[第26回]キャリア開発とエンゲージメントの重要性~企業内大学の創設へ向けて②~


2019.8.20

前回に引き続き、当社が企業内大学「Toshiba e-University」構想を立ち上げるにあたって、人材開発上の課題として捉えたものを通して、人材育成について考えてみたい。

人材をどのように捉えるのかは、企業の価値にも直結するし、企業の思いが伝わってくる。最初に、二つの例を通して紹介したい。

人材開発部門へ異動して英語の名刺を作ろうということになり、部署名を何と書こうかと、悩んだことがある。人材をHuman Resourceと訳すと、使えば使うほど、減ってくるように感じた。当社の大切な資産(財産)であることを表現するためにHuman Capital(人財)ではどうだろうか?となった。職場にいた外国籍社員をつかまえて、聞いてみたところ、何とか通じるかもしれないと言ってもらい採用となった。2003年頃のことなので、今では当たり前のように使われている。

もう一つの例は、人材開発部はどの組織に属するのが良いのだろうか、との観点である。色々な企業で人材育成に関わる方にお会いした時、名刺を頂戴して最初に組織名を確認する。多くの企業で人材開発部は、人事部門や総務部門に属しているところが多いようだ。当社で経営企画部門の下に、人材開発部を設けたのはとても新鮮だった。経営戦略や事業戦略に連動して人材育成に取り組むべきと言うが、その姿勢を端的に現しているのではないだろうか。

個々人のキャリア開発の重視

社員の就業意識の変化に対応して、個々人のキャリア開発やエンゲージメントを重視する必要がある。小生が入社した頃は、センスの良い先輩を見つけ、その先輩の後姿を見て学び、10年後は理想の先輩に近づくことを目標に、自身のキャリアを描いていた。しかし、現状は人材の流動化が加速し、なかなか理想の先輩と一緒にじっくり仕事をする機会も少なくなっている。そこで、社員一人一人が企業任せではなく、自分はどのようなキャリアを積んでいきたいのかを考えるためにも、そして企業としてもその選択肢(キャリア)や経営・事業上の人材ニーズを示していかねばならないと考えた。会社と社員の思いが合致すれば幸せなキャリアプランが描け、エンゲージメントが高まるのではないだろうか。

個の確立と専門性の強化

キャリアを描くために必要になるのが、その専門性をどのように見える化するかの視点である。当社の企業内大学では、その専門性を表すために、学部とレベルを設けた。自分の関心ある分野や更に深めたい分野を学ぶために、通常の大学と同じように学部を設けたというわけだ。そのベースにはその当時、経済産業省が提示したばかりのITスキル標準を参考にさせてもらった。なかなか、当社の実体にはそぐわない点も多かったが、当たらずとも遠からずとのスタンスを大事にした。

当社では、自分の描くキャリアをもとに上司と相談して学部を選定し、その学部で一つ上のレベルを目指し、必要なカリキュラムを学び、磨いていく。

社員が目指す学部やレベルとはどのような人材なのだろうかと思いを巡らせた時に、目の前に目指す先輩がいた場合は良いが、書かれた人材定義の辞書では、なかなかイメージが湧いてこない。そこで、当社では、各学部のレベル上位に認定された人には、自身の専門性やノウハウを伝承するために『専門職寺子屋』と呼ぶ研修の講師を担当してもらった。その研修は誰でも参加できるため、研修の場を通して、レベル像をイメージすることができ、自身のキャリア形成の腹落ちにも結び付いている。

小生が、キャリアコンサルタントに関心を持ったのは、このように企業の中にも自身のキャリアの相談に乗れるような機会があっても良いのではないだろうかとの思いからだ。

※記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年8月時点のものです。


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