理の部分だけで活用でき、小さく始められるのも大きなポイントです」と山口氏。もちろん、オンプレミスのように初期費用を膨大にかけずとも、月々の費用で利用できるという点もクラウドならではのメリットだと語る。

 また、短期間での導入が求められていたこともあり、クラウドをベースにセッティングしていける環境が同社には適していたと千葉氏。「デザインセンターのシステムと、国内そして海外の意匠管理という3つの仕組みが個別に稼働していたため、これらからデータ移行を行ったうえで自社の環境に合わせることが必要です。この短期間で稼働させることができるかどうかも重要なポイントでした」。この点でも、クラウドサービスのメリットが大きく活きているという。「プロジェクトでは、毎週1回定例会を開催し、進捗確認や要望の共有、不明点の解消などを進めていきました。必要であればその場で画面を見ながら修正を行うなど、プロジェクトを推進するうえで強力にサポートしてもらいとても助かりました」と千葉氏は評価する。2015年5月から始まったプロジェクトだが、知的財産室では2015年10月に利用を開始。わずか6か月で稼働にこぎつけ、社内各カンパニーへの公開も同年12月から行っている。

 ほかにも、特許や意匠に関する豊富な知識を持ったエンジニアがサポートしたこともプロジェクトを円滑に進めることができた要因の1つだと千葉氏は分析する。「知的財産について精通している方にサポートいただき、制度など業務に関連したことを説明せずとも私たちが必要としていることをすぐに理解して下さいました」と人材面での評価も高い。

システム維持費が3分の1にまで軽減、業務効率化に大きく貢献


 現在は「Eiplaza 知財管理サービス」を意匠管理の中核に据え、知的財産室やデザインセンター、そして各カンパニーの意匠担当を含めて100名ほどで情報共有しながら、意匠に関する提案の管理や出願手続き業務、意匠登録の管理などが行われている。現在管理されている意匠は、意匠出願前の提案レベルのデザインや国内外で権利を持つ意匠権およそ39,000件にも及んでいる。

 仕組みとしては、意匠出願前の提案レベルの情報から管理できるようになっており、出願が必要なものの意匠出願用の図面を作成したうえで知的財産室に意匠出願の依頼が行われる。依頼が行われると特定のフォルダにその情報が格納され、知的財産室の担当者がその情報をもとに特許庁への願書を作成、インターネットを経由して特許庁へ出願を実施する。登録査定の知らせが特許庁から来た段階で、登録料の納付書を作成、納付することで登録番号が付与される。これら出願や登録に関する通知は各カンパニーに自動的に行われ、出願番号や登録番号などは外部のデータベースを介して知財管理サービスに取り込まれたり、必要な際には公報がいつでも確認できるなど、意匠の提案管理から登録後の意匠権管理までが一元管理できるようになっている。ほかにも、外部の公報検索システムと連携しており、登録公報も閲覧できるようになっており、必要な際にはいつでも確認できる仕組みだ。

「Eiplazaは情報を管理するフォルダが自由に作成でき、ステータスに応じて自動的にフォルダに情報を集めることが可能です。アクセス権も自由に設定でき、誰に何の情報を公開するのかも自由自在です」と千葉氏は評価する。当初課題になっていた登録情報の項目名変更も辞書編集機能を使うことで自由に実施でき、自社独自の管理項目も追加できるようになっている。

株式会社 東芝
技術統括部 知的財産室
川田 浩子

 「テキストのみの管理が主だった以前のシステムと比べて、きちんとデザインのビジュアルが一目で確認できるようになりました。短期間で意匠管理に適した仕組みを構築することができました」と山口氏はその効果を語る。各所に出願や登録の情報がメールで自動配信されるようになり、手作業による通知がなくなったことで作業効率が向上、コスト面でもこれまでのシステム維持費と比べてわずか3分の1にまで抑えることに成功している。また、以前はデザインセンターで管理されている提案情報を出願時に知的財産室で確認したい場合には、デザインセンターに問い合わせをする手間も発生していた。今は出願に必要な情報がすべて網羅されており、それらが関係者全員で共有できるようになっていると知的財産室の川田氏 は高く評価する。「以前は各カンパニーでもExcelなどで個別管理を余儀なくされていたところもありましたが、今は全員が同じインフラを利用することで情報管理が容易になっています」と川田氏 。アクセス権の管理も厳密に行うことで、統制環境もしっかり整備することができている。

知的財産を管理する統合的な情報活用基盤へと成長させる


 熊谷氏は「最近では画像デザインなど意匠に関する情報も特許情報との連携が必要になりつつあります。画像デザインをはじめとしたデザイン性についての意匠と特許がうまく紐づけて管理できるような基盤にしていくことで、社会インフラ系の知的財産活用をさらに進めていきたい」と語る。また、意匠権とその他の知的財産権がクロスオーバーするケースもあり、多角的に意匠を保護するという潮流が今の時代に求められている。「工業デザインに関しては、意匠法のみでなく、他の権利も含め総合的に保護するという流れがあるのは事実。だからこそ、デザインに関するさまざまな情報を一元管理し、Eiplazaを総合的な情報活用基盤に育て上げていきたい」と山口氏は意気込みを語る。

 知財管理業務の強力な基盤として活用されている「Eiplaza 知財管理サービス」。事業への貢献と拡大を目指す東芝グループの知的財産戦略の未来を担っていくことだろう。

この記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは2016年5月の取材時のものです。