[第13回]ICTで人間力は磨けるのか


2018.7.20

これまで社会人基礎力を通して人間力について語ってきましたが、教育のICT化とアナログ的な人間力を磨くことは、相反すると思われている方はいないでしょうか。今回は、ICT化が生み出す新たな価値創出について一緒に考えてみましょう。

私が人材開発部門へ異動した2002年頃から、社内でもeラーニングが使われ始めました。全社員を対象にして経営方針の徹底やコンプライアンス教育を行うためにはもってこいで、受講状況が管理でき、忙しい社員を教室へ集める必要がない点も魅力的でした。しかし、毎年実施していると弊害も現れ始めました。どんどん読み飛ばして、テストだけ答える人の出現です。受講効果は本人任せによるところが大きい。そのため、テスト問題を工夫して本文をしっかり読まないと答えられないようにしたり、コンテンツにアニメーションを入れて動きのあるものにしたりしましたが、効果は如何に。最近、社内でブレンディング教育の実証実験を行って気づいたことがあります。ブレンディング教育とは、同期型の集合教育と非同期型のeラーニングやSNSラーニング等のICT手法を組合せた教育を指しています。

“何を学ぶのか”から“いかに学ぶのか”

社会人基礎力を見直した「人生100年時代の社会人基礎力」の中では「どのように学ぶのか」を重視しています。「何を学ぶのか」から「どのように学ぶのか」を考えるうえで力を発揮する技術がICTです。同じことを学ぶのでも、「どのように学ぶのか」で、その効果は変わってくるとの考え方に基づいています。果たしてそうなのでしょうか。

意識を持たせる効果

受講者が、意欲をもって研修へ参加しているのか、狙いを理解した上で参加しているのか?によって、研修効果が大きく変わることは想像できます。ICTを活用すれば、同期教育(集合教育)と非同期教育(ICTを活用したeラーニングやSNSラーニング)を組合せる(ブレンディング教育)ことができ、どのように組合せるのかが鍵となります。集合教育参加前には、知識を習得することよりも、意識をもってもらうことが大事になります。

これまでのブレンディング教育では、知識編と実践編(ロールプレイ、グループ討議)とを組合せていましたが、意識をもってもらうためとの観点は薄かったように感じています。これまでご紹介してきた人間力講座は、ノウハウなどの“知識伝授”ではなく、“意識”をもってもらうことを軸足にしていました。講師の赤裸々な体験談を通して、人格的な触発を受け、共感することによって、行動するのが人間という人間観を基にしています。

実証実験で感じたことは、eラーニング(動画)の事前学習を通して、教育の目的や期待値等が明確になり、集合教育を受けてみたいとの期待感や集合教育が待ち遠しいという感情が高まったと、受講者から異口同音に聞きました。集合教育当日、何人欠席するかなと思っていましたが、予想に反して全員参加だったことに驚きました。集合教育時間を半分に短縮した効果以上のものがありました。

SNSラーニングとは?

人間には好き嫌いがあるので、同じ話を聞くのでも、誰から聞いたかで心への残り方や自分の身になるかが変わってきます。したがって、講師が価値あることを一方的に教える、伝えるスタイルには限界があります。

集合教育や講演会で、他の受講者の質問へ対する講師の回答を聞いて講演内容が妙に腹落ちした経験はないでしょうか。的を射た質問が、1時間の講演をまとめてくれたと感じたことはないでしょうか。

自ら課題に気づき、自ら問いかけ、自ら答えを導き出すことは大切ですが、自分だけでなく、他の受講者を鏡として気づく場も、そのための一助となるのではないでしょうか。社内で全社員を対象に実施した「真実の瞬間」教育で感じたことは、受講者以上に、自らがファシリテータ役を務めることが一番勉強になり、身につくということでした。

SNSラーニングは、誰もが同じ立場で発信できる場を提供してくれます。その場を活用して「問いかけの大切さ」「その問いに対して受講者同士でアドバイスし合う」「自らの実践例を発信する」「いいねの声が励みとなる」「その問いや答えに講師が応える」などの循環が生まれます。そこには、自らが主役に立てる環境があります。せっかくの環境も受身では活かせません。

東芝デジタルソリューションズ株式会社
インダストリアルソリューション事業部 HRMソリューション部
真野 広

※記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2018年7月時点のものです。


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