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管理職のためのウェルネス

人材育成

大西 みつる
株式会社ヒューマンクエスト代表取締役社長
立命館大学経営学部客員教授

管理職にこそウェルネスが必要

 現場の要となっている管理職の多くは、年代的にいえば35歳から50歳手前くらいが多いでしょう。この年代は、人生のライフステージにおいて、様々な負荷がかかる時期でもあります。子育てに時間がかかったり、子供の教育の問題があったり、親の介護についても心配です。地域の自治会などでも責任を求められるかもしれません。「働き盛り」といわれる年代でもあり、仕事においても様々な期待がかけられます。

 日本人は、「懸命にやることが美しい」という価値観をもっている人が多いので、それぞれの期待に対してベストを尽くそうとします。それは頼もしい姿に見えるかもしれませんが、冷静に考えれば相当に大きな負荷がかかっています。

 特に、管理職として困難な状況に立ち向かったり、リーダーシップを発揮したりという場面では、大きな心のエネルギーが必要です。前向きなエネルギーがだせる心と体の状態がなければ、いくら頭では「頑張らなくては」と考えても、うまくいかないのではないかと思います。

 このように、前向きな思考ができたり、自分らしいパフォーマンスがあげられたりする心身の健全な状態といった、より広い概念の健康観のことを、ウェルネスといいます。

 心身の健全な状態というと、うつ病予防など管理職がメンバーに対して気を配らなければならない役割の1つ、として考えられることが多いと思いますが、管理職こそ、もっとウェルネルに気を配ることが必要です。

仕事の量をマネジメントする

 管理職のウェルネスを考えるとき、管理職自身がまずやるべきことは、「頑張ることを辞めること」です。

 私が管理職研修でこう言うと、受講生の皆さんは驚きます。

 「そんなことできない!」「無責任なことをいうな!」
と腹を立てる方もいます。ですが、
 「頑張ることを辞めるとは、無理することを辞めるという意味です。無理があることを頑張って何とかしていくことを続けても、何も好転しません。」
というと、思い当たることがあるような顔になります。

 心身を良い状態に保っていくためには、やはり物理的な働く時間のことを抜きにしては考えられません。まず、体を張って頑張るということを辞めるということを決めてください。

 そして、自分の職場の仕事を減らすくらいのつもりで、やらなくてもいいことを見つけ、やめていくことを考えるべきです。私の経験では、会議や打ち合わせはやめてもいいものが沢山あります。例えば、情報を共有するための会議などは不要でしょう。情報を共有する方法はいろいろありますし、必要以上に時間がかかっているのではないでしょうか。いつまでも結論が出ない会議だったら、結論をだせる材料がそろうまで会議を先延ばししたほうが合理的です。

 また管理職は、上司からの指示をある程度は取捨選択する姿勢も持つべきでしょう。こんな視点で考えたらどうなるだろうか、こんなやり方はどうか、などと色々なアイディアを検討することはとても良いことですし、必要なことでもあります。しかしそのアイディアのすべてに、直ちに、現場業務の責任も持ちながら、もれなく対応していたら、時間がいくらあっても足らなくなります。リーダーシップは、メンバーに対してだけ発揮するものではなく、上に対しても発揮されるべきものです。

自分の状態を振り返る時間をもつ

 モチベーションの最大の敵がストレスですから、ストレスマネジメントも大きな問題です。スポーツのメンタルトレーニングでは、Ideal Performance Statement(IPS)という言い方をするのですが、パフォーマンスをあげるためには、体はリラックスしていながら、自信に満ち、集中力の高い状態になるよう心をコントロールできるようになることを目的とした訓練を行います。

 まず自分の状態を自覚することが大切です。気持ちが急いていないか。少しびびるような気持がないか。今、怒りを感じていないか。つまり、「焦り」「不安」「怒り」がないかを、自分の心に向き合って確認するのです。

 そのため必要なのは、振り返りの時間です。短い時間でもいいので、自分のための作戦タイムのような時間をきちんととるようにしてみてください。自分の状態を把握できれば、自分で修正していくことも可能になります。

 気持ちそのものを意識してコントロールすることは難しいと思うかもしれませんが、方法はいろいろあります。最も即効性があるのは、深く呼吸をすることです。呼吸は意識でコントロールできます。単純なようですが、アスリートも、海兵隊の特殊部隊でも、メンタルコントロールのために必ず教えられる方法が、呼吸法なのです。

 また、交感神経が優位な状態から副交感神経が優位な状態に切り替わる自分のスイッチのようなものを見つけておいて、時間をみつけてはスイッチを切り替えることをやっておくのもよい方法です。

よい栄養と積極的休養を

 スポーツの世界では、パフォーマンスをあげるための必須の条件としてコンディショニングの研究も進んでいます。

 コンディショニングとは、目標としている試合に向けて自分の心身の状態を高めていくために、「栄養」「休養」「トレーニング」という3つの要素をマネジメントしていくことをいいます。

スポーツアスリートのコンディショニングの三要素

 スポーツでトレーニングをすると筋肉に疲労が溜まったり毛細血管が傷ついたりしますから、それを回復するための栄養の十分な摂取と、十分な休養が必要です。同じようにビジネスにおいても、仕事による心身の疲労やダメージがあり、それを回復するために、意識的によい栄養を摂取しないと、パフォーマンスを落としてしまいます。

 私が、ビジネスの場面でも栄養のことを意識するようになったのには、私自身の海外勤務時代の実体験があるからです。アメリカに赴任していたのですが、赴任した当初、体がどんどん疲弊していくのがわかりました。そうこうしているうちに、妻がアメリカに合流してくれて、食事が改まったところ、どんどん疲弊していく感覚から解放されるのをはっきり意識できたのです。思い返せば、手軽に食べられるビザやハンバーガーばかり食べていたことがよくなかったのだろうと思いました。

 そして休養です。アスリートは、「○時には寝るように」などとトレーナーから指導されることがあります。トレーニングをしたあとにきちんと栄養を取っても、休息をとらないと体は補修されないからです。時にはトレーニングの時間を削ってでも、休養をとります。これは、これからさらに高いパフォーマンスを上げるという前向きな目標のための休養です。その意味をより意識するために、これをアクティブレスト、日本語でいえば積極的休養と呼んでいます。

 仕事というのは終わりがないものですから、休むことに罪悪感を感じてしまう人もいるのですが、積極的に休むことによってパフォーマンスがあることは、科学的に証明されていることです。

 自分のウェルネスに最も気を配れるのは、自分であると考えて、積極的に休養をとっていただきたいと思います。


大西 みつる(おおにし みつる)
株式会社ヒューマンクエスト 代表取締役社長
立命館大学 経営学部 客員教授
 立命館大学経済学部卒業後、本田技研工業に入社。本田技研工業では、鈴鹿硬式野球部でプレーした後、同チームのマネージャー、監督を歴任。チームを都市対抗野球大会で日本一に導く。その後、人事責任者として人と組織のマネジメントに従事する。人事としての海外赴任歴もある。2009年、株式会社ヒューマンクエストを設立し、人材・組織開発コンサルタントとして独立。経営学とスポーツ心理学を融合したメソッドで人と組織の課題解決に携わっている。

大西 みつる氏
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