経営戦略を共有し、上流からの物流改革を提案
東芝ロジスティクスが提供する「4PL」とは?

更新日:2018年8月22日

最適な物流体制を築くため倉庫の立地を見直す。
必要とあらば製品のパッケージ変更も提案する。
東芝グループの物流子会社として知見と経験を蓄積してきた東芝ロジスティクスは、単に顧客の物流業務を請け負うだけでなく、経営方針に基づく戦略立案のフェーズから参加してロジスティクスの構造改革を手掛けている。
その姿勢の根本にあるのは「荷主の立場でロジスティクスをプロデュースする」という4PLの考え方だ。
「トラックに偏りがち」な日本の物流インフラに限界がせまりつつある中、業界の人手不足は深刻化の一途をたどっている。
山積する課題に対応するためには、従来の3PLにおけるコンサルティングから一歩踏み込み、経営の上流から考えるロジスティクス戦略が欠かせない。
そのヒントを得るため、同社のソリューションを牽引する石川祐太氏に聞いた。
東芝ロジスティクス株式会社 プラットフォーム事業部 開発営業担当 グループ長 石川 祐太氏

物流は、「事業継続そのもの」に影響する課題

全産業的に深刻化の一途をたどる人手不足は、当コラムでも繰り返し伝えているように物流企業にとっても大きな問題となっている。さらに石川氏は、現在の日本の物流インフラそのものが限界を迎えつつあると指摘する。

「未曾有の災害によって物流機能が麻痺してしまうケースもたびたび見られます。直近の事例では、西日本豪雨によって被害を受けた地域の交通がまだ回復しきっていません。一部地域ではJRの路線の復旧に1年以上かかるという話も出ています。大阪と九州を結ぶ国道2号線が走れるようになったことで、西日本の物流インフラがトラックに偏っている状況です」(2018年7月時点)

平時の人手不足に加え、非常時の対応によって業界はさらなる負担を強いられている形だ。さらに猛暑の影響でエアコンの新規購入需要が伸び、注文が殺到。ますますトラックが不足しつつあるという。

「天災は、いつどこで起こるか分かりません。地震はもちろん、大雨も大規模な災害となり得ることを我々は改めて認識しなければならない局面にあります。ロジスティクスのシステムをどう組み、運用していくか。これは企業の事業継続そのものに対する課題と言えるでしょう」

また、地球環境へ配慮した持続可能な物流のあり方を考える上で、ガソリンや軽油といった化石燃料にいつまでも頼り続けるわけにはいかないという問題もある。原油価格が上昇し続ける中、コスト面での負担も経営を圧迫する要因となっている。

その当事者である企業側には、物流にまつわる諸問題を「マンパワーで解決しよう」という傾向が強く存在するのも事実。石川氏は「まだまだマンパワーに頼らざるを得ない面はある」と現状を分析しつつも、新たな可能性に目を向けている。

「物流は人によって支えられてきた産業であり、そもそも人がいなければ成り立ちません。仕事の内容や量が瞬時に変わってしまうこともあり、機械での代用が難しいという側面もありました。現実的には、今の時点ですべてを機械に置き換えることはできないでしょう」

最近では物流業界の働き方改革が提唱されたり、外国人に活躍してもらうための方策が考えられたりと、多様な人材が長く働き続けられるようにするための動きが活発化している。この流れとともにAI(人工知能)などの進化をうまく業界に取り入れながら、柔軟に機械を活用していくべきだと石川氏は指摘する。

「従来のように人の力だけに頼るのには限界があります。一方で何もかも機械に頼ることができるというフェーズでもありません。現実的に考えていくべきなのは、『いかに人と機械を調和させていくか」ということだと思います』

人の勘だけでなく、エビデンスに基づいた改善が可能に

「人と機械の調和」に向けて、東芝グループではさまざまな研究と実践が進められている。その代表例が活動量計を用いた倉庫内作業の改善だ。

倉庫で働く人の生産性を測定するのは簡単ではない。従来は「今からこれをやります」「完了しました」とその人自身に宣言してもらい、人力でデータを集計していた。しかしこれでは対象者も場所も、情報量そのものも限られてしまう。データ集計に手間がかかる割には、実際の改善まで結びつかないというケースも往々にして見られた。

そこで同社では、グループ企業である東芝デジタルソリューションズが開発した、ウェアラブルセンサーを用いた活動量計を導入している。

「重要なのは人がどこで、何をやっていたかを把握すること。活動量計には倉庫内での作業者の動きを推定する機能を盛り込んでいます。東芝ロジスティクスの倉庫管理システムと連動させ、特定の商品をピッキングして集めるのにどれくらいの時間がかかったか、ということを明らかにできるようになりました」

これによって、対象となる人の作業量を明らかにし、数十人規模でも同時に測定できるようになった。その結果は、「人」「モノ」「場所」の3つの観点から改善提案につなげていく。

人で言えば、性別や年齢、習熟度で作業効率は変わってくる。品物のサイズなど「モノ」の要素も大きく影響する。また、高い場所よりも低い場所にある製品をピッキングするほうが効率は上がる。

これらの事実は、長く物流現場に携わっている人であれば「自明のこと」だと感じられるかもしれない。しかし従来は、その自明を知る「人の勘」でしか分からなかったことでもあるのだ。

「勘に頼るだけでなくエビデンスとして数値化し、改善につなげられるようになった効果は大きいと感じています。ゆくゆくは個人の作業能率の変化や、熱中症対策など健康面での配慮にも活用できるようになるはずです」

活動量計を用いたソリューションは東芝グループ内の効率化のみならず、顧客の現場における改善ツールとしても活用されている。毎日データを取り続けることで、改善結果もすぐに見られるようになったという。

こうしたソリューションは、東芝グループ内での共創の成果だ。ディープランニングなどのノウハウを持ち合わせる東芝デジタルソリューションズが、物流の専門家である東芝ロジスティクスとタッグを組むことで実現した。さらに東芝インフラシステムズ、東芝テックの2社も加わり、物流業界の課題解決に向けたハード開発やソリューション開発を進めている。

「東芝グループ内のさまざまな企業体の強みを生かして高いレベルで基礎研究を続けながら、それを実践する場所を通じてサービスを具現化しています」

上記で紹介した4社は、今秋開催される第13回国際物流総合展(9月11日から14日、東京ビッグサイト)へ共同で出展する。最新のマテハン機器や倉庫管理システム、温度管理の仕掛け、ロボットを活用したソリューション、4PLや活動量計を応用した提案など、実際の装置や事例も豊富に交えて紹介予定とのことだ。

必要なのは、ロジスティクスを「経営の本流」ととらえること

「物流は今や、企業活動の主軸と言えます。従来のように『一部門』と切り離して考えるのではなく、経営の根幹からロジスティクスの専門家が関わっていく必要があります」

多岐にわたる課題を解決するために東芝ロジスティクスが提唱するのは、企業の経営方針に基づいて物流戦略を描く「4PL」(Fourth Party Logistics)の考え方だ。

従来の3PL(Third Party Logistics)においては、物流企業は荷主に与えられた条件の中でオペレーションを回していくだけの存在だと見なされることも少なくなかった。それに対して同社は、「荷主の立場で物流のあり方そのものを考える」ことを徹底しているという。

「これは、我々がメーカーの物流子会社として誕生し、専門的な知識と経験を蓄積し続けてきたことによるものです。物流倉庫をどこに置くべきなのか、海外からモノが入ってくる場合にはどのような機能を倉庫に持たせるべきなのか、在庫を圧縮するためにはどのような商品構成にするべきなのか。こうした経営戦略を描き、東芝グループの中で実行してきました」

荷主の立場でロジスティクスをプロデュースすること。それが同社における「4PL」の定義だと石川氏は話す。製品サイズが最適な物流戦略を妨げていると判断すれば、パッケージングの変更も提案する。

石川氏が語るように、東芝ロジスティクスという会社はそもそも「東芝の物流費を下げる」ために生まれた会社であり、一般の物流企業とは方向性が違う。同社は設立以来、重要指標として東芝グループの「売上高物流費比率」を徹底的にマークしてきた。

売上高は市場環境によっても大きく左右されるが、売上高が下がっているのに物流費が上がり続けているようでは、企業は存続できない。公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会が発表した『2017年度物流コスト調査結果報告書』によれば、全産業平均の売上高物流費比率は4.66%。エンドユーザーへ100円で販売する商品であれば、そのうち4円以上が物流費という計算だ。これは決して安いコストではない。

「東芝グループ全体ではこの売上高物流費比率を毎年下げ続けて、現在では全産業平均の約4分の1に抑えています。この実績をもとに、外部企業へもさまざまな提案を行ってきました」

例えばある家電メーカーでは2003年頃から、生産拠点を中国やタイなど海外へ移転する動きを進めていた。ここで課題となったのが「拠点数と在庫のムダ」だったという。生産された製品の入荷元が国内各工場から港へシフトしていく中、それまで国内に構えていた11の物流拠点は非効率な立地となってしまい、過剰な在庫を抱えるようになった。そこで東芝ロジスティクスは湾岸地区への物流拠点集約を提案。6年間で拠点数を3カ所に絞り、効率化と在庫削減を実現した。

さらにこのメーカーへは、「DFL」(Design For Logistics=ロジスティクス目線での製品設計)の考えに基づく提案も行っている。LED照明製品を薄型化することで、倉庫内に平置き・縦置きできる包装を開発。包装に必要な部品数を削減して作業性改善も狙った。これによって包装容積を21%削減し、10tトラックへの積載率は55%アップ、さらに倉庫保管効率50%アップという成果につながっている。
東芝ロジスティクスの4PLソリューション 全体イメージ
「東芝ロジスティクスの4PLでは、顧客の物流部門そのものを一緒に構築するところから提案が始まります。事業戦略を実現するために必要な指標やシステム、体制をともに考え、具体的な施策を実施しています」

石川氏は同社のソリューションをそう説明する。成果を生み出すためには「物流部門を企業活動の中心的存在としてとらえ、経営方針を積極的に開示していただくことが必要です」とも。

従来の社内物流部門や子会社、あるいは外部の3PLパートナーとの関係性においては、生産計画や新商品計画といった経営戦略の根幹まで共有することは稀だったかもしれない。しかし、「拠点をどう構えるか」「どんな機能を持たせるか」「どんな商品パッケージが適切か」といった視点で物流の解決策を考えていくならば、経営戦略の共有は欠かせないプロセスとなる。ロジスティクスを傍流ではなく、経営の本流ととらえること。そんな企業姿勢が問われる時代になったのかもしれない。

「これまではコストとしてとらえられていた物流ですが、その価値は明らかに変わりつつあります。例えば大手通販会社は「時間」に商品価値を見出し、最速1時間で届くという差別化を行っています。生産性やリードタイム、在庫などのさまざまな観点でも、「時間」をコントロールすることで物流は大きく変えられる可能性を持っています。このように、物流そのものを商品の一部として価値提供する企業は増えていくでしょう。こうした潮流の中で、我々も高いレベルで基礎研究を続けながら、自分たちが実践してきたことをベースに地に足をつけて提案を続けていきたいと考えています」

この記事の内容は2018年8月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。