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Vol.29 システム製造業から価値創造業へ 価値共創を目指すソリューションセンター

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#04 クラウドネイティブとアジャイル開発でSoEを実現 声のプラットフォーム「コエステーション」開発プロジェクト 東芝デジタルソリューションズ株式会社 木野 浩誠

企業や社会インフラの基幹システムなどのSoR*で豊富な実績を積み重ねてきた東芝デジタルソリューションズで、デジタル変革を象徴するプロジェクトのひとつが、「コエステーション」の開発プロジェクトです。コエステーションは、東芝の音声技術を駆使して人の声の分身を手軽に生成し、声を「使ってもらいたい人」と「使いたい人」をつなぐ、全く新しい音声プラットフォームサービスです。ここでは、世の中のニーズを喚起し、新たな市場や新しいビジネスを創造し進化させ続けるため、SoE*に求められる手法を選択したコエステーションの開発におけるポイントをご紹介します。

*SoR:System of Records,SoE:System of Engagement

ソリューションセンターだからできたこと

「ぜひやらせてください!」。東芝デジタルソリューションズの新たなビジネスを創造するプロジェクトの相談を持ちかけられたとき、私はためらいなくそう答えていました。プロジェクトのテーマは、東芝の音声技術を活用したこれまでにない新しいプラットフォームの創造。そしてそこに人々の「声」をデータ化して集めて蓄積し、さまざまなカタチのサービスとして提供するという画期的な構想でした。

IoT*やAI*といった先進のデジタル技術を生かし、ビジネスに直接貢献する新しいシステムやサービスを創り出す。このいわゆるデジタル変革(DX*)をSoEで実現することは簡単ではありません。

*IoT:Internet of Things(モノのインターネット),AI:Artificial Intelligence(人工知能),DX:Digital transformation

DXの実現には、思い切った投資をして外部から技術やリソースを獲得するケースもありますが、コエステーションの開発では投資対効果を見据えて、費用を最小限に抑えながら進めました。また開発しながらサービスのカタチを明確にしていくために、ニーズや環境の変化に迅速に対応し何をどこまでやるのか、先進の技術の進化に追随して何がどこまでできるのかを見極めることが求められました。

しかし、さまざまな業種・業務システムを手掛けているソリューションセンターには、新しいことに果敢に挑戦しようという風土がありました。私たちIT業界のお客さまは、世の中に次々と登場する先進の技術にとても敏感です。時代の変化とともにお客さまの事業のカタチも加速度的に変わっており、私たちは直接のお客さまとその先のお客さまの未来像も見据えながら、さまざまな先進のデジタル技術を積極的に投入し、ソリューションの構築や運用サポートに携わってきました。

このような経験から、前例のないプロジェクトに参加することには全く抵抗がなく、むしろ当部門のメンバーからの強いモチベーションを感じました。「自分も興味があります」「私にも話を聞かせてください」など自然発生的に声が集まり、チャレンジ精神にあふれた20代から30代の若手エンジニアを中心としたチームが結成されました。

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声の価値のパラダイムシフトをリードする

コエステーションが目指したのは、「あらゆるものがしゃべりだす世界」をプラットフォームサービスとして支えることでした。

自然言語で機械を操作する対話形式のUIは、スマートフォンやスマートスピーカー、カーナビなどの製品(機器)で採用され、既に暮らしの中に溶け込み始めています。機器に話しかけるだけで、煩わしさなくさまざまな体験を享受できる。このような音声によるやり取りは、今後ますます進化し、広がっていくことでしょう。「声の価値」は大きく転換し、ウェアラブル端末やロボットなどを介して人とAIが対話をしながら生活するSF映画のような世界も、決して夢物語ではありません。

このような中で当社が構想したのが、声を「使ってもらいたい人」と「使いたい人」をつなぐサービスです。まず人の「声」を録音。東芝の音声技術で、声の特徴を学習してその人の声の分身である「コエ(声辞書)」のデータを生成し、その「コエ」に自由に文章をしゃべらせてさまざまなコミュニケーションに活用するというものです(図1)。

図1 コエステーションの概要

声の提供者のための権利化や声を色々なカタチで利用するためのさまざまな流通手段も備え、将来的には世界中のさまざまな人の声を収集し、膨大な「コエ」から最適なものを選んでロボットやウェアラブル端末、ゲーム、SNS*、その他さまざまなコンテンツに活用することができる、声のプラットフォームを目指しています。

*SNS:Social Networking Service

このコエステーション事業のファーストステップとして、一般ユーザー向けのサービスをスマートフォンのアプリで提供することが決定。イノベーションの気概に満ちたメンバーによる開発プロジェクトがスタートしました。

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クラウドネイティブ。そしてアジャイル+CI/CD

コエステーションの開発にあたり、私たちはこれまでのやり方を根本から見直す必要に迫られました。基幹システムを主軸とした従来型の開発では、工程の序盤で十分な調査に基づく綿密な設計を行い、リソースを詳細に配分して計画した工程通りにプロジェクトを進めていきます。私たちも、この品質の高さと安定した稼働を重視したウォーターフォール型の開発手法を得意とし、多くの実績を積み重ねてきました。

しかし今回は、柔軟性と俊敏性が求められる一般ユーザー向けサービスへの取り組みです。コエステーションはどのように利用されるのか、そのためにはどのような機能を実装するべきなのか、どのくらいの市場規模が見込めるのか。最終的なアプリケーション像が明瞭でない中、私たちは、まず最小限の費用でスケーラブルに開発を進める方策を考えました。そこでたどり着いたのがクラウドネイティブによる開発です。これならサーバーのようなITインフラの規模を固定せずに、トラフィックやリクエスト数に応じて自動的に必要な分だけを伸縮(スケーリング)させることができるため、費用の抑制にもつながります。また作った機能からすぐに動作の確認と改善ができるアジャイルによる開発を選択。個々の機能を設計して実装し、テストするまでのサイクルが小さく、設計や開発へのフィードバックが容易になったことで、ユーザーのニーズの変化に合わせた軌道修正も柔軟かつ迅速にできるようになりました。さらにCI*/CD*ツールを導入し、これまで人が行っていたビルド・テスト・デプロイの作業を自動化。人が指示することなく必要に応じて自動的にテストが行われ、その結果がフィードバックされるとともに、開発環境を常に最新の状態に保つことができるようになりました。

*CI:Continuous Integration(継続的インテグレーション),CD:Continuous Delivery(継続的デリバリー)

机上ではなく実際に動くもので要件を具体化していく開発手法と、効率的な作業を支援する各種ツールの採用は、プロジェクトの生産性を高めただけではなく、メンバー同士が連携しやすい環境も実現。思いついたアイデアをすぐに機能として実装し、メンバー間で速やかに評価したり、その場で改善の方向性を話し合ったりすることが可能になったことで、チーム内には率直な意見交換や活発なコミュニケーションが広がり、サービスの魅力アップにも大きく貢献しました(図2)。

図2 アジャイル開発+CI/CD

さらに、一般ユーザー向けのサービスであることから、これまでのビジネスシステムの製品化に向けた社内外における各種審査や手続きの知識だけではなく、社内の各部門から数々の支援の手が必要となりました。その支援と試行錯誤の結果、最後の難関だった社外の審査手続きをスムーズに終えることができ、喜びと同時に、新しいことへの挑戦を会社全体で応援しようとする空気を強く感じることができました。

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ビジネス活用など用途の広がりを、開発を通じて継続して支援

東芝デジタルソリューションズ株式会社 木野 浩誠

こうして2018年4月に、スマートフォンアプリ「コエステーション」(コエステ株式会社) をリリース*。アジャイル開発による試行錯誤を経て、声の録音から音声生成・調整までのさまざまな機能が、ユーザー目線での使いやすいインターフェースとして実装されました。その結果、新しい音声コミュニケーションの世界が手軽に体験できるアプリとして、10代から40代の幅広い多くのユーザーにご利用いただいています。

*2019年5月時点では、iPhoneおよびiPadに対応しており、登録アカウント数は3万件以上となっています。

また同年11月には、ビジネスユーザー向けのサービス(コエステ株式会社) として、ナレーションやガイダンスといった音声コンテンツをWebブラウザ上で手軽に制作・編集できるエディターと、任意のテキストをリアルタイムに音声化する音声合成エンジンのWeb API(クラウドサービス)の提供を開始。用途に合ったサービスを選択して合成音声を手軽に生成し、店内放送や駅のアナウンス、ゲーム、アニメーションなどさまざまな場面で活用できるようにしました。

現在ではお客さまとの共創により、「コエ」を使った新しいサービス*も登場し始めています。

*モビルス株式会社のAIアシスタント「バーチャルオペレーター」の音声に採用されました。ニュースリリースはこちら

また他人が勝手に「コエ」を使用できないようなセキュリティの仕組みや、声の権利をきちんと保護しながら、安心して快適に利用できる仕組みも構築しています。

音声を活用したコミュニケーションが広がり、声の価値の大転換がすぐそこまで訪れてきている中、当社はコエステーションという種をまくことに成功。今後、開発チームと運用保守チームとのシームレスな連携によるソリューション開発を目指すとともに、ユーザーの声も積極的に取り込むなど、さらなるチーム力の向上と機能の拡充を進めるコエステーションで、東芝デジタルソリューションズはこれから進化する音声文化を、その中心となってリードしていこうと考えています。

※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年5月現在のものです。

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