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モノづくりからコトづくりへの変革
変革のカギはプラットフォーム・エコシステム(前編)

経営, イノベーション
2020年3月9日

 今、製造業にはモノづくりからコトづくりへの事業変革が求められている。なぜ、コトづくりへの変革が必要なのか。変革のカギを握るプラットフォーム・エコシステム型のビジネスモデルとはどのようなものか。どのようにプラットフォームを成長させていけるのか。2019年4月に「デジタル・プラットフォーム解体新書―製造業のイノベーションへ向けて―」(近代科学社)を上梓した立命館アジア太平洋大学 国際経営学部 高梨千賀子准教授に、同書を共著した本ウェブメディア「DiGiTAL CONVENTiON」編集長 福本勲が話を聞いた。

立命館アジア太平洋大学 国際経営学部 高梨千賀子准教授と本ウェブメディア「DiGiTAL CONVENTiON」編集長 福本勲
左:立命館アジア太平洋大学 国際経営学部 高梨千賀子准教授
右:「DiGiTAL CONVENTiON」編集長 福本勲

国際社会に貢献する人材を養成する立命館アジア太平洋大学

福本:まずは高梨先生が准教授をつとめていらっしゃる立命館アジア太平洋大学(APU)について、ご紹介ください。

高梨:立命館は、1869年に創設された伝統ある教育機関です。2大学、4附属校、1附属小学校を有し、学生・生徒・児童数は約5万人です。その一つがAPUであり、大分県別府市に2000年4月に開学しました。「自由・平和・ヒューマニティ」「国際相互理解」「アジア太平洋の未来創造」の3つの基本理念を体現し、国際社会に貢献する人材の養成に取り組んでいます。152の国・地域からの国際学生を受け入れており、半数が国際学生です。また教員も約半数が外国籍です。コミュニケーション言語は英語と日本語で、授業も二言語で提供しています。
APUにはアジア太平洋学部と国際経営学部という2つの学部があります。私が所属している国際経営学部は、世界の多様な政治、経済、社会文化などを幅広く理解した上で、次世代の国際ビジネスリーダーに必要なグローバルな視点や問題解決能力の育成を目的としています。

福本:本日は、製造業のモノづくりからコトづくりへの変革というテーマでお話を聞かせていただきたいと思いますが、コトづくりには顧客のエクスペリエンス、経験価値が非常に大事になってきます。そうすると、世界中に様々な顧客がいる中で、当然、経験価値をつくり出す側にも多様性が必要になってきますよね。そういう観点で、APUの多様性の理解や国際ビジネスリーダー育成の取り組みは非常に重要ですね。

サービタイゼーションとは何か? サービタイゼーションで解決できること

福本:では、本題に入らせていただきます。これからの製造業は「モノ」から「コト」に価値を見出していくことが求められるようになると言われています。製造業のサービス化、サービタイゼーションについて、改めて解説していただけますか。

高梨:今までモノを作ることに特化してきた製造業がサービスまで行う取り組みを、サービタイゼーション、サービス化と呼んでいます。その背景にはモノづくりだけではなかなか収益が上がらない競争環境になってきたことがあります。デジタル化の進展により、モノに関する様々な情報が容易に広く共有されるようになりました。これは、国際標準化とも相まってビジネスのグローバル化を加速させましたが、その結果として、ハードウェアなどモノの差別化要素がなくなり、コモディティ化が急速に進むようになりました。こうしてモノの価値がどんどん下がり、製品開発に多額の資金を掛けても、モノを売るだけでは収益につながりにくくなってきました。

福本:モノを売っても得られる収益が下がっているので、モノを売った後に収益を得る機会を多頻度化していくことが必要で、その手段がサービス化ということなのでしょうね。

高梨:モノづくりに特化してきた日本の多くの製造業は、これまで、メンテナンスなどのアフターサービスは他社に任せたり、アフターパーツの提供をサードパーティに委ねたりするなど、分業を行ってきました。サービタイゼーションの一つの形態は、他社に委ねてきたビジネスプロセスを自社の中にインテグレートしていくというものです。自社が製造したモノをエンドユーザーがより使いやすくし、継続して価値を創出することができるように各種のサービスを自ら提供する。そうすることによって、ユーザー情報を直に入手するとともに、ユーザーを囲い込むための手を打つことが可能になります。結果、顧客とより密接な関係に基づく高付加価値なビジネスを展開することができます。

福本:一方で、エコシステムをつくるという流れもあります。例えば車の自動運転化が進みレベル4や5になると、何もしなくても車が目的地まで運んでくれるようになります。そうなると、車の中でどのように過ごすかということが大事になり、そこにサービスを提供していくようなビジネスが必要になってきます。このようなサービスは従来の垂直統合型の自動車OEMだけでは提供できません。新たなプレーヤーと新しいエコシステムを創るということが起こっています。

高梨:サービタイゼーションには、いくつかの形態があります。先ほど申し上げた製造業のサービス化はメンテナンスやアフターサービスといった自社のコアビジネスの延長上にあるビジネスプロセス、あるいはバリューチェーンの一部を取り込み、顧客がモノを使用することによって得られる価値をより実現しやすくする、という意味でのコトづくりでした。
しかし、自動運転の価値は、自動車やそのメンテナンス、アフターサービスから得られるものではありません。自動運転の一つの価値は、運転することから解放された顧客が車内で過ごす時間にあると認識できることでしょう。それは、従来のモノの価値でもモノを使う価値でもない、モノが使われる文脈を理解することで認識される、新たな価値ともいえるものだと思います。そのサービスを提供するエコシステムも、従来のモノづくりをベースとしたサプライヤーチェーンだけでは不十分で、新たなメンバーを必要とします。製造業のサービタイゼーションには、こうした顧客の新たな価値を見据え、それに自社を結びつけるというところまで関与していくタイプのものもあります。モノづくりからコトづくりへと進化した段階です。それをBtoB(Business to Business)の世界で実現している例のひとつが、コマツだと思います。

サービス・ドミナント・ロジック(SDL)とグッズ・ドミナント・ロジック(GDL)

福本:コマツなどが中心となって設立した、建設生産プロセス全体をつなぐIoTプラットフォームを提供するLANDLOGは、まさに、建設に関わるコトづくりの具現化をパートナー企業と実践しているエコシステムだと思います。
コトづくりにおいては、顧客とともに価値を創造できることが大事になります。価値尺度が顧客の使用価値となるサービス・ドミナント・ロジック(SDL)という考え方が重要になるということでしょう。SDLとグッズ・ドミナント・ロジック(GDL)について教えていただけますか。

高梨:SDLという考え方が出てきたのは、ちょうど米国のITバブルが弾けた頃。国として製造業からITを含めたサービス業に方向転換しようとしていた中で、そのITがバブルで崩壊し、ITから流れてくる価値を再構築しなければいけないという時期でした。2004年、全米競争力評議会はサービス業を科学すると大きく謳った「パルサミーノ・レポート」を発表しました。その一連の流れの中で提唱されたのがSDLです。SDLはこれまでのGDLのアンチテーゼとして出されたマーケティング概念です。サービスを顧客との価値共創ととらえ、サービスこそが企業活動の中心にあり、モノはサービスの価値実現の手段の一部として考えるというものです。

福本:GDLの時代は商品の価値を売る側が決め、顧客は商品の対価を支払うことでそれを得て所有するという価値交換が行われていましたが、そうではないという考え方ですね。

高梨:価値交換が重要視されたのがGDLの時代です。いかにいいモノを作るかにこだわり、そのモノを売って対価を得るという、売り切り型のビジネスです。一方、SDLはモノを使って得られる便益や価値、モノが使われている文脈に焦点を合わせます。その便益とは何か、どうすることで顧客はより高い価値を感じるのかを顧客と共創することにポイントを置いた考え方です。価値を共創していくためには、情報共有が重要になります。

製造業のサービタイゼーションと情報共有

福本:今、製造業にサービタイゼーションが求められているのはなぜでしょうか。改めてお聞かせください。

高梨:IoTなどのデジタル技術の普及やインダストリー4.0などの世界的な動きの中で、もはやデジタライゼーション抜きでは今後の製造業は成り立ちません。製造業はモノを作り提供しますが、IoTなどでそのモノが今どのような環境下でどう使われているのか、といった情報が取得できるようになってきました。製造業はこれらの情報を用い、顧客と一緒により良い、より高い価値を作るサービスを提供することが可能になってきたのです。つまり、売り切り型からの転換の素地ができてきた。昨今のIoTなどは製造業のサービタイゼーション、つまり、高付加価値ビジネスへのビジネスチャンスを作りだしているとも言えます。デジタライゼーションの時代に日本の製造業が競争優位を維持していくためには、サービタイゼーションは一つの鍵であり、それへの対応が求められていると思います。

福本:デジタル技術を用い、製品を提供しているメーカーやディーラーなどの顧客はもちろん、その先のエンドユーザーにも情報が見えるようにすることで、お互いに価値を共創できるようになります。ですが、日本の場合、情報共有の敷居が高いような気がします。

高梨:売り切り型のGDLからは、情報共有の発想は出てきません。SDLの思考で顧客やビジネスを見るようにしていくことが重要です。そうすることで、情報共有の敷居が下がり、より良いビジネス環境を継続してつくることができるようになると思います。

福本:サービタイゼーションにおいては、評価制度も変えていく必要がありますよね。例えば今の評価には顧客とどれだけ長く付き合っているかという視点は入っておらず、売上がベースになっています。継続してもらうことで将来的に売上が1億円以上あがるというサービスと、今1億円で売れるモノ、どちらを売った方が評価がよいかというと、1億円のモノを売った方がその営業担当者の評価は高くなるわけです。

高梨:評価の仕方を変えることはとても重要なことです。評価を通じて人の価値観や行動が変わるからです。誰でも組織から高い評価を得たい。高い評価を得るためには評価基準をクリアする必要がある。けれども、評価基準が従来のモノを売ることのままでは、サービス化に焦点は向きません。提供したモノがライフライクルを通して、顧客にどのような価値を実現しているのかをきちんと把握して、適宜必要なサービスを提供していく。そしてそれを評価する。顧客がビジネスプロセスの様々な局面で直面する課題に対してソリューションを一緒に考えていく形へと変革していくためには、組織や評価制度を変えていかないといけないと思います。

福本:新しいビジネスづくりを共に考えていくという姿勢も求められていくのでしょうね。

高梨:当然、そういうことも求められると思います。例えば、蓄積した情報は多重利用が可能で、同じ情報がビジネスプロセスの改善にも、様々な新しいビジネスの展開にも利用することができます。さらに、情報を組み合わせることも可能です。これからのコトづくりの時代には、情報の重要性がますます増していくと思います。

執筆:中村 仁美
撮影:鎌田 健志
高梨 千賀子 氏 写真
高梨 千賀子 氏

立命館アジア太平洋大学 国際経営学部 准教授

2007年3月、一橋大学大学院で博士号(商学)取得。立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科にて2018年3月まで10年間教鞭をとり、2018年4月より立命館アジア太平洋大学(APU)へ。専門分野は国際標準化戦略、知財戦略、IoT時代の製造業のビジネスモデル・競争戦略等。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2020年2月現在のものです。

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