2019年新入社員「企業人としての意識調査」から考える
~今どきの新入社員の育て方~

福井 夏子
株式会社ジェック インストラクター

「企業人としての意識調査」とは

弊社株式会社ジェックは、毎年お手伝いさせていただく新入社員研修の中で「社会人としての意識調査」を行っています。2019年度は約1600名の回答を得ました。この調査は、毎年同じ設問項目で意識調査を行っているため経年変化をとらえることができ、よりはっきりと新入社員の意識の変化をとらえることができます。
そこで、2020年の新入社員を迎える前にこの成果を共有させていただき、今どきの新入社員の育て方を考える指針の1つにしていただければと思います。
まず、簡単に調査の概要をご説明させていただきます。この調査は、企業人としての成長のために大切な5つの意識について調査します。5つの意識とは、

  1. 職業人の意識
    地道な努力を大切にし、言われた通りにまずやってみようとする意識。素直さ。
  2. 自己実現の意識
    能力や個性を思う存分発揮しようとする意識。積極性。
  3. 貢献・報酬の意識
    百の知識よりも、1つの成果、業績を重んじようとする意識。責任感。
  4. 組織活動の意識
    規則に従い、連絡を密にしようとする意識。協調性。
  5. 人間関係の意識
    相手を尊重し、礼儀作法に配慮しようとする意識。礼儀正しさ、思いやり。

という5つです。

調査の方法は、例えば「仕事は一生懸命にやろうとさえすれば、結果は重要ではない」といった質問を50個提示し、それぞれに対して、「そう思う」「そうは思わない」「わからない」という3択で回答していただきます。そしてその回答を、独自の算出方法で点数化し、それぞれ25点満点で点数を算出し、5つの意識の強弱を把握します。
2019年度の新入社員に対して行った意識調査の結果は、左記のようなものになりました。

新入社員の傾向を、「意識調査」の経年比較から捉える

以下の図は、5つの意識の経年変化をグラフ化したものです。もちろん毎年細かな増減はありますが、こうしてみると単なる揺らぎとはいえない、変化の傾向をとらえることができます。

まず気になるのが、「職業人の意識」の部分です。
2011年をピークにして、「いわれた通りに、まずはやってみよう」という、素直さの意識が右肩下がりになっています。
研修現場での実感も交えて解説しますと、近年の新入社員はよく勉強しているなと感じます。インターネットが普及し、スマホで何でも調べられる環境で育ってきたからか、知識が豊富です。インストラクターが指導した内容についても、すぐに理解して飲み込むというよりは、「でも別の考え方もあるよね」といった反応が増えてきたと感じます。
「自己実現の意識」も、下降が目立つ意識です。
新入社員研修で、将来どういう風になりたいかを聞いても、「社会人として及第点をとりたい(無難に仕事をしたい)」といった回答が増えています。ただ、この2年ほどは下げ止まり、少し上向く傾向がでてきました。任されたことについては責任を果たしたいという「貢献・報酬の意識」も同じく、この2年ほど、少し上向いています。
「組織活動の意識」と「人間関係の意識」は、徐々にですが年々下降傾向にあります。研修や教育現場の実感としては、趣味の世界などでのつながりはあっても、部活動のような厳しい上下関係やチームワークを求められる経験をしてきた方は少なくなっているように感じます。
近年の新入社員の傾向を総括すると、知識量は多いけれどチームワークや上下関係の経験は少ない。しかし、仕事に対する責任は自覚していて、組織の中では役に立たなければいけないと考えている、といった人材像になるのだと思います。

今どきの新入社員に「響く指導」、「響かない指導」

そんな今どきの新入社員に「響きやすい指導」と、「あまり響かなくなってきた指導」にも変化があると感じます。
少し以前でしたら、「時間を守ってください」「きちんとした服装をしてきてください」と言えば、新入社員はそれを守ろうとしてくれたのですが、今は「なぜ、企業においては時間を守ることが必要なのか」「なぜ、仕事の場面ではきちんとした服装を求めるのか」といった理由を伝えないと納得しません。逆に言うと、理由を伝えれば素直に動いてくれる場面も多いです。
パワハラにならないように言い方は気をつけるべきですが、意外にも、少し厳しめなピリッとした指導は彼らによく響き、喜んで受け入れてくれます。
自分の行動を振り返る、ということには積極的です。「確かにこの考え方は甘いかもしれない」「私は自己中心性が強いから、もっと周りをよく見ていくようにしよう」等と、的確に自分自身の課題を言語化し、改善行動をとろうとする傾向があります。
逆にあまり響かなくなってきたのではないかと感じるのは、競い合わせるような指導です。例えば当社の研修の一部では、受講者をグループ分けして、グループごとに研修の中で点数を獲得するような場面(ex.挙手をして発言すると得点が入るなど)をつくり、積極的な参画を促すというシステムがあります。全員を巻き込み、参画意欲を高めることを目的にしているのですが、これに対して、「競争することに意味があるのだろうか」といった疑問をもつ人も増えました。
ですから、「もっと頑張れば一番になれるぞ」「このままでは、あいつに負けてしまうぞ」といった言葉で指導するより、「これにはどんな意味があると思うか」「ここはこうしたほうがいい。なぜなら…」といった言葉をかけるほうが、今どきの新入社員には響く指導になります。

対話ができる機会をつくることが、すべての指導のベース

新入社員には、覚えてほしいことや身に着けてほしいことが沢山あります。それを丁寧に教えなければならないということは、今も昔も変わりません。ですが、今の新入社員の育成の中で大切なのは、彼らはどんな価値観の中で育ってきたのか、何をわかっていないか、どう思っているかなどを知るための対話です。
例えば昨年の新入社員研修の際に無断遅刻をしてきた方がいたのですが、理由は電車の遅延でした。「電車が遅延する場合は連絡をするように」と事前に指導をしていたのに、何故、連絡をしなかったのかと聞くと、連絡をしてダメな奴だと思われることを想像して、どうしても連絡ができなかったようでした。また研修ではありませんが、現場の事例として、あるマネジャーが新人に資料のコピーを取ることを頼んだのですが、会社のコピー機の操作方法がわからず、かといって誰かに聞くこともせずに、何時間もコピー機の前でたたずんでいるということもあったそうです。
どちらも私達からみると、「新人は分からないのが当たり前なので、分からないことは上司や先輩に聞けばよいのに」と思うことですが、彼らからすると「できない奴と思われるのではないか」という不安があり、聞くことができない、連絡することができないといったことが起こりました。
また、新入社員の彼らは、自分からは周囲の人に働きかけをしない傾向もあります。
そんなギャップを埋めるには、話しやすい雰囲気をつくり、対話をする機会を増やすことでしょう。
例えば、入社後のガイダンスが終わって1~2週間後くらいのタイミングで、4~5人くらいのグループで対話会をすることなどはおすすめの方法です。
そこで、仕事以外の話題も含めて、言葉を交わし、本音を聞きだしたりしながら、「新人は上司・先輩に質問をしたり、働きかけをしていいんだ」ということを伝えていくことが、効果的なのではないでしょうか。

福井 夏子(ふくい なつこ)
株式会社ジェック インストラクター

『組織における多様性活用の支援』(グローバル人財育成・女性活躍支援)を得意とし、国内のみならず海外においても、エンパワーメントを促す支援を行っている。「どうすればできるようになるのか。私たちは何を創造していけばよいのか」というポジティブ・アプローチによる“支援型”のファシリテーションが強み。国家資格2級キャリア・コンサルティング技能士、JCDA認定 キャリア・ディベロップメント・アドバイザー 資格保有。