管理職に求められるチームの作り方

大西 みつる
株式会社ヒューマンクエスト代表取締役社長
立命館大学経営学部客員教授

チームはそこにあるものではなく、つくるもの

2019年のラグビーWorld Cupは、日本チームが史上初めてベスト8に進出し、とても盛り上がりました。日本チームが合言葉として掲げていた「One Team」は、2019年の流行語大賞にもなりました。いいチームであることがフォーマンスをあげる鍵であるということを、多くの方が改めて認識する機会にもなったのではないでしょうか。

よいチームのほうがパフォーマンスがあがるということは、ビジネスにおいても同じです。ビジネスにおけるチームというと、例えば営業部、第1課などの、部や課という単位を思い浮かべると思います。しかし、部や課がそのままチームであるというわけではありません。

スポーツの世界では、チームはつくものである、という認識があります。そのために、例えばキャンプを行ったり、共同生活をしたりして時間をかけてチームを育てていきます。ラグビーWorld Cupの日本チームも、4年間かけて「One Team」を作ってきたとインタビューに答えていました。それに対してビジネスの世界では、部や課というある程度の人数のいる組織が始めからあるため、既にチームが存在しているかのように考えてしまう人が多くいるように思います。

その組織を課や部という名称ではなく、チームと呼んでいたとしても、実態がチームになっているかどうかは別物です。管理職は、どうやってチームをつくっていくかを考えていかなければなりません。

「チーム」になっている状態とは、どういう状態か

そもそも「チーム」とは、どのようなものでしょうか。

日本では、TVで見る野球のイメージが強くあるのか、チームにおいては監督が指示を出し、選手は監督の指示に従って動くもの、といったイメージをもつ人も多くいます。ですが、野球でも試合ではない場面では必ずしもそうではありません。選手の力を伸ばしたり発揮できるように考えて動くのが監督ですし、選手は従順であるよりむしろ、自主性や主体性を発揮できる環境のほうが高いパフォーマンスをあげますし、まとまりもあるチームの状態になります。

人の集団がチームになっている時の特徴をあげるとすると、それは誰でも自由闊達に自分の意見が言える集団でしょう。人は一人ひとり異なる感性や背景をもっていますから、必ずキャップがあるはずです。そこにいる皆がすべて同じ意見で、対立がないなどという状態はありえません。そんな異なる価値観やものの見方を認め、リスペクトし合う関係になっています。またチームとは、「良いものをつくろう」「よいサービスをお客様に提供しよう」といった共通の目的のために、年次やポジションの上下にこだわらずに共に創りだしていける集団のことでしょう。

組織成立の三要素と管理職の役割

人の集団がチームとしてまとまるための要件を、経営学者のチェスター・バーナードは「組織成立の三要素」として以下のようにまとめています。

まず、「貢献意欲」。これは、その集団のメンバーがお互いに貢献する、あるいは協力しあう意思を持っていることです。「協働意欲」と呼ばれることもあります。2つめが「コミュニケーション」。これは、円滑なコミュニケーションをとり、お互いにオープンに情報共有ができているかということです。そして3つめが、その集団としての「共通目的」を持っていることです。これは目指す姿やあるべき姿を明確に定義しできているか、ということです。

この3つの要素があれば人の集団はチームとなり、1人ひとりが自発的に動きながら協力し合い、意見の対立があってもすり合わせて前に進んでいけるのです。

そして管理職はそんなチームのコアとして、人のつながりをつくりだしたり、困難な状況の中で前向きな場の雰囲気をつくったり、目的に向かってチーム全体が前進することに貢献する存在です。

以前、ある企業の会議で、こんな場面を見たことがあります。喧々諤々(けんけんがくがく)の議論をしているのはその組織の中核メンバーでした。意見が活発なのはいいことなのですが、経験も知識も足りない若手は、その議論をただ聞いているだけの状態になってしまっていました。そこで、議長をしていた管理職の方が若手に意見を言うように促しました。そして、「ここでは若かろうがベテランだろうが、自分の意見を言う場なんだ。自分の意見を人に伝えるところから、人は成長していくんだよ」と声をかけたのです。その言葉によって、その場の雰囲気が変わりました。声をかけられた若手も成長していくでしょう。こんな管理職がチームを育て、こんなチームのある企業が、長く続いていくのだろうと確信しました。

チームをつくるための管理職の行動

では改めて、チームをつくるための管理職の行動を定義していきましょう。

<聞く、問いかける機会をできるだけ多くつくる>


まずチーム内で対話を促進することが必要です。年齢やポジションの上下とは関係なく、人と人との繋がりを作っていくための対話を、管理職が、組織の中で機会を見つけて、できるだけたくさん作っていくのです。

対話の内容は、仕事のことというよりも、今までの仕事の中で苦労した事とか、今の仕事をどう思っているか、どんな経緯でこの仕事についたのか、学生時代の研究テーマや熱中していることでもいいでしょう。話しやすいように問いかけ、よく聞くことが大切です。

<決定を下す際は、合意形成に心を砕く>


管理職は、組織において様々な決定を行う立場でもあります。しかし、決定をすればいいだけであれば、ポジションが上の自分が決めたのだから従え、と言い放っても決定ではあるでしょう。多数決でも決定は下せます。トップがこうしろと言ったからこれで決まりなんだ、と伝えるだけでも決定かもしれません。ですが、メンバーがそれに納得できるかどうかは別の問題です。

「自分がこう決定した理由はこう考えたからだ」という、whyを必ず説明すること。異なる意見に対しても、「こんな意見があることも把握している」などと認めたうえで、「でも、今回はこれでやってみよう」などと、皆の貢献意欲を引き出すように腹をわって話していくことが大切です。

<もし、話を聞いてくれないのであれば、人間関係作りに立ち返る>


人は感情の生き物ですから、メンバーが管理職をリーダーとして認めていない、信頼していない、そのため対話自体がうまく成立しない、という場合もあると思います。そんな時にやるべきことは、やはり人間関係作りの基本に立ち返ることです。

もちろんその場合、一定期間は一方通行なままかもしれません。それでも、「私とあなたは一緒に仕事をしていくんだ」「一緒に成果を出していきたいんだ」ということを、言葉と態度で伝え続けるしかないのです。

<笑顔でいる>


日本人は、自己表現があまり上手くないといわれています。外国の方はエモーショナルに感情表現しますし、オーバーに感じるほどの身振り手振りをします。その点は少し見習ってもいいかもしれません。少なくとも笑顔でいたほうが、周りの人は話しかけやすくなりますから、笑顔でいることは管理職の立場の方には必要なことです。

チーム作りのために管理職に必要なスキル

では、そんな行動をとるために、管理職が身に着けるべきスキルは何でしょうか。

マネジメントの書籍などを読むと、コーチングスキルやアクティブリスニング、ファシリテーションスキル…といった手法が紹介されています。プレゼンテーションや自己表現のテクニックなどもあります。仕事を進める過程のストレスを減らしたり効率化させたりするために、テレワークやWeb会議、SNSツールの活用の仕方を覚えることも必要になってくるかもしれません。

もちろんこれらのテクニックは役に立ちますし、ツールの活用も必要でしょう。しかしそれ以前に、もっと大切なスキルがあると私は考えています。

それは、「仕事を楽しくやる」スキルです。

これはスキルではなくマインドだ、という人がいるかもしれません。また、捉えどころがないといわれるかもしれません。ですが、私はこれを管理職が身に着けるべきスキルと考えたいと思います。楽しいという感情は、探求心や自発性を引き出します。探求心や自発性が、新しい取り組みを生んでいきますから、「仕事を楽しくやる」ことが、もっとも管理職に求められることだといえます。いろいろなテクニックやツールを使うことは、その手段です。

これからますます不確実性が高くなる環境の中では、懸命に努力したけれどもうまくいかなかった、ということも増えるはずです。それでも、一緒に働いていたらきっとうまくいくはずだ、大変かもしれないけれど成長できそうだと思えれば、人はまた頑張ることができます。

そこで一緒に活動することが楽しいと思える人間関係や職場をつくり、チームになること。この基本の「キ」と言える部分こそ、管理職がスキルとして身に着けるべきことなのだと考えていってください。

大西 みつる(おおにし みつる)
株式会社ヒューマンクエスト 代表取締役社長
立命館大学 経営学部 客員教授

立命館大学経済学部卒業後、本田技研工業に入社。本田技研工業では、鈴鹿硬式野球部でプレーした後、同チームのマネージャー、監督を歴任。チームを都市対抗野球大会で日本一に導く。その後、人事責任者として人と組織のマネジメントに従事する。人事としての海外赴任歴もある。2009年、株式会社ヒューマンクエストを設立し、人材・組織開発コンサルタントとして独立。経営学とスポーツ心理学を融合したメソッドで人と組織の課題解決に携わっている。