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「デジタルトランスフォーメーションの落とし穴と勝ちパターン」(前編)

東芝デジタルソリューションズ株式会社 福本 勲 著

 当社は 2018年11月15日に株式会社ウフル、東洋ビジネスエンジニアリング株式会社と共催でセミナー「デジタルトランスフォーメーションの落とし穴と勝ちパターン」を開催しました。本コラムではその内容をレポートします。前編では、当社 天野、ウフル 八子氏の講演の様子をお届けします。


 

『デジタルトランスフォーメーションの実践と課題』

東芝デジタルソリューションズ株式会社 技師長/株式会社東芝 サイバーセキュリティセンター センター長 天野隆


 冒頭、当社 天野より、実践段階に入ったデジタルトランスフォーメーションの実現施策、事例、課題に関するプレゼンテーションを行いました。

 天野は東芝デジタルソリューションズでデジタルトランスフォーメーションを提供する立場と、東芝グループ全体のサイバーセキュリティを見る立場を兼務しています。従来はサイバーセキュリティは情報システム部門が管轄するケースが多かったのですが、セキュリティ対策をしなければならない領域がOT(Operational Technology)まで拡大したため、事業経験者が担当するケースが増えており、天野は両方を兼務する形で従事しています。


 東芝には製造業としての140年を超える歴史があり、現在はグループで4つの事業領域を担っています。

 モノをつくり・運用してきた東芝はリアルの世界で強みを持っています。CPS(Cyber Physical System)においてリアルの世界からサイバーの世界に情報を吸い上げる”Information”ではGAFAなどのIT大手に強みがありますが、物理制約のないサーバー空間での多量のシミュレーションの中から最適な結果を導き出し、フィジカル空間に対し”Action”を行なうプロセスは東芝のようなものづくりのバックグラウンドを持つ企業に強みがあります、東芝はこれらの強みを生かし、CPSサイクルを実現します。
これらを支えるのが東芝のIoT“SPINEX”です。


 SPINEXの特徴の1つが東芝のものづくりの強みを生かしたデジタルツインです。IoTで収集される生データにビジネスのデータ、つまり業務データや製造設備・製品などのデータを時系列に関連付けて組合せることで、IoTデータを早期にユーザのビジネス価値につなげることができるようになります。データを活用可能にする”データモデル“を予め用意し、ユーザがIoT導入により価値を実現するまでのプロセス・期間を短縮することができます。


 また、2つめの特徴はAIです。モノに関わる課題を解決するアナリティックスAI”SATLYS(サトリス)”と、人に関わる課題を解決するコミュニケーションAI”RECAIUS(リカイアス)“の2つのAIにより、IoTを用いた課題解決に貢献します。
 SATLYSでは、予測・異常検知・要因推定、画像ディープラーニングを用いた多くの事例があります。また、RECAIUSにはユーザコミュニケーションなどをサポートする多くの事例があります。例えば、免許の自主返納が進む中、過疎地域で利用が進んでいる乗り合いタクシーのルートの最適化をAIで行なっている事例、ごみ焼却による発電が効率的に行なわれているかを炎の燃焼画像の解析で実現している事例、胃癌の切除範囲を少なくするために病理画像をAIで解析している事例、活動量計により倉庫などでの作業者の行動を推定する事例などがあります。
 AIのよくある失敗事例として、いつまで経っても成果が出ない/「面白かった」で終わってしまう/最後の最後でちゃぶ台がひっくり返ることなどがあります。我々も数多くの失敗を経験してきましたが、それらを踏まえて「べからず集」のようなものを作り、失敗の徴候がでてきたら迷走しないよう軌道修正をしながら進めるようにしています。
 AI供創のポイントとしては、「目的」を明確化する/AIという「手段」に拘り過ぎない/短期で成果を刈り取ることを優先することが重要です。AIに過度な期待を持ち、目的もなくデータから何か新たな知見を得ようとすると失敗します。ある切り口で分析して有用な知見が得られたら、そのやり方を真似て拡げていくと成果につながりやすくなります。人が何をすれば良いか判らない問題はAIにも解けません。AIの得意な、お手本を模倣する分析問題なのか、AIが苦手な分析問題を認識して利用することも大事だと考えています。


 最後にIoTにおける光と影のうち、影の部分であるサイバーセキュリティについてお話しました。東芝においても過去からセキュリティ防御の取り組みを行ってきましたが、昨今、外部委託先からの機密情報漏洩、ワナクライなどのマルウェア感染による生産ライン停止など、さまざまなセキュリティの脅威を目にするようになりました。IoT時代には自社に限らず、つながった中で弱いところが狙われるケースが多く、自社の防御だけではなくインシデントが起きた時どうするか/ハッカー視点でどう見られるかなどを考えることが必要です。
 IoT時代には、組織・プロセス・プラットフォーム・技術の4つの視点でサイバーセキュリティ態勢を強化することが重要です。インフラの重要度に応じ、必要なセキュリティ対策レベルを講じ、デジタルトランスフォーメーションの進化に応じたセキュリティモデルを定義し、セキュリティにおいても見える化/自動化/自律化といった段階的な取り組みとデジタルツインが重要になります。これらを実現することで、現象/稼働状況、ビジネスインパクト、機器状態に応じて動的に対応できるサイバーセキュリティ対策が推進できると考えています。
 この推進において最も重要なのは、マネジメントのトランスフォーメーションです。PDCA(Plan/Do/Check/Action)ではなく、OODA(Observe/Orient/Decide/Act)、あるいはNCW(Network-Centric Warfare)などの考え方がここでは大事になります。


 東芝は、ものづくりの強みに基づくデジタルトランスフォーメーションテクノロジーを、グローバルのすべての人にご利用いただくことで、社会に貢献することを目指しています。


『 IoTのその先に必要な成功要件』

株式会社ウフル CIO (Chief Innovation Offices)兼 IoTイノベーションセンター所長 八子知礼 氏


 2番目は、ウフル 八子氏より、IoTを用いたデジタルトランスフォーメーションの成功要件についてプレゼンテーションが行なわれました。
 冒頭、「IoTそのものだけでなく、その先の姿を思い描けているか?」との問いかけから始まりました。


 IoTでいままで見えなかったものを見えるようにし、それを分析して最適な結果を現実に戻すことを考えるのは重要なことですが、IoTは手段でしかありません。
 先進的なプレイヤーは元々モノをつくっていましたが、そこからビジネスモデルをサービスに移行し、ノウハウ提供や最適化サービスを実現しています。具体的には、どれだけ利用量・結果を実現できているかに応じた課金などへの移行がそれにあたります。
 IoTにより、今までと違う事業ドメインに進出できているかが課題です。業界の境目が無くなるデジタル時代において、これは特に重要です。視点としてはユーザエクスペリエンス全体の変革がポイントであり、エコシステムの形成が実現手段といえます。

 典型的な例が自動車です。自動運転の時代になると車の中の過ごし方が変わります。例えば、宿泊や飲食、カラオケなどを移動中に行うサービス提供なども考えられますが、こういったサービスを自動車と一緒に提供する企業は製造業といえるのでしょうか。自社のビジネスを既存ビジネスのサイロに閉じこめると、いとも簡単に他の業界からアタックされてしまう時代が来ているといえます。
 将来どんなものを作りたいかが見えているか否かによって、IoTがもたらす成果が変わってきます。例えば、ボストンダイナミックスのロボットの運動能力はある面、人間を超えていますし、コマツはデジタル化により従来熟練技術者しかできなかった作業を誰でもできるようにしています。

 Data Gravity(データの重力)によって更なるデータビジネスが加速します。IoTに取り組んだ結果、大量のデータが得られたところに、サービスやアプリケーションを構築することで、更にデータやビジネスが集積されます。こういったプラットフォーム型のビジネスではデータがあたかも重力を持つように様々なデータを引き寄せ、様々なサービスやアプリケーションを伴うビジネスが創出され、そのサービスが更にデータ創出を加速するという好循環が生まれます。データを集めても効果が少し出るとそのデータを捨ててしまうといったケースも見られますが、これではダメです。

 このIoTに関する主要技術のひとつが、デジタルツインです。デジタルツインは、リアルな世界と同一な条件の環境をパラレルにデジタル空間上に構築してシミュレーションし、リアル世界へフィードバックするモデルであり、製造業のバリューチェーンがデジタルで拡がるために必要なものです。そして色々な業界のデジタルツインの精度をあげるためには、データ量・精度とバリューチェーン全体にわたってのデジタルカバレッジを上げる必要があります。


 プラットフォーム化においては、収益が上がってもコストが増加しないモデルを作らなければスケールせず、その重要な考え方がプラットフォームとビジネスエコシステムの形成です。自社の強みとなるさまざまな設備や機械などの現場データを蓄積し、それを外部パートナに開放して新たなサービスやアプリケーションをつくってもらい、エコシステムを形成するオープン&クローズ戦略が重要です。
 また、プラットフォームはマルチレイヤードになっていかなければなりません。ある企業のプラットフォームでサプライヤのデータが必要になったときに、例えばそのサプライヤが出せるデータのみを区分して出せる状態になっていなければ、本来クローズにしたいデータも含め全てをバイヤ企業に吸い上げられてしまいます。そのため、流通してよいデータのみを流通できるプラットフォームを作っておかなければいけません。

 ネットワークについても、5Gになると実現できる物事が大きく変わります。その際、何が拡張されるのかの本質を見極めることが必要です。5Gの時代では立体と同時性が拡張されるモデルが重要となります。
 デジタル時代にはクラウド、ネットワーク、エッジデバイスなどの境目がなくなります。例えばAIについても、マスターのAIがあるノードにあって、別の複数のノードのAIが相互認証と、自律分散制御をしながら連携するような形態に変わっていくでしょう。


 今後、従来のビジネス領域の枠組みにとらわれないCROSS視点(CROSS視点とは、Cross Industry/Resource Sharing/Outcome-base/Smartphonize/Simulatable をさす)でのIoTビジネスづくりが重要になります。部分最適のカイゼンではなく、全体最適のイノベーションが重要であり、特に製造業においては「モノ」を作り、売るだけではなく、それ以降の収益タイミングの多頻度化が重要です。
 デジタル時代においては、量の最大化でなく、機会の最大化が重要です。最先端のテクノロジーをバリューチェーンの隅々まで組み入れたデジタライズと、データ中心のリアルタイムなオペレーション環境が必須となり、各企業が新たなビジネスを継続的に生み出すプラットフォームに変化していくでしょう。


後編(⇒後編参照)では、私 福本、東洋ビジネスエンジにリング 志村氏のプレゼンテーションの様子とパネルディスカッションの様子をお届けします。


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