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コミュニケーションの基本と聞く力

人材育成

櫻井 弘
株式会社櫻井弘話し方研究所
代表取締役社長

コミュニケーションの3つの段階

 動物は、それぞれ生きていくための武器をもっています。たとえば、亀の固い甲羅やシカの角、ヒョウの速い脚などが思い浮かびます。われわれ人間にとって、生きていくうえで不可欠となる力・武器となるのが、「聞く」「話す」「伝える」といったコミュニケーションの基本ではないかと、私は思います。
 一方で、職場やビジネス現場において、周囲の人たちとのコミュニケーションがうまくいかないために、時には仕事を進める上で支障をきたしているという声は多くの企業で耳にします。では、なぜ、コミュニケーションがうまくいかないのか、また、うまくいく方法とはどのようなものなのでしょうか。
 コミュニケーションの大原則は相手がいるということです。このあまりにも当たり前のことが、実ははっきりと認識されていないことも一つの要因ではないでしょうか。まず、体系的な理論と具体的な活用の方法という、コミュニケーションのしくみを理解し、習得することが、コミュニケーションを円滑に進めるためには必要になります。
 では、ビジネスにおけるコミュニケーション能力を考えてみましょう。能力とは、目的を達成する力であり、コミュニケーションにも、目的と機能(働き)があるというわけです。ビジネスのコミュニケーションというのは、3段階あり、それぞれの目的を達成するための機能があるのです。
 私は、この3つの段階をよく富士山に例えますが、裾野にあたるのが、「目的1…相手との良好な人間関係形成」です。中腹が、「目的2…相互の理解促進」。そして山頂が、「目的3…自発意思と行動の喚起」となり、裾野から中腹を経て山頂に向かうように3段階のステップとなっているのです。では、それぞれ詳しく見ていきましょう。

 目的1 相手との良好な人間関係形成… …機能1:傾聴力、あいさつ、会話
 「相手との良好な人間関係形成」は、ビジネスを進める上の土台となるものです。良好な人間関係をつくることで、業務を円滑に進めることができ、トラブルなどの回避にもつながります。人間関係は、「安心→信用→信頼」というプロセスで形成されますが、その実現に必要となるのが、傾聴力、あいさつ、会話という機能になります。

 目的2 相互の理解促進… …機能2:説明力、表現力
 良好な人間関係を築くことができたなら、次は「相互の理解促進」へ進みます。現在の職場では、以前のように仕事が終わった後の飲み会などで交流を深めることが少なくなっています。ビジネスの話し合いや日常の業務の中で、相手との接点を探しながらアプローチするのがよいでしょう。そこで求められる機能が、「伝える力・伝わる力」としての説明力と表現力になります。

 目的3 自発意思と行動の喚起… …機能3:説得力、交渉力
 お互いの理解を深めることができたら、いよいよ、山頂の「自発意思と行動の喚起」の段階に入ります。相手が自発的に行動したくなるような意思を喚起するためには、「相手が動きたくなる話し方」や「相手の満足度を高める」といったアプローチが必要です。説得力や交渉力という機能を高めることが有効となります。

聞く力とは

 コミュニケーションの2つの大きな要素は、「聞く」ことと「話す」ことです。この2つの関係は、深呼吸のようなものです。「しっかりと息を吸えなければ、しっかりと息がはけない」のと同じように、「聞くことができなければ、話すことはできない」のです。しかし、「聞く」ことの大切さに気づいて、実践している人となると、ほとんどいないというのが現状です。ここでは、さきほど紹介した「相手との良好な人間関係形成(目的1)」の重要な機能の1つでもある、「聞く力」について解説していきます。
 一言で「聞く力」といいますが、聞き方には、「聞く」「聴く」「訊く」という3つの種類があります。
 「聞く」とは、誰もが日常行っている一般的な聞き方で、自分の関心事は聞くことはできるのですが、関心のないものに対しては不十分で、正確に情報を受け取ることはできません。
 「聴く」とは、しっかりと傾聴する聞き方で、ビジネスでは不可欠となるものです。この「聴」という漢字は、「耳を大きくして、さらに目を見て心で受けとめる」と読めます。相手の話、気持ちを正確に、しっかりと受けとめる聴き方といえます。
 そして「訊く」というのは、「聴く」をさらに発展させて掘り下げる聞き方です。質問や問いかけなどを行うことで、深い意味や背景を探っていき、相手と積極的に関わっていくのです。より多くの情報を得ることができる、大事なコミュニケーション・スキルと言えるでしょう。

 また、Leaderの「L」は、Listenの「L」と言われているのですが、「聞く力」は、相手をリードして成長を促すというように、上司にとって、部下に対する「育成」のコミュニケーション能力と考えられるのです。
 「さまざまな目的のために、会話して良好な人間関係を形成する」「説明して理解を促進する」「説得して相手を動かす」といったことは、ビジネスを進めるうえで必ず必要になります。この、すべての前提となるのが、「聞く力」なのです。

聞き上手になるために

 では、聞く力を身に着けるためには、どんなことに気をつければよいのでしょうか。
 ビジネスでは、相手の情報を正確に受け取ることに加えて、相手との信頼関係を築くことが必要になります。こうした、相手に信頼感、満足感をもってもらう聞き方が、アクティブ・リスニングです。これは、相手の話を繰り返して確認していくという、積極的な聞き方になります。その際、「目」「反応」「言葉」の3つがポイントとなります。

 「目」…相手の目を見て、穏やかに聴く。
 「反応」…うなずきやあいづちをタイミングよく入れて聴く。
 「言葉」…ポイントとなる言葉やキーワードはオウム返しをして、言葉で確認しながら聴く。

 アクティブ・リスニングは、重要な言葉をオウム返しで聴くことで、言い間違いや誤解を防いで、正確な情報を得ることにつながります。また、相手の満足感を高めることになり、良好な人間関係をつくることになるのです。とくにビジネスにおいては、否定的な言葉を使った聞き方(ネガティブ・リスニング)では、相手の信頼を得られないだけでなく、正確な情報を得ることも難しくなることを肝に銘じておきましょう。
 さらに、聞き方を高めるためにアプローチしていただきたいのが、次の3つになります。

  1. 打てば響くように聞く…とくに相手のテンポに的確に反応し、状況にあったあいづちを打つことは、話が弾むことにつながり、相手の気分もよくなります。
  2. 正確に聞く…ビジネスでは、とくに情報の正確さが求められます。後になって「言った」「言わない」というトラブルを防ぐために、その場で重要な言葉、事柄については、確認する習慣を身に着けておきたいものです。
  3. 相手に寄り添い、共感をもって聞く…相手の気持ちや立場に気を配ることで、相手との理解促進が進み、良好な人間関係の構築へとつながります。こうした聞き方ができる人は、コミュニケーションにおけるセンスの高い人といえるでしょう。

昔から、「聞き上手は話し上手、質問上手は説明上手、説得上手」といわれていますが、まず、コミュニケーション能力を高める第一歩として、「聞き上手」と周りから評価されるように、心掛けていただきたいと思います。

櫻井 弘(さくらい ひろし)
株式会社櫻井弘話し方研究所 代表取締役社長
 東京都港区出身。メーカー、製薬、金融、サービス、IT関連等の民間企業をはじめ、人事院、各省庁、自治大学校、JMAなどの官公庁・各種団体でコミュニケーションに関する研修・講演を手がけ、クライアントは1,000以上におよび、特に、プレゼンテーションや説明力強化研修などのわかりやすい講義・実習の仕方には定評がある。
『大人なら知っておきたいモノの言い方サクッとノート』(永岡書店)、『「話す力」が面白いほどつく本』(三笠書房)など、ビジネス書ベストセラーを含み約80冊の著書がある。

櫻井 弘氏
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