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自律型の新入社員を育成する

人材育成

福井 夏子
株式会社ジェック インストラクター

自律型の人材でないと、これからの戦力にはならない

 今、育成したい新入社員像を一つあげるとすると、「自律型の人材」が上位に挙がるのではないかと思います。これ自体は、ずっと昔から同じだったかもしれません。しかし今は、今までとは異なる背景から、より切実に自律的な人材が必要とされています。
 今までと異なる背景とは、自律型の人材でないと会社の戦力にならない時代になってきた、ということです。
 日本経済が世界から称賛を浴びていた頃は、組織の上の層の人が物事を決めて指示を出し、現場のメンバーはその命令を実行する、いうことで業績が上がっていました。バブル経済と呼ばれた頃までがそんな時代だったと思います。その頃までは、指示通りに行動できる社員こそが戦力でした。
 ところがバブル経済以降は、正解がない時代となりました。何をやることが、あるいはどんな商品やサービスが当たるかは、やってみないとわからない時代となりましたので、試行錯誤しながら正解を探していく、あるいは最適解をつくっていかなければならなくなりました。しかし、上から指示されたことを指示された通りにしか行えない人材からは、新しいアイディアは出づらいですし、新しいものやサービスを創っていくことが、なかなか行えません。将来を担う新入社員は、自ら考え、自ら知恵を出し、自ら行動していく自律型人材に育てていかないと、企業の将来をつくることはできないのです。
 バブル崩壊から、もう30年近く経っています。さらに今、技術や社会自体の大きな変化を目前にして、これは切実な課題となっています。

自律型の人材とは、自分で自分を伸ばそうとする人材

 自律型の人材の具体的なイメージとは、新入社員の場合で言えば、自分から質問をする、言われなくても周囲を手伝うなどの行動で現れるでしょう。資料のファイリングなどでも、今までのやり方をその通りに習い覚えるだけでなく、「どうしてこの方法がいいのだろう」「この方法のいいところはコレで、ちょっと無駄がある点はココだな」などと考え、疑問をもったら先輩に聞いたり、改善提案をしたりするようだと、さらにいいですね。少し仕事を覚えた頃になったら、自発的にビジネスや自己啓発の本を読んだり、将来のための情報収集といったことをするかもしれません。
 つまり自律型の人材とは、自分で自分を「伸ばそうとする」、或いは自分が関わるものを、「もっと良くしていこう」と考える人材です。
 受け入れる側は、新入社員のそうしたいと思う気持ちやそんな行動を引き出し、伸ばしていくことが大切です。ではその育成ポイントを、「新入社員研修」「上司」「職場」、それぞれについてご紹介していきます。

新入社員研修時:シミュレーション演習で、実際に自分で考えてやってみる

 私たちが行っている新入社員研修では、知識として教えるべきことは最初に伝えた後に、シミュレーション演習の時間を多くとるようにしています。
 例えば「報・連・相」を身につけてもらう際には、「クライアントAのニーズに最も合った販促ツールを制作する」などというシミュレーションに取り組んでもらいます。お客様役の人にヒアリングしたり、上司役の人に連絡や相談をしたりして販促ツールの企画を作り、発表してもらいます。その発表に対して、「どうしてこう考えたのですか」「その時、誰に相談しましたか」「最初に確認するときにはどうしていましたか」などと具体的に質問し、自分たちの行動を振り返って答えてもらいます。
 つまりポイントは、自分で考えて気づくことを求める、ということです。シミュレーションの場合には、正解があるわけではありません。しかし、最終的にはお客様役の人が特定の指標に基づいて、1つの提案を採用します。新入社員には自ら考えて気づき行動するということを、できるだけ数多くやってもらうことが大切です。
 指導スタイルも10年前の新入社員研修であればもっと、「ビジネスの世界はこうなっていますから、こうしてください」という「基本」を伝えるスタイルが中心でしたが、今は自分で考える場面を多くもたせています。「『基本』はこうなっています。これを、職場で実践するためにはどうすればよいと思いますか?」と考えさせるスタイルを多くとるようにしています。

上司:最初の一か月の教育プランを準備する

 新入社員を受け入れる職場の上司は、受け入れる準備をきちんと行っていくことが大切です。
 受け入れる準備とは、教えるべき事柄を洗い出し、教える順序を決めるといった教育プランをつくっておくことです。作業手順や機器の使い方マニュアルなども事前に揃えていくとよいでしょう。
 受け入れる側としては自分の仕事も忙しいため、新入社員がわからないことへの想像力をあまり働かせることができないことがよくあります。例えば、新人が行った仕事に対して、「これはやり方が違います。もっとこうした方がよいですよ」と伝えたり、苦労して作業をしている様子を見て「マニュアルがあるから、これを読んでやってください」といった指導をしてしまうと、新人からしてみると、「だったら、最初に教えてくれればいいのに!」と思うでしょう。余計な時間を使わされてしまった、と腹をたてる人もいます。指導する側からすれば、「自分が新人の頃はマニュアルもなかったし、自分で覚えたのに、最近の新人はすぐに正解を求める」と感じてしまうところかもしれませんが、すでに良いマニュアルがあるのであれば、それを事前に伝えていくことは大切なことです。受け入れの前に準備しておくことが大切なのです。
 感覚的には配属後の1か月間くらいを集中的に教えることに時間を使えば、大体の基本は覚えられるのではないかと思います。今の新入社員は、物心ついたころからインターネットを使っていますから、情報を学んで習得することには慣れています。そのせいか、覚えることは早い傾向があります。そしてそのあとに、自分で考えるように促していけばいいのです。

職場:ウェルカムする雰囲気を作る

 新入社員を受け入れる職場は、是非、彼らをウェルカムする雰囲気を職場全体でつくってほしいと思います。今は仕事が専門化・細分化して、PCや機械などに向かって一人でこなす仕事が増えています。そのため、新入社員が入ってきても話しかける必然性が低く、一緒にランチに行くこともないなど、以前より職場全体で歓迎する空気が減ってきているようです。そうなると、周囲の想像以上に新入社員は緊張し、自分は不要な存在なのではないか、などと孤立感を感じてしまいます。新入社員が委縮してしまっては、職場全体としても損失になります。
 ですから是非、職場全体で新入社員を歓迎し、育てていく雰囲気をつくっていただきたいと思います。そのためには職場全体のコミュニケーションを活発にすることが大切ですし、上司が周囲と相談して新入社員の育成プランをつくることも雰囲気づくりに役立ちます。リーダー候補として期待される先輩社員をOJTリーダーとして会社から正式に任命し、新入社員の受け入れに先立って教育するなどして、新入社員へのOJTの質を上げるという方法も有効です。これは、OJTリーダーとなった先輩社員のリーダーシップを伸ばすことにも役立ちます。

現場で育つ! 自律的で、打たれ強い社員へ

 新入社員の育成は、入社から1か月などといった短い期間で完了することではありません。少なくとも1年、できれば3年くらいは新入社員を育成するととらえ、計画をたてて行っていくことが望ましいと考えます。
 育成は人事だけの役割ではなく、上司との1対1の関係の中だけで行えることでもありません。職場全体で育てていく体制や雰囲気をつくっていくことが大切です。そして育成のベースは、なんといっても日常的なコミュニケーションです。たくさんの対話をしていっていただきたいと思います。


福井 夏子(ふくい なつこ)
株式会社ジェック インストラクター
『組織における多様性活用の支援』(グローバル人財育成・女性活躍支援)を得意とし、国内のみならず海外においても、エンパワーメントを促す支援を行っている。「どうすればできるようになるのか。私たちは何を創造していけばよいのか」というポジティブ・アプローチによる“支援型”のファシリテーションが強み。国家資格2級キャリア・コンサルティング技能士、JCDA認定 キャリア・ディベロップメント・アドバイザー 資格保有。

福井 夏子氏
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