DIGITAL T-SOUL

Vol.32 「TOSHIBA SPINEX」による変革と価値創造 インダストリアルIoTサービスの展開を加速

このページを印刷する

#03 エネルギーバリューチェーンに新たな価値を サービス共通基盤の整備とIoTサービスの展開 東芝エネルギーシステムズ株式会社 中井 昭祐

サイバーフィジカルシステム(CPS)を実現するためには、先進のデジタル技術を結集するだけでなく、収集したデータを有効に活用するためのフィジカル領域における知見が必要です。発電所などのエネルギー業界にさまざまな製品やシステムを納品し、保守や運用を担ってきた東芝エネルギーシステムズは、「将来のエネルギーのあり方そのものをデザインする企業」への変革を目指しています。長年にわたり事業を展開してきた中で積み重ね、磨いてきたエンジニアリングに関するノウハウを最大限に生かすため、新たなビジネスモデルの創出を構想。「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー」に準拠したサービス共通基盤として「エネルギーシステム向けIoTプラットフォーム」を整備し、これを基盤に、電気を「つくる」「おくる」「ためる」「つかう」というエネルギーバリューチェーンの全局面を支援するインダストリアルIoTサービスをリリースしました。ここでは、「エネルギーシステム向けIoTプラットフォーム」を構築した背景とその概要、またこのプラットフォームを活用したサービスについてご紹介します。

CPSによる新たなエネルギービジネスの創出に挑む

再生可能エネルギーの普及に加え、環境規制の強化や発送電分離に代表される電力システム改革のような急激な市場の変化を背景に、従来のエネルギービジネスには大きな構造変革が求められています。新たな潮流のキーワードは「5つのD[1]」。「De-population(人口減少)」「Deregulation(自由化)」「De-carbonization(脱炭素化)」「Decentralization(分散化)」「Digitalization(デジタル化)」に対応したビジネスモデルをいかに構築するのかは、市場を担う多種多様なプレイヤーにとって共通の課題です。

東芝エネルギーシステムズは、この時代の変化をビジネスチャンスと捉え、新しい価値を創造する取り組みを早くから推進。「将来のエネルギーのあり方そのものをデザインする企業として、新しい未来を始動させる。」をビジョンに、システムやサービスをつくり込むだけではなく、お客さまの課題を起点に、電気を「つくる」「おくる」「ためる」「つかう」というエネルギーのバリューチェーン全体を対象とした、提案型サービスの開発を進めてきました。

ビジョンの実現に向けて重要な役割を果たすのが、サイバーフィジカルシステム(CPS)です。私たちが提供する発電設備や機器には、設計や製造に関する膨大なデータが存在し、さらにそれらが現場で稼働することで多種多様な運転データやフィールドデータが生み出されます。これらのデータをお客さまが持つ保守履歴やパブリックデータなどと組み合わせてサイバー空間上で分析。その結果を現場にフィードバックするCPSは、電力会社をはじめとする従来のお客さまはもちろん、小売電気事業者や送配電事業者、再生可能エネルギーの開発事業者、アグリゲーターなど、隣接市場のお客さまに対しても、新たな価値を提供するために不可欠な仕組みです。

現場で磨き抜いてきたエンジニアリング技術と先進のデジタル技術の融合で、次世代のエネルギービジネスの創出に挑み続ける。そんな私たちが待望していた東芝全体におけるCPSへの取り組みがついに始まり、策定されたのが、「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー(Toshiba IoT Reference Architecture)(TIRA)」です。

※TIRAについては、#01#02で詳しくご紹介しています。

このページのトップへ

サービス共通基盤「エネルギーシステム向けIoTプラットフォーム」

CPSを実現するIoTサービスを開発・運用するためのオープンで共通な枠組みであるTIRAは、新しいエネルギービジネスをつくりだすための条件を十分に満たしていました。

CPSにおいて、サイバー空間(仮想空間)からフィジカル空間(実世界)へのアクションをとる際には、制御(コントロール)の観点が絶対に不可欠です。例えばエネルギー業界では、発電設備や機器の設計思想やメンテナンスの履歴、現在どのような状況にあるのかといったことに関して、経験に基づく確固たる知見やノウハウがないと、いくらデータを集めて分析しても実世界で何が最適なアクションなのかを導き出すことは不可能だからです。コントロールとサービスの両方を包括してアーキテクチャーを定義したTIRAに準拠することで、長い間積み重ねてきた実績を存分に生かしながら、サイバーとフィジカルのサイクルを上手に回すことができます(図1)。

図1 *********

また、オープンAPI*により、System of Systemsへの対応が明確に定義されている点も大きな魅力でした。エネルギーのバリューチェーン全体を対象にサービスを展開していく場合、国内外のパートナーとのオープンな連携が必須となります。外部にあるシステムやアプリケーションと自由につながり、共創の輪を無限に広げることができるこのアーキテクチャーを活用することで、「つくる」「おくる」「ためる」「つかう」という全ての局面で付加価値を提供していくことを目指す私たちのビジョンの実現に、ぐっと近づくことができるのです。

*API:Application Programming Interface

東芝エネルギーシステムズでは、まず、TIRAに準拠した「エネルギーシステム向けIoTプラットフォーム」を構築。これまでに培ってきたエネルギー分野における製造およびメンテナンスの技術と、CPSテクノロジーとを融合させ、発電や送配電、電力需給調整といった垣根を超えてサービスを開発するための共通基盤を整備しました。

お客さまのニーズへの柔軟な対応と容易な拡張を支援するマイクロサービスや、各種データや機能をクラウドとオンプレミスに最適に分散できるハイブリッド構成、さらには既存のシステムを活用しつつシームレスなサービスの提供をサポートする分散データベース、現象や挙動などに関する深い知見を持つ当社ならではの情報モデルによるデータアクセスなど、TIRAに準拠しているからこそ可能なさまざまな共通機能を実現させた上で、具体的なサービスの実装に取り掛かりました。

そして、その第一弾としてリリースしたのが、「ダッシュボード」「性能監視による性能評価/異常検知」「運転データを用いた故障予知」「データ管理による図面連携」「最適発電計画」という5つのサービスです。

このページのトップへ

エネルギー業界の課題に対応したIoTサービス

これら5つのサービスは、エネルギーの需要予測や、複数の発電所の最適な運用といった「統合レベル」と、故障予測や設備の稼働率向上など「プラントレベル」における当社のノウハウを結集させた実績のあるソリューションを、使いやすく高品質なIoTサービスとして提供するものです(図2)。

図2 発電システム向けソリューション

「TOSHIBA SPINEX」のラインアップとしても認定されたこれらのサービスは、エネルギー業界の以下の3つの課題に対応し、その解決を目指します。

※TOSHIBA SPINEXの認定については、#02でご説明しています。

まず1つ目は、再生可能エネルギーの発電量が増加していることへの対応です。火力や水力、太陽光、風力など、特徴が異なる電源をバランスよく組み合わせて、最適なエネルギーミックスを実現し、エネルギーバリューチェーン全体の最適化に対応します。再生可能エネルギーを最大限に活用するためには、需要家が使用する電力量および気象条件により大きく変動する再生可能エネルギーの発電量を予測した上で、火力発電所などを最適に運用する必要があります。

そこで、多数の設備やシステム、機器から収集した多種多様なデータをまとめて監視する「ダッシュボード」および、経済性を意識して個別の発電所の発電計画を立案する「最適発電計画」をサービス化。これらのサービスが、電力需要の増減や発電所の内部状況、燃料価格などの発電コストを考慮した、タイムリーで高精度な発電計画の意志決定や、さまざまな分野での「予測+最適化」を活用した意思決定をサポートすることで、トータルバリューチェーンの最適化によるエネルギー事業の経済性と収益性の向上に大きく貢献します。

2つ目は、設備の稼働率の向上とメンテナンス費用の低減への対応です。ここでは、「性能監視による性能評価/異常検知」「運転データを用いた故障予知」「データ管理による図面連携」「ダッシュボード」のサービスにより、既存の設備をデジタル技術で生まれ変わらせるデジタルモダナイゼーションを広く適用していきます 。

中井 昭祐

「性能監視による性能評価/異常検知」は、プラントの熱効率モデルを構築し、発電所内の温度や圧力、蒸気の量といった運転データを常時分析しつつ、その性能を監視することで、異常を抽出。タイムリーな保守でコスト効率を高めるほか、設備資産の修理またはリプレースに関する最適な意思決定をサポートします。また、「運転データを用いた故障予知」は、デジタル技術を使って主要な部品の異常予兆を検知。重大な故障を回避して、長時間に及ぶダウンタイムを防ぐなど、潜在的なパフォーマンスの問題が顕在化する前に対処することを可能にします。そして、「データ管理による図面連携」は、発電所の図面や技術文書といったエンジニアリングデータを一元に管理。各種図面の情報を連携させながら設備のパフォーマンスを容易に把握するなど、図面を使用する業務を劇的に効率化します。これらのサービスと連携し、利用者それぞれの目的にあわせた内容を表示するダッシュボードで、課題への効率的な対応を支援します。

3つ目が、中小規模のコジェネレーションプラント*における、エネルギーの最適な運用への対応です。増改築を繰り返したプラント全体の適切な運用と、電気や蒸気などの最適な生成が求められています。そこで、実際の運転データに基づいて、タービンやボイラーに関わる熱量の変化を解析。劣化した設備を究明するとともに、ヒートバランスの再設計を支援することで、運用の最適化を実現します。

*コジェネレーションプラント:工場に供給する蒸気などの熱エネルギーと、電気を同時に生成するプラント。単純な発電プラントと比べて、運用が難しいプラントです。

このような現場で培ったエンジニアリング力は、一朝一夕に手にできるものではありません。この優位性を存分に生かしたIoTサービスを、エネルギーに関わるすべてのお客さまにお届けしていくのが、東芝エネルギーシステムズの新たな使命です。

今後も、セキュリティやBCP*対策にも力を入れながら、使いやすく高品質なIoTサービスを順次拡充。エネルギー分野のさまざまな課題を解決し、エネルギーバリューチェーンの変革と新たな価値を創造に向けて、将来のエネルギーのあり方そのものをデザインする企業としてお客さまに応え、社会を支えていきます。

*BCP:Business Continuity Plan(事業継続計画)

参考文献:
[1] 竹内純子・他(2017)『エネルギー産業の2050年Utility3.0へのゲームチェンジ』日本経済新聞出版社.

このページのトップへ

※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2020年2月現在のものです。

関連記事Vol.32:「TOSHIBA SPINEX」による変革と価値創造 インダストリアルIoTサービスの展開を加速

このページのトップへ