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いま必要なコンプライアンスの考え方

人材育成

中村 葉志生
株式会社ハリーアンドカンパニー代表取締役

なぜ企業の不祥事が起こるのか

 いまでは、多くの企業がコンプライアンスに取り組み、教育の場などを提供していますが、一方で、企業の不祥事は後を絶ちません。では、なぜ不祥事は起きてしまうのでしょうか。また、それを防ぐためにはどのような取り組みが必要なのでしょうか。今回は、コンプライアンス教育を実のあるものとするために欠かせない、不祥事のメカニズムやコンプライアンスを考える際に知っておきたい基本的な事柄について解説します。
 まず、企業不祥事が起こる背景を探ってみましょう。
 企業不祥事というのは、「人の資質」と「組織の体質」に問題があるときに起こると私は考えています。人の資質に問題があるものとしては、横領や個人情報の不正持ち出し(日常業務内)、飲酒運転や薬物使用(日常業務外)などがあげられます。
 組織の体質に問題があるものとしては、品質データの改ざんや食品産地偽装(日常業務内)、社内行事における未成年の飲酒(日常業務外)などがあげられます。
 つまり、コンプライアンス教育の前提となるのは、教育研修やOJTなどで人の資質の向上に取り組み、ヘルプラインや内部監査などで組織の体質向上への取り組みを怠らずに継続していくということです。
 そして、人の資質、組織の体質を高め、よりよくしていく努力というのは、一企業だけで取り組むことができることなのです。

故意と過失、作為と不作為

 人や組織が犯す罪を、「発端」と「行為」という視点で整理してみましょう(図表)。
 犯す罪の発端は、「故意=意図がある、わざとである」と「過失=意図はない、不注意による」に分けられます。たとえば、データを改ざんするというのは故意になりますし、個人情報の資料を紛失したというのは過失ということになります。
 犯す罪の行為は、「作為=することによる罪」と「不作為=しないことによる罪」に分けられます。作為というのは、不正経理などのように、積極的に手をくだすというものです。不作為というのは、不具合を承知しながら対応しなかったというように、手をこまねいてながめていることです。
 不祥事というのは、この発端と行為の結果、引き起こされていくのです。
 私がコンプライアンス問題と関わりはじめた2000年前後は、コンプライアンスは、作為の罪をなくすという活動でした。しかし、いまは間違いなく不作為の罪、つまり、やらないという罪をいかになくしていくのかが問われる時代になっているのです。
 いま、あちこちで起きている企業不祥事も、この図表の4つの象限のどこかに位置しています。どの象限に入っていても、不祥事として世の中から糾弾されてしまうことを知っておくべきです。

図表 故意・過失/作為・不作為による不祥事の整理

法令遵守と企業倫理

 コンプライアンスを理解するときには、2つの視点で捉えることが重要になります。
 1つは、狭義のコンプライアンスである「法令遵守」。もう1つは、広義のコンプライアンスである「企業倫理」です。
 「コンプライアンスといえば、法令遵守」と言う人が多いように、国内外の法令や省令、さまざまな条約、企業の内部規則など、明文化・規定化され定められたものを厳格に守ることは、人や組織にとって最も重要なことになります。
 ただ、「コンプライアンスとは、法令遵守だけではない」ことを肝に銘じておかなければなりません。
 現在では、法令遵守はもとより、広義のコンプライアンス、つまり企業倫理への取り組みがより一層求められているのです。
 では、企業倫理に立脚した行動とは、どのようなものなのでしょうか。「良識性」「誠実性」「公正性」「主体性」「遵法性」という5つの側面から整理しました。

  1. 良識性…社会から信頼を得られるかどうかを考え行動する、職場の常識や社会の常識とのギャップを考え行動すること。マナーをわきまえて行動する、社会通念に則って行動する、常識や節度をもって行動することである。協調性もここに含まれる。
  2. 誠実性…嘘をつかず、ごまかさず、人のために尽くすことであり、正直に、真剣に、まごころをもって行動することである。迅速性、スピーディーな行動もここに含まれる。
  3. 公正性…誰が見ても正しく、納得性のある行動をとること、誰からも後ろ指をさされない行動をすること。透明性もここに含まれる。
  4. 主体性…何事も自分事として捉えること、他人事としないことであり、見て見ぬふりをせず、当事者意識をもって行動することである。利他性(相手の立場に立つこと)もここに含まれる。
  5. 遵法性…法令など明文化・規定化されたものを守ることはもとより、法の抜け道を歩まない行動をすること。明文化されていないからやってもよい、やらなくてもよいではなく、法ができた目的、主旨、背景などに鑑み、適否を考えて行動することである。法令遵守よりも捉え方はより深くなる。

 具体的には、歩きスマホは慎む、電車内のイヤホンの音漏れに注意するなどは「良識性」に照らした行動です。事務処理ミスをしたらすぐに報告する、都合の悪い事実を隠さないなどは「誠実性」。好き嫌いで部下を評価しない、情報公開や説明責任をきちんと果たすというのは「公正性」です。「主体性」では、ハラスメントをしないとか、社会貢献活動をするといった行動があげられます。
 つまり企業倫理への取り組みというのは、決して法律などで縛られているわけではなく、どこまでやればよいのかという行動の線引きや中身も、時代や地域によって変化するということになります。
 こうした問題を考える際にヒントとなるのが、不祥事を予防するために必要な姿勢である、「抑止」と「自律」です。
 「抑止」とは、「やめる、やらない、守る」ということで、「堅持」とも言い換えられます。
 「自律」とは、「気づく、考える、ただす」ということで、「柔軟」と解釈することができます。
 法令遵守には、間違いなく、抑止する、堅持するという姿勢が必要です。
 一方、企業倫理の「良識性」「誠実性」「公正性」「主体性」「遵法性」という行動には、社会の変化に柔軟に対応して、自ら律していくという姿勢が不可欠だということです。
 コンプライアンスへの取り組みやコンプライアンス教育においては、この抑止と自律が両輪となっていなければなりません。


 多くの会社では「行動規範」をつくっていることと思います。ただ、それが形式的なものや絵空事になっているのが、残念ながら現状です。行動規範には、人と組織のあるべき姿とありたい姿が書かれているはずです。
 とくにコンプライアンスで大事なのは、「今は100%ではないかもしれないが、こんな社員でありたい、こんな仕事の進め方をしたい、こんな職場にしたい」というような、「ありたい姿」「あるべき姿」をめざす努力を続けていくということです。ぜひ、理解をしたうえで、コンプライアンスに取り組んでいただきたいと思います。


中村 葉志生(なかむら はしお)
株式会社ハリーアンドカンパニー代表取締役
1959年東京生まれ。わが国有数のシンクタンクである日本能率協会総合研究所において、1990年代にビジネスエシックス(企業倫理)研究センターを立ち上げ、わが国の企業倫理・コンプライアンスに関わる分野の先駆けとなる。現在は、海外本社のグローバル企業、日本を代表する企業など国内外で、企業倫理、コンプライアンス、組織風土継承改革などに関わるコンサルティング活動を展開、各企業の有識者会議委員にも就任している。また、日本経営学会などに所属し、企業や行政機関において年間100回あまりの講演・セミナーを行いながら、立命館大学大学院客員教授など複数の大学の教壇にも立っている。著書に、『上司がしてはいけない40のタブー』『経営倫理用語辞典』などがある。

中村 葉志生氏
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