加速する、サービスビジネスへの変革。東芝が拓く「共創イノベーション」最前線

結集力と共創で拡がる新たなサービスビジネス/野村 茂生

社会の価値観やライフスタイルが多様化し、テクノロジーが急速に進化する中、企業がIoT(株式会社東芝) を導入する目的は、製品やサービスの価値向上、新たなビジネスの創造へと進んでいます。東芝のインダストリアルICTソリューション社では、東芝グループ、さらにはお客さま企業と戦略・構想段階から一体となって新規事業を創出していく「共創」を推進。「システム開発」から「サービス開発」へのシフトを進めながら、IoT(株式会社東芝) の技術とノウハウを最大限に生かして、これまでにない「うれしさ」や「感動」を届けるサービスビジネスの創造に挑戦しています。

経験価値の視点からIoTの力でサービスビジネスを共に創り出す

 世界の産業構造が、急速に変わり始めています。ただ製品を作って販売するのではなく、クラウドやビッグデータを活用しながら魅力的な付加価値を提供するサービスビジネスモデルへの変革です。

 お客さまが得たいのは、製品自体の所有価値ではありません。求められているのは、高い性能や機能性だけではなく、製品を利用することで得られる「使ってうれしい」「思いのまま使える」といった経験価値(UX※1)です。

 モノのインターネットであるIoT(株式会社東芝) ※2は、これらを実現する上で極めて重要な技術です。センシングによりモノの状態を把握、制御し、得られるデータを分析。それに周囲やクラウドから得られるデータを合わせてビッグデータ分析することで、多様なニーズを捉えたより質の高い経験価値を提供することを可能にします。

 東芝の東芝デジタルソリューションズ株式会社(以下、当社)ではこれまで、現場でのエッジソリューションからメディアインテリジェンス、アプリケーションまでを包括したさまざまなソリューションを提供してきました。しかし、人々や社会の価値観がめまぐるしく変化する今、受託型のシステム開発にとらわれていては、お客さまの多様な課題を真に解決することはできません。日進月歩のテクノロジーや次々と顕在化する社会問題に対応しながら、一企業、一組織だけで価値を創造し続けるのは非常に困難な時代です。

 そこで当社では、東芝グループの技術やノウハウを結集して、お客さまやパートナーと一緒になって、戦略や構想の段階から、新たな事業やサービスを「共創」していく取り組みを本格化。利害関係を超えてお互いが知恵と技術を出し合い、新たな価値創造の芽を見いだしビジネスモデルから共に創り上げています。独創によるシステムの開発から、共創による「サービスの開発」へ。いま大きなシフトチェンジが始まっています。

  • ※1 UX:User Experience(顧客の経験価値)
  • ※2 IoT:Internet of Things (モノのインターネット)

共創の専門チームを新設
お客さまや東芝グループとの新規事業創出を牽引

 共創の実現に向けて、当社ではまず大きな組織変革に取り組みました。

 2015年4月に、お客さまや東芝グループの事業部門と連携したサービスビジネスの創出と、そのためのIoT基盤の開発を行う事業開発室を組織しました。そして2016年4月に、このIoT&メディアインテリジェンス事業開発室の中に、IoTビジネスコンサルティング担当グループを新設。お客さまや東芝グループとの共創を目指して、新しいビジネスモデルやサービス事業を創出するときに直面する、さまざまな課題を共有し解決するためのコンサルティングを行っています。

図1 クロスファンクショナルチーム

 この事業開発室は、技術者や開発者はもちろん、コンサルタント、UXデザイナーなどさまざまな専門家のユニークな組み合わせからなる共創のプロフェッショナル集団です。メンバーの中には、さまざまな産業分野においてお客さまのビジネスの現場を熟知している東芝グループ各社に駐在する者も多く、「システム開発」はもちろん、上流の「事業計画」「サービス設計」から下流の「システム運用」「サービス運用」に至る一連のプロセスの適材適所に参画。プロデューサー、コンサルタント、エンジニア、デザイナーなど多様な経験とスキルを持ったメンバーで構成されるクロスファンクショナルチームの一員として、各自の専門分野を生かしながら、新規事業の創出からサービスシステムの構築・運用までを支えています(図1)。

 プロジェクトがスタートするとメンバーはまず、社会環境や市場動向から課題を見いだし、ビジョンを共有。ターゲットを絞り込み、事業計画を策定し、サービスやビジネスモデルの策定と検証を行います。仮説を立ててシミュレーションを行いながら、収益性に見込みをつけ、実現可能なビジネスモデルを創り上げていきます。その際、幅広い領域で事業を展開する東芝グループの技術やソリューションの中から最適なものを見いだし、さらには社外やパートナーのソリューションも組み合わせて有効性を検証するのも大切なミッションです。ソリューションありきの事業検討とは、大きく異なるアプローチです。

 当社ではこれらプロセスを強力に推進するために、活発な議論や迅速な合意形成をサポートする多種多様なツールを体系化しています。UXデザインを用いた新規事業の立ち上げ手法の開発にも取り組み、メンバーはこれらを実際に活用しながら、お客さまへの経験価値の提供を目指しています。

 しかし、これらプロセスにおいて最も重要な鍵を握るのは、計画したビジネスモデルの確かな実現と、スムーズに仮説を検証するための基盤技術の有無、そしてそれらの質であることは言うまでもありません。幅広い産業分野と事業領域において実績を積み重ねてきた当社は、その点においても一日の長があります。

共創基盤としての東芝IoTアーキテクチャー"SPINEX"
クラウドサービスによるスピード導入も支援

図2 IoTアーキテクチャー"SPINEXの図"

 2015年、当社では豊富なICTのノウハウに、エッジコンピューティングやメディアインテリジェンス、ビッグデータ分析といった最先端のIoTテクノロジーを結集。さらに課金・決済やアセット管理など、多彩なサービス機能を加えて、東芝独自のIoTアーキテクチャー "SPINEX"を整備しました(図2)。

 SPINEXは、遠隔監視による故障検知やエネルギーマネジメント、工場の歩留まり向上を目的としたシステムなどに欠かせない、機器のネットワーク接続からデータの収集、蓄積・分析、活用までをトータルに提供するIoTの共通基盤です。これを活用すれば、ネットワークの接続性やセキュリティを高度に担保した上で、必要なアプリケーションを柔軟に開発しながら、さまざまなIoTの仕組みを実装したサービスを迅速に実現することができます。また、試行と実践を繰り返しながら臨機応変にビジネスモデルの最適解を求めていく、より効率的なプロセスも可能になります。

 2016年7月には、SPINEXを活用したサービスを、スピーディーかつ低コストで整備できる画期的なクラウドサービス「IoTスタンダードパック」の提供も開始しました。通常、IoT(株式会社東芝) を導入する際、デバイスに関する綿密な事前準備と現地での入念なエンジニアリング作業が必要になります。これに対してIoTスタンダードパックは、センサーなどを設置する装置の種別や属性情報、インターフェース、データ種別の情報などをテンプレート化して準備し、導入作業を大幅に簡素化。現場での「プラグ&プレイ機能※3」によって、装置とエッジゲートウェイをつなぐだけで接続が完了するため、機器や設備の見える化と遠隔監視を開始するまでの時間を大幅に短縮します。

 さらに、ビッグデータを活用した故障予知やお客さまとの共創によるさまざまなIoT(株式会社東芝) サービスなどが迅速に拡張できるようになります。

 また”新たなビジネス価値をお客さまと共創する場”として「eXtream Design Studio(XDS)」を開設し、米国Pivotal社の手法に当社のノウハウを加えたアジャイル開発サービスを提供。実用最小限の製品(MVP※4)の開発と検証を繰り返し実施してPoC※5を重ねるなど、共創を加速する多彩なサービスで数多くのプロジェクトを支えています。

 共創によるサービスビジネスの創出へのチャレンジはまだ始まったばかりです。栗田工業株式会社様との共創によるUXデザインを活用した水処理管理サービス、株式会社アマナ様との共創による当社の音声・映像活用クラウドAIサービス「RECAIUS(リカイアス)」を活用した合成音声ナレーションサービス、そしてアルパイン株式会社様との共創による産業用ドローンを活用した電力インフラ向け巡視・点検システムなど、さまざまな事例が今まさに広がり始めています。

 お客さまにとって最良の共創パートナーを目指し、今後もこれまで培ってきたIoT(株式会社東芝) の技術と幅広い業種での知見を最大限に生かしながら、さらなる取り組みを進めていきます。

  • ※3 プラグ&プレイ機能:機器や装置をネットワークに接続したときに、自動的にIoT基盤に機器や装置を登録すること
  • ※4 MVP:Minimum Viable Product
  • ※5 PoC:Proof of Concept

共創で加速する、
ビル・施設ソリューションのサービス化

[写真] 佐藤 周

株式会社東芝
インフラシステムソリューション社
ビル・施設ソリューション事業部
事業部長
佐藤 周
- Shu Sato -

 社会・産業インフラやビル・施設へのソリューションを通じて、安全・安心な持続可能社会の実現を担う東芝インフラシステムソリューション社は、東芝デジタルソリューションズ株式会社との共創をスタート。各種ビル・施設における保守管理作業の高品質化と効率化を支援するために、クラウド上に構築したビル統合管理プラットフォームに最先端のIoT※1技術を連動させ、これまでにないサービスビジネスの創出に取り組んでいます。

使命は、ビルの快適さと省エネルギーを縁の下で支えること

 ビルのオーナー様や管理会社様には、建物の効率的な管理に加え、時代のニーズに応じて管理対象となるビルの機能を向上させることが求められています。中でも、東日本大震災を契機に高まった、省エネルギーの推進や事業継続計画(BCP※2)への対応を強化するためのエネルギー利用の最適化は、大きな課題となっています。

 東芝のインフラシステムソリューション社はこれまで、社会・産業インフラの安全・安心を支える多様なシステムとともに、幅広いファシリティーに対応するトータルなビル・施設ソリューションを、不動産や銀行、データセンター、流通など多岐にわたる業界のお客さまに提供してきました。IoT技術と連動させたスマートBEMS※3では、人間の温熱感覚を用いた快適指数(PMV※4値)に基づくフレキシブルな空調制御、カメラで捉えた人の動きに合わせたインテリジェンスな照明制御やエレベーターの配車制御を実現。災害時には、限りあるエネルギーを効率よく活用してビル機能の維持を図るなど、そこで暮らし、働く人が意識しないところでビルの快適さと省エネルギーを支えてきました。

 一方、多くのビル管理会社様は現在、新築市場の頭打ちや人材不足といった深刻な課題を抱えています。これに対応するため、日常の維持や診断、補修、修繕など、ビルや施設のライフサイクル全般にわたる管理作業の効率化が求められています。

ビル管理会社様の課題解決に新たなサービス創出を目指す

 こうしたニーズに応えるため、これまでインフラシステムソリューション社が培ってきたビル・施設ソリューションに、東芝デジタルソリューションズ株式会社が持つ先進のIoT技術を融合させて、ビル管理会社様の課題を解決しようという、共創による新たなファシリティーサービスの創出に取り組んでいます。その第一弾として、クラウド上に構築したビル統合管理プラットフォームに、制御システムや遠隔監視システムなどから集めた膨大なビルの管理データを蓄積。ビッグデータ解析を行い、設備や機器の予防保全の高度化や省エネルギー化に貢献する画期的なサービスの実現を目指しています。メディアインテリジェンス技術を活用した、現場の音声をテキスト化する機能により、作業報告書の作成や、過去の出来事の検索、分析を容易に行えることで、少人数のビル管理スタッフでも業務品質を維持しながら、作業効率の向上につなげることもできます。

 今回の共創には、東芝デジタルソリューションズ株式会社のほか、実際にシステムを使っていただくビル管理会社様もメンバーに加わっています。ビルを管理する現場の生の声やリアルな課題を三者で共有できたことは、ビルソリューションのサービス化を進める上で非常に有意義で、引き続きビル管理会社様の課題解決に向けたサービス実現のために協調、連携していきます。今後も従来のソリューションに磨きをかけると同時に、グループ内外の連携を深め、最先端技術、知恵を積極的に取り入れることで、重要な社会基盤であるビルを支えるお客さまに、より価値ある新しいソリューションサービスを提供していきたいと考えています。

  • ※1 IoT:Internet of Things(モノのインターネット)
  • ※2 BCP:Business Continuity Plan
  • ※3 BEMS:Building Energy Management System(ビルエネルギー管理システム)
  • ※4 PMV:Predicted Mean Vote
お問い合わせ
東芝デジタルソリューションズ株式会社
電子メール
e-mail:tdsl-infoweb@ml.toshiba.co.jp
FAX
044-548-9522
所在地
〒212-8585 神奈川県川崎市幸区堀川町72番地34