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「デジタルトランスフォーメーションの落とし穴と勝ちパターン」(後編)

東芝デジタルソリューションズ株式会社 福本 勲 著

当社は 2018年11月15日に株式会社ウフル、東洋ビジネスエンジニアリング株式会社と共催でセミナー「デジタルトランスフォーメーションの落とし穴と勝ちパターン」を開催しました。本コラムではその内容をレポートしております。
前編(⇒前編参照)では、当社 天野、ウフル 八子氏の講演の様子をお届けしました。後編では、私 福本、東洋ビジネスエンジニアリング 志村氏のプレゼンテーションの様子とパネルディスカッションの様子をお届けします。


 

『デジタルツインによるものづくりマネジメント』

東芝デジタルソリューションズ株式会社 インダストリアルソリューション事業部
デジタルトランスフォーメーション推進部 担当部長 福本勲


 3番目は、私 福本よりデジタルツインの「ものづくり」への活用に必要と考えられる要点についてお話しました。
冒頭、ものづくりの高度化に向け、デジタルテクノロジーをどう活用していくべきか?という課題を提起させていただきました。


 IoT/AIなどのデジタルテクノロジーを使って、ものづくりを高度化したい、あるいはできるのではないかという期待を持つ人が現在急速に増えています。デジタル化の取り組みに対しては、まず従来の業務を効率化しようと考える人が多いのが実情ですが、GAFAのように最初からデジタル化・自動化を前提としたプレイヤーに、従来のプロセスを効率化していくアプローチで勝てるでしょうか。最初から自動化/自律化/人の作業のゼロ化を前提とするような取り組みが必要なのではないでしょうか。


 このようなデジタル化の時代において、IoTやデジタルツインを使ってものづくりを高度化するためには、そのマネジメント自体を変えていく必要があると考えています。そのための重要な視点として、リアルタイム・ディテール・フロー指向の3つについてお話したいと思います。


 リアルタイムは、いま起きていることをとらえすばやくアクションを取れるようにすることです。1つは、現場で何か起きた時にアンドンでリアルタイムにアラートを出すなど、現場で実際に起きているさまざまな事象に対し、見える化し、すぐに気づいて、すぐに手を打つという、現場での小さなPDCAサイクルを廻すこと。もう1つは、現場で起きているさまざまな事象を、装置・ヒト・センサー・環境などのデータとしてとらえ、これらを関連づけて使える状態にしておき、多頻度で事象をとらえることで、次に何かの事象が起きたときに、すぐに判断でき、すばやくアクションできるという、少し大きなサイクルを廻すことが求められます。例えば、現場のヒトの作業と製造設備のデータを統合して現場で起きた5W1Hの関係が分かるようにすることで、同じ事象が起きた時に効率良くできる導線ややり方を標準として採り入れ、生産性向上に役立てることが出来ます。


 ディテールは、細かいメッシュで事象をとらえることです。スマートファクトリーを支えるCPSを実現する際に、現実世界で起きたことをできるだけ忠実にサイバー空間上に写像し、サイバー空間上で最適化アルゴリズムやAIなどを動かしたいと考えますが、これを闇雲にやってはダメで、工場マネジメントや現場の成熟度・受容度に応じて、徐々に時間軸方向を細かくしたり、重要度の高いところに絞ってセンシングポイントを増やしていき、メッシュを細かくしていく必要があります。ダイカスト・射出成型工程の最適化プロジェクトの事例では、機械の各種センサデータと、金型の温度分布をサーモグラフィで細かくとらえ、ディープラーニングで良否判定を行うことで、後工程での不良発生の予兆をとらえたり、熟練者の知見を得ることが可能になりました。


 フロー指向というのは、従来のルーチン作業の効率重視、バッチでまとめて処理という作業のやり方ではなく、時間軸方向の流れの中での「変化」に着目し、「いつもと違う」変化や兆候をとらえ、事前に検知して発生を防ぐなど、「いつもと違う」ことが起きたらすぐに対処するようにマネジメントしていくことです。現実世界で起きる事象は複雑な因果関係に基づいているケースが多く、1次元的に変化をとらえられないものもありますが、機械学習を使って複雑な要素が絡み合った「正常系」をまずモデル化し、そのモデルからの外れ値を異常兆候とみなす異常兆候検知モデルをつくることで、「いつもと違う変化」をとらえることができます。


 デジタルツインによってものづくりマネジメントを実現している事例として、デンソー様のFactory-IoT、東芝メモリの四日市工場などがあり、当社のものづくりIoTソリューション「Meister シリーズ」がそれをサポートさせていただいております。


 今日、IoTやAIに取り組まれている企業が増えていますが、我々がお客さまと一緒に実際に取り組んできて気付かされたのは、重要なのは「データ」だということです。きちんと時間軸を揃え、いろいろな要素を集め、相互に関連づけて、「データを経営資源化していく」ということです。データに基づいて、現場力を高め、匠の技をエンハンスする、といった取り組みは、これからのものづくり企業に欠かせない取り組みだと思います。


 デジタル化のゴールはIT化ではありません。サッカーやテニスなどのスポーツでもリアルタイムに選手の動きなどが見られるようになってきていますが、デジタル化しても勝利につながる戦術につながらなければ意味はありません。いかにしたらもっとデジタル化できるかではなく、業績を向上させるためにデジタルをどう活用できるか、組織全体でデジタル化を進めるにはどうしたらいいかを考えることが必要ではないでしょうか。


ビジネス+ITに『第4次産業革命のビジネス実務論』を連載中です。是非ご覧ください。

⇒『第4次産業革命のビジネス実務論』

『 デジタライゼーションで進化するものづくり』

東洋ビジネスエンジニアリング株式会社 ソリューション事業本部 デジタルサービス本部 本部長 志村 健二 氏


 セミナーの最後は、東洋ビジネスエンジニアリング 志村氏より、デジタライゼーションがもたらす「ものづくり現場」の進化について必要なことについてプレゼンテーションが行なわれました。


 企業のデジタル化は闇雲にはできません。競争力の視点はアセット、プロセスの2つであり、これに外部・内部の2つの難易度を組み合わせた4象限でこれを見ることの必要性を志村氏は述べています。
ものづくりのデジタル化は進んできてはいますが、現時点ではまだ(プロセス×内部の象限にあたる)実績主導型のケースがほとんどで、データを収集し見える化ができている段階に多くの企業がとどまっています。


 東洋ビジネスエンジニアリングが提唱する「ものづくりデジタライゼーション」には3つのステップが必要です。最初のステップは自社内を効率化するデジタル・ファクトリー、次のステップはサプライチェーンを跨ぐデジタル・バリューチェーン、最後のステップは顧客プロセスに入るデジタル・ビジネスモデルです。
最初のステップの取り組みにおいては、検知するためのデータを自動で集めることが必要です。それを実現しようとする際、人の壁(シニアvs若手)、組織の壁(経営vs現場)、プロセスの壁(設計vs製造)が立ちはだかります。これに対処するときに、昭和世代は1人で頑張り(ドラゴンボール 孫悟空型)、平成世代は仲間を集めます(ONE PIECE ルフィ型)。幼少期からiPhoneなどを利用しSNSなどで仲間を作ってきた人達が社会の中心になったときに、日本の企業は大きく変わります。


昨今、大手企業の品質問題が見られるようになりました。勘は感性、経験は蓄積によるものです。従来から、品質は経験に基づいて確保されてきました。経験には癖がありますが、癖は言語化が容易で、経験は比較的他の人に引継ぎ易いといえます。これらは機械化、作業手順化を実現できるソリューションで対応が可能です。例えば、業務手順、機械の動き、人の動きなどを、正しく記録してデータ化すれば引継ぎをサポートできます。一方、人の勘は、感性に依存します。これに対応するためには「なんとなく」を知るデジタル化が必要であり、データ解析やAIの活用が必要となります。

東洋ビジネスエンジニアリングは2016年に”mcframe SIGNAL CHAIN”をリリース。順次「簡単IoT」を実現する、”mcframe IoT”シリーズを展開してきました。これらの仕組みでは、自動でデータを集め、整え、見せるところまで行い、思考・判断・アクションのフェーズは人が行うことを想定しています。しかし、今後、さらに進化が進むと、コンピュータシステムが提案し、判断を行い、アクションを自動で起こすレベルに上がることができるようになるでしょう。


IoTプロジェクトを進める際に、PoCは経営層と工場・部門のどちらが主体で進めるべきかという課題がありますが、双方のクロスファンクショナルで進めるべきだと思います。また、推進においてはROA(Return on Assets)を分解してデジタル化の効果を考え、生産ロスの改善KPIを決め、経営インパクトを勘案し優先度を決めることが必要です。デジタル変化はツール導入ではなく、道具と技術と知能の三位一体が必要です。

デジタルトランスフォーメーションは不安だらけで、誰にとっても未知のものです。何になりたいのか、どうなりたいのか、どうマネタイズするのか、そのビジネス価値創出のためにどんなデータを活用するのかなど、あるべき姿、なりたい姿(ゴール)からシナリオ(ツール・人・組織)を描き、シナリオからロジック展開されたストーリーを仕立てることが必要です。そしてデータとビジネスに基づいたあるべき姿へのストーリー展開を行い、今どのレベルにいて、今は何をやるのかを見極めることが大切です。


今後は、集まったデータから人には判断できないインサイトを見える化し、企業ビジネスに貢献できるような計画を立案する、インサイト主導型のビジネスにも移行していく必要があります。

「不易流行」という言葉がありますが、中国がいくら進展しても、日本のものづくりの「精神」は真似できないと思っています。日本の現場の強さを後世に残していくことに貢献できればと考えています。


『 IoTのその先に必要な成功要件』

パネルディスカッション「デジタルトランスフォーメーションの進め方の勘所」


 最後のパネルディスカッションは、ウフル 八子氏がモデレータをつとめ、東洋ビジネスエンジニアリング 志村氏、私 福本がパネリストとして参加する形で、モデレータ、パネラー、客席ともドリンクを片手に緩やかな雰囲気で行なわれました。

議論のテーマは、デジタルトランスフォーメーションが進まない理由、デジタルトランスフォーメーションを進めて行くために注意すべきポイント、デジタルトランスフォーメーションを更に加速・成功させるためにすべき工夫の3点でした。


『 デジタルトランスフォーメーションが進まない理由』

まずお聞きしますが、デジタルトランスフォーメーションはそもそも進んでいるのでしょうか。


個々のデジタル化は進んでいますが、デジタルトランスフォーメーションが進んでいるという感覚はあまりないです。どうやったらデジタル化できるか、どうやってITを導入するのかといった質問は多いのですが、デジタル化はあくまでも手段です。業績を向上させるために、あるいはビジネスとして何かを実現するためにデジタルをどう活用できるかを考えないといけないのですが、現実には手段の目的化のようなことが起きています。


どういう姿になりたいかといったことが描けていない企業が多いのでしょうか?


全体としてどうなりたいかの姿を描かず、デジタルトランスフォーメーションが流行っているのでデジタル化を取りあえず進めているような事例が比較的多いのではないでしょうか。


組織のトランスフォーメーション、マネジメントトランスフォーメーションが必要なのではないかと思いますが、人が変わらないといけないのでは?


トップが明確にこういうことをやりたいという意識が日本の企業には少ないのではないでしょうか。こういう姿になりたいからそのためにデジタル化を手段としてどう使うということがなく、デジタルトランスフォーメーションという言葉が先走って皆が踊らされ、それをやると会社が変わるという勘違いをしているのではないかと思います。神経系がつながってないとメッセージがずれる。簡単に稼動を見える化しデジタル化しただけで終わってしまう事例が多いのは、この辺りにも原因があるのではないかと思っています。


「デジタイズ」と「デジタライズ」は違うという話をよくさせてもらっていますが、現場を単純に見える化するだけで次に行かないですよね。デジタルトランスフォーメーションの定義をお客は理解しているでしょうか?


デジタルトランスフォーメーションが何なのかがわかっていないのでは。単純にデジタル化をすることだと思っている人が多い気がします。


デジタルトランスフォーメーションには知恵が必要で、ひとりで考えていてはダメです。会社の活動としてアクションを起こさないといけません。


『デジタルトランスフォーメーションを進めて行くために注意すべきポイント』

続いて、デジタルトランスフォーメーションを進めて行くために注意すべきポイントについてお聞きしたいと思います。特に始めの段階ではどこに注意すべきなのか、どんな失敗事例があるかについて教えてください。


製造業などでも最初PoC(Proof of Concept)に取り組むケースが多いですが、どの工程のどのマシンでやろうかという話になったりします。日本はボトムアップの国なのでそうなりがちですが、ある工程の担当者だけ出てきて部分最適に陥ってしまい、次の工程に進めなかったりします。PoCは全体の姿を描いてその実現性を実証するものなので、ビッグピクチャーを頭に入れて取り組むべきです。PoC自体のROIを求める人などもいますが、ROIの枠組みを決めるためにPoCをやっているので本末転倒ですよね。欧米はトップダウンなので全体最適論が必須になります。日本のボトムアップを全否定はしませんが、ボトムアップ一辺倒では難しいのではないかと考えています。


発信が現場目線なのは仕方ないですが、現場の人はITを知らないです。IT部門向けにERPの説明をしても理解してもらえません。言葉を選んで丁寧に説明することが必要です。


基本的な質問ですが、ITとIoTの違いは何でしょうか?


ITは企業の既存業務の効率化などを目指す「ストーリーが予め決まっている」取り組みであるのに対して、IoTは従来収集できなかったデータなどを使って、例えば製造業がサービスビジネスに取り組むなど、新たなビジネスを実現する手段だと理解しています。


従来、収益の無かったモノを売った後のタイミングで、多頻度に収益を得るタイミングを実現したり、新しい価値を見出したりするのは、IoTを使ったデジタライゼーションの取り組みによってもたらされるものだと思います。従来のITプロジェクトはIT部門にせよ、業務部門にせよ既存の組織が推進するケースが多かったのですが、IoTプロジェクトの初期は、色々な部門や企業がクロスファンクショナルにやらないといけないですし、新しいナレッジを持つメンバーも入れて進める必要があります。クロスファンクショナル組織を設置する場合は、既存部門から人を出してもらう形態に比べ、企業外からの新しい人材の登用を進めたり、企業間での交流を進めていくようなケースの方が推進を行いやすいのではないでしょうか。


部署ができてしまった後は、想定と違うことが起きてしまうケースも多くあるためアジャイルに進めていく必要があるのと、強い思いを持つメンバーの推進力をうまく活用しながらプロジェクトをマネジメントする必要があります。


『デジタルトランスフォーメーションを更に加速・成功させるためにすべき工夫』

デジタルトランスフォーメーションを更に加速・成功させるための工夫などあれば教えて下さい。


こういった取り組みを加速するためには、個々の機器や人のデジタル化だけを意識してはダメですね。政府もConnected Industriesを推進していますが、工場の中の機械や人のつながり、サプライ側や出荷後のモノの使われ方、送配電システムや複数のプラント設備を組み合わせたプラントシステムなどの系、システム全体のオペレーション最適化などの視点も含めたデジタルツインが必要ではないでしょうか。そしてその情報を、ものづくり以前の企画フェーズまでフィードバックすることが必要だと思います。


参加者が表層的な理解を行なうだけではダメで、企業の枠組みを超え、人材が流動化したり、成果報酬型・アウトカム型のビジネスに移行したり、共同での事業責任を取れるような体制も考えていく必要があるのではないでしょうか。


本日、八子さんから話のあったコマツさんの事例では、KOMTRAXという「スマート・コネクテッドプロダクツ」型の取り組みで、お客が保有する建設機械やその燃料の盗難防止などのサービスや、コマツ側がリアルに利用者側のデータを取得し、モノの改良につなげてくるような取り組みが行なわれ、お客への導入後にモノを進化させるような取り組みはできてきていたのだと思われます。その一方で、建設業に携わる顧客視点で現場が必要としていることをフルサービスにコマツ1社で提供することは困難であるために、LANDLOGという「エコシステム型」の取組みに進化させたのではないでしょうか。製造業などの企業がこういった「場」につながっていくときに、受動的に「場」につなげるのではなく、能動的に自らの持つ能力を「モノ」ではなく「サービス」「価値」に変換して、開示することが必要ではないかと思います。


モノだけではなくサービスに変換するということが大事なんですね。


少し取り組んで効果が出たときに、このくらいじゃ発表できないと言う人がいますが、少しの効果でも発表して参画者を自然に増やすといった取り組みも重要だと思います。


人材の流動化、異業種間での自由なコラボレーションの促進のほか、欧米に比べ日本のIT技術者はITベンダに寄っているのでユーザ企業内のIT人材の雇用を増やすことなども求められるのではないでしょうか。


ITベンダとしてお客様の役に立っているかについて自問自答することがあります。本当に製造業のデジタルトランスフォーメーションに役立っているのか、そのためには共同組織を組成したりする取り組みも必要なのではないでしょうか。失敗しても良いから幾つも試せるような環境提供も必要だと思います。その代わりお客の成果に応じた報酬をもらうようにするなどのビジネスモデルも推進すべきではないかと考えています。


「先例のあるもの」しか採用しない日本企業の体質は問題ではないでしょうか。それだと絶対他社を超えることはできません。


他社がやっていないような取り組みをやりたいと言っているにも関わらず提案すると、「実績はあるのか?」と言うお客もいますね。


この後、会場との質疑応答が行なわれ、パネルディスカッションは盛況のうちに閉幕しました。


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