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DiGiTAL CONVENTiON

新たな時代へと音楽を進化させたバッハのようなプラットフォーマーを目指す(後編)

経営, イノベーション
2019年9月30日

昨年、東芝グループのデジタルトランスフォーメーション事業戦略を拡大すべく、東芝の最高デジタル責任者(CDO)に就任した、執行役常務 島田太郎。同社が目指すのは世界有数のCPS(Cyber Physical System)テクノロジー企業。その実現のため、同社は「Toshiba IoT Reference Architecture(TIRA)」を策定した。このTIRAを活用することで、さまざまな領域でエコシステムを構築し、デジタルトランスフォーメーションを推進している。どの領域でどのような取り組みを考えているのか、話を聞いた。

島田 太郎 写真
株式会社 東芝 最高デジタル責任者
(CDO)執行役常務 島田 太郎

孫子の兵法「兵は詭道なり」では最終的な勝者になれない

「東芝は世界に通用するプラットフォーマーを目指しています。それを実現できる可能性は十分あるのです」と力強く語る島田。その根拠となるビジネス戦略について、孫子の兵法を引合いに出しながら語る。

「孫子の兵法にある、『算多きは勝ち、数少なきは勝たず』は数的有利な状態であれば攻めても勝てるということ。攻撃三倍の法則とよくいわれるように、マーケットシェアが強いものが一番強いということです。だから、マーケットシェアが一番でなければ、急速に利益率を上げることはできない。また、『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』は、敵と自分の両方を知れば、無敵になるということです。そして『兵は詭道なり』の詭道とは相手が考えもしないようなことをすること。非常に大きな敵がいても分散させて薄いところを突けば勝てるといっているわけです。鵯越(ひよどりごえ)の逆落としや桶狭間の戦いがまさにこれです。

日本企業は『兵は詭道なり』のような戦い方を好みますが、局地的に勝てても最終的に勝てるかどうかはわかりません。ビジネス戦略としては数で攻めることが重要ですが、敵と同じことをやっていては数の論理で負けてしまいます。ですから、自分たちが勝てそうなところ、強いところは何かを考え、そしてそれをスケールさせることが重要だと思います」(島田)。

ユヴァル・ノア・ハラリ著の『サピエンス全史』には、人類繁栄を加速するスケールエフェクトの重要な柱は、概念、処理(プロセッサー)、データの3つであると述べられている。
「東芝には概念としてのTIRAがあり、世界でナンバーワンのマーケットシェアを持つPOSやAI処理用のプロセッサーなどもあります。それらを活用して、現実世界の人や物の動きに関するデータの収集が可能です。それがポテンシャルとなって、新しいビジネスプラットフォームが実現されていく可能性があるのです」(島田)。

TIRAを活用したネットワーク効果を生み出す取り組み

TIRAを活用し、ネットワーク効果を生み出そうとする取り組みも始まっている。ビジネスモデルごとに異なってくると前置きした上で、島田は次のように語る。

「例えば、POSそのものは納品してしまえば、継続してお金を生むことはありません。しかしそのデータをマーケティングに活用すれば、継続してお金を生むことができる可能性があります。それには、例えばGoogleのように、無料で配るものがある一方で広告で利益を得るような、サブサイドとマネーサイドの視点でデータを活用するプラットフォームが必要です。それを自分たちで作るのではなく、すでにプラットフォーム化している企業と組めばよいのです。異業種と思われるようなビジネスパートナーをエコシステムの中に取り込み、つながることができれば、新しいビジネスモデルを生み出すことができます。ネットワーク効果を効かせられれば、経済的に数を増やすことができ、孫子の兵法の『算多きは勝ち、数少なきは勝たず』に準ずるのです」(島田)。

このような視点で考えていくことで、東芝グループが持つポテンシャルを生かして、ビジネスモデルを転換していくことができると島田はいう。先の例はマーケティング領域の話だが、このような今までとはまったく異なる形態のエコシステムは、エネルギーやインフラ、金融などあらゆる領域で実現可能だという。
「エネルギーの領域では、需給のマッチングがカギを握ると思うのです」と島田。例えば、ジェレミー・リフキン著の「限界費用ゼロ社会」には、再生可能エネルギーが普及し、IoTが発展すると、モノやサービスが追加される際に必要となる電力生産の限界費用が限りなくゼロに近づき、将来的にはモノやサービスが無料になるとある。「そういう無料の世界では、Peer to Peerで余っているエネルギーを足りないところとうまくぶつけるマッチングが重要になるのです」と島田。

そして、このマッチング技術を東芝グループはすでに持っている。例えば電力系統監視制御システムなどはその一例だ。「プラットフォームもTIRAと東芝の技術力を持ってすれば、容易に構築することができます。あと足りないのはビジネスモデル、そしてPeer to Peerのマッチングでは、需要側と消費側をどうつくり出していくか、組み込んでいけるかが非常に重要です。これも事業部門単体で考えるのではなく、東芝全体で考えることで実現できると思います」(島田)。

多企業の機器とデータをマッチングするプラットフォームの実現

島田 太郎 写真2

すでにネットワーク効果やエコシステム化の取り組みのひとつとして、商用化しているプラットフォームもある。それが「ifLink」だ。

ifLinkは、IF(もし~ならば)THEN(~する)という形式でモノの連携ができるプラットフォームで、IoTシステムとしてのモノとインターネットのつなぎ方、モノからのデータ収集、モノの制御などの設定変更や調整が、プログラミングレスで簡単にできるのが特徴だ。
「例えば人が近づいたらロボットが話したり、残量が減ったら自動的に発注される、というようなサービスを容易かつ自在に作れるようになります。高度な技術を使っているわけではありませんが、普及させるだけの十分な簡便さがあります」(島田)。

「東芝は機器は提供しませんが、さまざまな機器、異なるメーカーの機器どうしをマッチングするプラットフォームをオープンにして提供するのです。もちろん、ifLinkにのせるためのモジュールを作って提供するサービスを用意してもよいと思います。こうすることで、プラットフォームも普及するし、マネタイズもできるようになります。ifLinkには、他企業の機器と東芝の技術をつないで新たなビジネスモデルを創りだす可能性が秘められているのです。」(島田)

バッハのように美しい音楽を生み出すプラットフォームを創り、美しく奏でよ

モノを売りたいメーカーなどは、「この行動にはどういう意味があるのか」、「どういうモノを求めているのか」などユーザーの行動の起点の分析を行っている。だがこのような人に関する情報はあくまでも個人のものである。「個人のデータだからこそ、個人の利便性を損なうような使われ方は絶対にされないようにしなければならないのです。だからバッハのように、さまざまな要素を組み合わせて美しい音楽を生み出すプラットフォームを持つだけでなく、その利用方法も美しくなければならないと思います。時代を先んじた人たちだけが莫大に利益を得て、独占する世界ではなく、私たちは人々が皆一様に素晴らしい生活を送れるようなコミュニティ型のプラットフォームを目指していく。それが東芝のデジタルトランスフォーメーションであり、CPS戦略なのです」(島田)。

執筆:中村 仁美
撮影:鎌田 健志
  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年9月現在のものです。

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