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ニューノーマル時代を生き抜くためのDX推進
今後のカギとなる「データエコシステム」とは?(前編)

経営,イノベーション
2020年10月1日

 近年、日本ではデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための試みが活発化しており、新型コロナの影響により、その動きはさらに加速しつつある。だが、DXに上手く取り組めている企業は少数派であり、PoC(Proof of Concept:概念実証)の壁をなかなか超えられない企業が数多くみられる。
 新型コロナによる企業のDXの取り組みへの影響や、DXが進まない理由に加え、DXに取り組む中でなぜ「データエコシステム」が必要なのかについて、本ウェブメディア「DiGiTAL CONVENTiON」編集長 福本勲が、IDC Japan株式会社 シニアマーケットアナリスト 鳥巣悠太氏に話を聞いた。        

IDC Japan株式会社 シニアマーケットアナリスト 鳥巣悠太氏
IDC Japan株式会社 シニアマーケットアナリスト 鳥巣悠太氏

福本:新型コロナが国内企業に与えた影響についてどのように捉えていますか。その影響はIT投資にどう反映していくと思われますか。

鳥巣:企業の中でIT予算の策定および承認に関わるマネージャー職以上を対象に、IDCが今年(2020年)6月に実施したアンケートによると、2019年度は売上や営業利益が増えたと回答した企業が過半数となっています。ところが、2020年度の見通しについては、売上が増加すると回答した企業は37.0%、減少が33.8%と、増加がわずかに減少を上回るに留まっており、営業利益についても同様の傾向がみられることから、全体的に経営状況が悪化していると言うことができます。

調査対象企業における売上/営業利益の2019年度の実績と2020年度の見通しのグラフ
調査対象企業における売上/営業利益の2019年度の実績と2020年度の見通し(n = 500)
出典: IDC Japan 「国内企業IT予算へのCOVID-19影響調査:第2回」(2020年7月)

一方、IT関連支出については、2019年度の実績は増加が35.6%、減少が8.8%、2020年度の予算(調査時点)は増加が31.4%、減少が15.8%となっており、増加と回答している企業はそれほど減っておらず、約7割は2020年度の予算が増加または変化なしと回答しています。新型コロナのIT支出額への影響は、売上・営業利益への影響と比較するとそれほど大きくないと見られます。

調査対象企業におけるIT関連支出の2019年度の実績と2020年度の予算のグラフ
調査対象企業におけるIT関連支出の2019年度の実績と2020年度の予算(n = 500)
出典: IDC Japan「国内企業IT予算へのCOVID-19影響調査:第2回」(2020年7月)

福本: IT関連支出で増加が見込まれるのは、在宅勤務やテレワーク関連でしょうか。

鳥巣: 支出が増加するという回答が多いのは、「在宅勤務・テレワーク関連」や「セキュリティ」「社内ネットワーク強化」「社内ITのクラウドへのシフト」など、働き方改革やセキュリティ関連です。ただ感染拡大の収束後に取り組んでいくべきものについて聞くと、「サプライチェーンの強化」や「新製品/サービス開発に向けた情報/データ活用」、「デジタル技術を活用した新たなビジネス創造」の重要性が相対的に高まる傾向もみられます。

福本: 新型コロナの影響で、DXへの投資がさらに加速するということでしょうか。

鳥巣: DXの取り組みに対する新型コロナの感染拡大の影響についての調査によると、「DXに関する予算、体制など、「コロナ前」と大きく変わらない」「DXで取り組むプロジェクトの優先順位や取捨選択が行われている」「DXとして取り組む領域が増えたため、予算や体制などが拡大している」という回答が計48.4%と約半数近くを占めています。したがって、(新型コロナの影響により)DXの取り組みを休止するのではなく、むしろこの状況を前向きに捉えている企業も少なくないとIDCは考えています。

■DXプロジェクトがPoCから先に進まないワケ

福本: DXを推進するための試みがさらに活発化するということですが、その一方で、PoC疲れという言葉もよく聞かれます。

鳥巣: IDCが2020年9月に実施した調査によると、IoTの取り組み開始から4~5年経過した企業でも、過半数が検討フェーズやPoCフェーズから抜け出せていません。そしてこの傾向はDXにもあてはまると考えられます。IDCではDXを、第3のプラットフォーム(クラウドやビッグデータアナリティクスといった基盤技術)を利用して、顧客経験価値(CX)の向上を図り、競争上の優位性を確立することと定義していますが、最近ではIoTはDXのサブセット(構成要素)になりつつあります。したがってIoTの取り組みを阻む要因はほぼ間違いなくDXの阻害要因になり得ますし、さらに言えば後編にて詳しくお伝えするデータエコシステムにおいても同様の課題が顕在化してくると考えられます。それではDXやIoTを阻害する課題とは一体何でしょうか。IDCでは「人材」「組織」「経営層」を3大課題として挙げており、これらを総合的に解決していくことが、PoC疲れの解消に不可欠になると考えています。

IoT担当者の所属企業の活用フェーズ(取り組み開始時期別)の図
IoT担当者の所属企業の活用フェーズ(取り組み開始時期別)
出典: IDC Japan Source: IDC’s Japan IoT End-User In-Depth Survey, September 2020(n = 309)
取り組みフェーズ/開始時期が「わからない」回答者を除いて集計。
企業内で自身の業務の1割以上をIoTプロジェクトに充てる「IoT担当者」が対象

鳥巣: 中でも最も大きな課題が、人材です。DXを推進する人材に求められるスキルを調査すると、セキュリティ、AI、クラウド、ビッグデータ、ネットワーク、5Gというキーワードが挙がります。つまりDX推進に必要なのは、IoTを含めた多様なチャネルを通じて蓄積したデータを分析し、それらをネットワークでつなぎ、最終的に顧客の経験価値向上につなげていける能力です。ですが、このようなIT人材の育成や確保は容易ではありません。DX推進の阻害要因に関する調査で、先端IT人材の育成や確保が難しい理由を聞いたところ、「内部人材教育は一定スキルレベルを超えない」「人不足で内部人材の配置転換は難しい」「外部採用は報酬や条件がマッチしづらい」「外部採用では高スキルの人が見つからない」「外部採用の高スキル人材は流出してしまう」という回答が見られ、一言で人材の課題と言っても、育成、採用、評価、配置、流出対策と多岐にわたります。
もう一つ大事なのが経営の課題で、中でも、経営層のKPIに対する考え方が重要な課題と捉えています。IDCが2015年から毎年行っているIoTの利用に関する調査によると、IoTの利用率は年々増加していますが、そのほとんどが「社内用途」で、「DX用途」は一部に留まっています。社内用途とは、業務効率化やコスト削減を目的としたIoT活用です。製造業であれば工場の製造ラインの効率化や品質管理、アセットの故障の予知を検知するというようなものです。一方、DX用途は、顧客の事業変革、顧客経験価値向上のためにIoTを活用するという、DXを目的としたIoTです。DX用途については見本となる成功モデルが現時点でそれほど多くは登場しておらず、KPIの設定をどうするかがハードルになりやすいため、企業の経営層の賛同を得にくくなっていると思われます。しかしながら企業としては、社内用途のIoTだけではなく、顧客経験価値向上のためのDX用途のIoTも含めて、両輪で進むことが重要だとIDCでは考えています。

IoT利用企業の割合の推移のグラフ
IoT利用企業の割合の推移
出典: IDC Japan IDC’s Japan IoT End-User Survey, August 2020(n = 3,674)
従業員規模100名以上の企業のIoT利活用に関する自由記述内容をもとに、IDCが「IoT利用企業」か否かを判別し利用率を算出。「DX用途」の中には社内用途を併用する企業も含む。
2015年は「DX用途」と「社内用途」に分類した調査を行っていない

福本: 日本ではDXを既存のビジネスの延長線上の効率化の取り組みだととらえている方が多いと思います。これを変えていくために、経営層はDXのKPIをどう捉えればよいのでしょうか。

鳥巣: DXは達成に時間がかかるため、複合的な評価が必要です。しかも新型コロナの影響を受けているビジネス環境下で、売上や利益、効率性、生産性、市場シェアなどの標準的な指標を定めても、2~3年で結果は出せません。そのため、例えば、活用するデータの種類やデータの数、データを持っているパートナーとの協業数、それによって顧客や従業員のロイヤリティがどれぐらい向上したかなど、多面的なKPIを設定する必要があります。DX推進の担当者だけではなくベンダーが協力して経営層を啓蒙し、考え方をリセットしてもらうことが大事になります。

■DXによるビジネスモデル変革に向けたデータ活用の課題とは

福本: DXを推進している多くの企業は、ビジネスモデルの変革を目指し、社内外データの複合的な活用を求め始めています。どのようなデータ活用が進んでいるのでしょうか。また、その際の課題について教えてください。

鳥巣: 企業の中でIoTプロジェクトに携わる担当者が、IoTデータをどのようなデータと組み合わせて活用しているか、活用したいと考えているかについての調査結果をご紹介します。現在は、経理・会計・財務データや生産管理データ、サプライチェーンデータなど、主に基幹系や業務システムのデータとの組み合わせが中心です。一方、今後重要性が増すデータとして挙がっていたのが、官公庁が保有するデータやオープンデータ、人口動態・流動データ、さらにはパートナーやサードパーティが持っているデータです。外部のデータとの組み合わせが今後増えていくと考えられます。
では、このようなデータ活用を進める上での課題は何か。IoT担当者の回答から、大きく2つの課題が浮かんできました。一つはデータ標準化の壁です。製造業の例で挙げると、生産ラインごとに、それぞれ異なるベンダーのIoTプラットフォームを導入しているため、データの仕様が異なり、一元的に管理できないというような問題です。もう一つが、組織のサイロ化です。データが部門ごとに収集、活用されていて連携性がなく、組織と組織の間で亀裂があり、データの共有が進まないといった問題があります。このような課題がありつつ、将来的には社外のデータとも組み合わせて活用できるよう取り組んでいかねばならないというわけです。

福本: データエコシステムの前に、エコシステムという話を考えていかなければいけないと思うのですが、その際に、顧客経験価値の向上がその重要なポイントになると思います。顧客経験価値をベースにDXを考えるには、自社だけでできることにとどまらず、業界レベル、社会レベルで何を実現できるかという視点でエコシステムづくりを行う必要があると思います。
また、データについても、例えば環境などの情報が必要になってきたときに、自分で取得するのではなく、すでにオープンデータで存在するものを活用していく。そういう順番でものを考えていくということなのだと思います。

執筆:中村 仁美
撮影:鎌田 健志
  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2020年10月現在のものです。

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