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効果的な人材育成施策の構成法

人材育成

伊藤 晃
HR-iコンサルティング 代表
シニア・コンサルタント

人材育成 -不変の原則と新しい必要性-

 効果的な人材育成の施策について考える前に、まず、人材育成の原則を確認しておきましょう。

図:4つのサイクル

 人が成長をするには4つのサイクルがあります。①未経験の仕事にぶつかる →②それに逃げないで対決する →③何とか切り抜ける →④自信がつく そしてまた、新たに未経験の仕事に挑むというサイクルを繰り返すことで、人は成長していきます。これは、時代によって移り変わることのない真理です。
 未経験の仕事のぶつかることがないと、人の成長も止まってしまいます。だいたい1つの仕事を3年も続けるとマンネリ化が始まるといわれています。ですから、必ずしも部署異動や担当変更でなくてもいいので、定期的に新しいことに挑戦できるように、人材育成を考えていくことが必要だということを、心に留めておく必要があります。
 また、これからは人生100年時代。一人ひとりの仕事人生が長くなります。技術変化のスピードも速く、1つの職場、1つの業務で仕事人生を全うするのは難しいでしょう。これからは、どの年代の人にとっても、自分の領域を広げ、自分の能力を更新して成長し続ける必要があります。それが個人の人生にとって必要な戦略であり、組織の持続にもつながるからです。これは非常に大きな変化です。

Off-JTを、成長の入り口として設計する

 人材育成を、「人の成長を促進するための働きかけ」と考えましょう。人材育成施策としてはOff-JT、OJT、自己啓発というの3つがあります。Off-JTはOff-the-Job Trainingの略称で、職場外での教育、つまり研修や講習会のことです。OJTは、On-the-Job Trainingの略称で、職場での業務を通じた教育のことをいいます。自己啓発(Self-Development、SDともいう)は、本人の意思で自発的に学んだり、精神的な成長を目指すことを意味します。それぞれが、それぞれを補完しあう関係にあります。
 多くの人が、経験でこそ人は成長する、つまり人はOJTでこそ成長するといっていますが、人材育成施策ということで考えると、基本的な入り口はOff-JTです。Off-JTをどのように設計するかが、OJTと自己啓発をうまく行うための肝になります。
 Off-JTというと商品知識を覚えたり、業務知識を学ぶ場として有効な場ですが、近年では、戦略を実行するためのスキルとして、戦略思考やリーダーシップといったソフトスキルの習得機会とすることが増えています。さらに今後は、自分のキャリアを考える場、「学び方を学ぶ場」としての要素を強めていく必要があるでしょう。

OJT:「仕事を学ぶ」から「仕事で学ぶ」へ

 OJT、つまり職場で実務をさせる中で行う教育としては、「仕事を学ぶ」という側面と、「仕事で学ぶ」という2つの学びがあります。ほとんどの場合は職場で「仕事を学ぶ」、つまり仕事のやり方を学んでいるのですが、これからは「仕事で学ぶ」ことによって、成長していくように導くことが大変重要になっています。

2つの学び

 この2つの違いは、「この仕事で自分は何を学んでいるのか」という自覚と考察の深さです。
 自分なりの学びの目的や効用をしっかり考え自覚することによって、学びが深まっていきます。「営業という仕事はコミュニケーションのしかたを深める」という自覚をもって10年を過ごせば、コミュニケーションについての知見が深まり、コミュニケーションの達人と呼べる域になっているでしょう。しかし、ただ営業の仕事をしているという認識では、いつまでたっても営業マンのままです。
 この自覚を自分で自然に持てる人もいますが、「仕事で学んでいることは~」と整理して言える人は多くはないでしょう。ですから入り口としてOff-JTの際にそんな成長の仕方があることを示し、自分が取り組んでいる仕事にはどんな魅力があり、面白さがあるのかを本人が発見することを、周囲や人事が手助けをする機会を持つことが有効です。
 「仕事で何を学ぶか」は、人によってそれぞれでいいのです。私が指導した方の中には、「失敗の仕方が学べる」と考えた人がいました。「そんなに失敗するつもりなのか」と突っ込まれていましたが、それもありだと思います。「世代を超えたコミュニケーションが学べる」といった人もいました。
 そんな一人ひとりのアウトプットに対しては、「そう思った理由を、もっと教えて」とさらに深堀するように問いかけたり、「いいね。これからその力は貴重になるよ」などと将来の展望や、社内の中での価値などをコメントしてあげてください。また、それがその人にぴったりの学びであると思ったら、是非「あなたらしいね」と言ってあげてください。

自己啓発:仕事の中で学べないことに気づかせる

 自己啓発は、今まであまり注目していなかった部分ですが、今はここが最重要です。
 「働き方改革」が進み、職場で働く時間は短くなっていきます。ですから、それ以外の時間で学ぶかどうかは、すべて本人の自己責任です。一人ひとりが、どう自己啓発に取り組むかが、企業の業績にも跳ね返ってくるはずです。
 人が自己啓発に動機づけられるのは、「業務をしているだけでは学べないことに気づいた時」です。業務の中で学べることを、自己啓発でも深めようとする人もいますが、むしろ業務で学べないことを補完する、あるいは将来の布石として先行学習することの意義に目覚めることが、自己啓発の最大の急所と言えます。
 しかし自己啓発は、強制することはできません。そのため、自己啓発が大切であることを伝えても、自分事としてピンとくる人と、キョトンとする人が、はっきり分かれるでしょう。
 新しい取り組みには共通することですが、できる人や上手くいった人を増やしていくということが一番着実です。これは、できない人は切り捨てるという意味ではありません。人によって、動き出すタイミングや内容が異なることを、受け入れるということです。
 「面白いかもしれない」「やってみようかな」と思えないと、人は動き出しません。しかし、普通に過ごしていると、自分ではなかなか「面白い」と思うチャンスが訪れないかもしれません。こうした状況を放置せずに何らかの働きかけを行う必要があります。
 例えば、本人から何らかの自発的なアウトプットを出してもらい、それに対する周囲からの所感、意見等、反応を知る機会を作るのです。仕事に限らないテーマで自分が打ち込んでいることを皆に話すような機会を用意する、ペアを作って学び合う仕掛けを導入する、LINEなどのコミュニケーションツールを利用して緩やかなセミフォーマル・コミュニケーションを促進し、「皆頑張っているな」「私は何がしたいのかな」ということを考えるような雰囲気を作っていく・・・等の仕掛けが有効です。
 一律に学びのPDCAを回そうとして躍起になるより、穏やかに、持続的にやっていくほうが学ぶ文化づくりには効果的だろうと思います。

伊藤 晃(いとう あきら)
HR-iコンサルティング 代表 シニア・コンサルタント。
 株式会社日本能率協会コンサルティングにて、業務改革および知恵と活力を高める組織・人材革新コンサルティングを推進。支援業界は自動車、運輸、繊維、製紙、製薬、精密機械、銀行、商社、建設、不動産、生保、IT、電力、ガス、新聞、大学、流通、ホテル、テーマパーク、経済連等 多岐にわたる。
 2019年9月定年退職。10月より現職。現在は、人と経営の「意」をサポートする、をモットーに人材マネジメント全般を支援している。主要テーマは、人事・人材開発制度構築、経営幹部育成・登用制度構築、全階層一貫教育の企画・推進、意のある次世代リーダー育成、人材マネジメント全般に関する相談対応および自社流の構想立案・推進支援。

伊藤 晃氏
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