本文へジャンプ

業績に貢献する人材育成アプローチ

人材育成

伊藤 晃
HR-iコンサルティング 代表
シニア・コンサルタント

「業績に貢献する」という視点から逃げてはいけない

 「人材開発は、本当に業績に貢献するのか?」
 これは私が以前支援させていただいた、ある企業の経営者の方からかけられた言葉です。その企業は人材育成のためにいろいろな取り組みをしていました。それが社員のためになる、ということについては疑いがないのですが、業績とどう関係があるのかがよくわからない、というわけです。これは、他の企業でも経営者の方からもよくでる言葉でしょう。人事・人材開発部門としても、自分たちが行った人材育成の成果を確認するために、そして次年度の予算獲得のためにも、様々なKPIを準備します。
 よく行われているのは、アンケートをとって施策の評価を点数化したり、実施した施策で求める行動変容を、細かく分解してチェックリストをつくったりします。もちろん一定の意味はありますが、例えばアンケートの評価点が教育効果を示しているわけではありません。もちろん、必ずしも業績への貢献度を証明するものではないということは、誰もが気づいていることです。チェックリストをつくるのも、手間も時間もかかります。アセスメントデータをAIで解析したり、統計的な処理で業績との因果関係を証明しようというアプローチもあります。これらの取組みや研究は今後も進化していきますが、実用化にはもう少し時間が必要です。
 一方で、「人材育成は時間がかかるものだ」ということも、すべての人の中で共有されていることでしょう。確かにそれは真理です。しかしそれを言ってしまうと、「思考停止」が起きてしまうように思います。人材育成の成果は10年後に分かる、と言い切ってしまうのではなく、人の成長が業績に貢献していくプロセスを丁寧にフォローしていく態度が重要です。
 人によって成長のタイミングや必要な学習の内容は異なりますが、人材育成の取り組みは必ず業績に貢献します。業績との因果関係を科学的に証明することに汲々とせず、社員自身が効用感や成長実感を持てる人材育成施策を丁寧に推進する姿勢が、業績への貢献の近道です。人事・人材開発担当者は以上を心に留めて人材育成に取り組んでいただきたいと思います。

2つの業績貢献へのアプローチ

 人材育成を業績貢献に結びつける工夫には、2つのアプローチがあります。
 1つは、業績向上のための課題を設定し、その課題をスキルや知識に分解し、それを人材開発テーマとして施策を企画するというやり方です。例えば、商品の魅力が充分伝えられていないという課題を設定した場合は、商品の勉強会やコンサルティング営業スキルを身につける機会を作ったり、エリアごとの販売を強化するという方針をうけて、エリアマーケティングの研修を行ったり、エリア勉強会を行ったりという方法があります。
 この時、1つ1つの施策の成果をきちんと把握して評価し、その成果を次の施策につなげるよう、連続性と一貫性をもって次の打ち手を企画していくことが、人材育成と業績との関連を把握する上で非常に大切です。
 ただし、業績に直結するテーマを人材育成施策にブレイクダウンするアプローチは、業績へのつながりがある程度見えやすい反面、学習テーマが即効性重視の短期的・限定的にものになりがちです。
 そこで逆のアプローチも必要になります。業績向上のために取り組むプロジェクトの中に人材育成的な取り組みを組み込んでいくという方法です。業績向上のためのプロジェクトをOJTの場にするイメージです。例えば、戦略テーマの実現のための方法を従業員が皆でワイガヤで議論する場に、考える視点となる情報や分析方法をレクチャーする場を設ける、議論を建設的に進めるためのルールを共有させる、議論をファシリテーションする、などの工夫を盛り込みます。コーチングによって進捗状況を把握すると共に、フォローすることもできます。それが人材育成なのか、業務プロジェクトなのか、などの区別を考えずに、学びながら課題解決に取り組む一石二鳥の進め方が有益です。
 この2つに限らず、従来の考え方にとらわれないアプローチがないかを、常に考えていきましょう。

組織の中に「学びのサイクル」を育てることが、最も大切な業績への貢献

 人事・人材開発部門は、人の側面から業績に貢献する役割を担っています。どのくらい貢献しているのかを数値で示すことは、今、なかなか難しいので悩んでしまうこともありますが、人が着実に成長する組織を確立することが重要なミッションであることを自覚しましょう。
 そのためには、以下の7つの行動を組織の中に浸透させることが大切です。

  1. 実践・・・「なるほど」を思ったら実践してみる
  2. 教訓・・・経験したら、「今度はどうするか」という教訓を得る
  3. 反復・・・当たり前になるまで繰り返す
  4. 原則・・・コツやノウハウを整理する
  5. 共有・・・同じ理解、行動になるまで徹底する
  6. 伝承・・・後輩に教えることで、さらに学ぶ
  7. 触発・・・いつまでも「なるほど」と思える素直さを保ち続ける

 この7つの行動は、順番に行われなくてもいいのですが、繰り返し行われるべきなので「学びのサイクル」と呼んでいます。以下に、機能を維持するために推奨する具体的な行動を、いくつか提示しておきますので参考にしてください。

学びのサイクル ~推奨行動(例)~

 人事・人材開発部門は、動かそうとしている相手が「人」であることを忘れてはいけません。詰め込んで色々やらせようとすると、疲れてしまったり、燃え尽きてしまうこともあります。充分に配慮したつもりでも、思い通りに動いてくれないこともあります。しかし、例えば1日だけの研修であっても、その内容をずっと覚えている受講者がいたり、「あのとき聞いた話で目が覚めた」と声をかけてくれる受講者もいます。人の内面の変化を敏感に感じながら人材育成を牽引していくことが大切です。
 人事が企業の将来の礎を作っていることは間違いありません。しかも企業の盛衰を分ける最重要のやりがいのある使命を担っています。その自覚をもって、取り組んでいってほしいと思います。

伊藤 晃(いとう あきら)
HR-iコンサルティング 代表 シニア・コンサルタント。
 株式会社日本能率協会コンサルティングにて、業務改革および知恵と活力を高める組織・人材革新コンサルティングを推進。支援業界は自動車、運輸、繊維、製紙、製薬、精密機械、銀行、商社、建設、不動産、生保、IT、電力、ガス、新聞、大学、流通、ホテル、テーマパーク、経済連等 多岐にわたる。
 2019年9月定年退職。10月より現職。現在は、人と経営の「意」をサポートする、をモットーに人材マネジメント全般を支援している。主要テーマは、人事・人材開発制度構築、経営幹部育成・登用制度構築、全階層一貫教育の企画・推進、意のある次世代リーダー育成、人材マネジメント全般に関する相談対応および自社流の構想立案・推進支援。

伊藤 晃氏
教材をかんたんに作れて、今すぐ始められるeラーニングクラウドサービス

別ウィンドウで開きますマークの付いたリンクは、別ウィンドウで開きます。