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お客さまインタビュー

ビッグデータに基づく科学的な分析で
先進的な地域包括ケア「地域マネジメント」を推進する品川区の取り組み

カンパニー:品川区 × ソリューション:地域包括ケア“地域マネジメント”支援ソリューション「ALWAYS-ICC」

 介護保険事業の先進的な取り組みを行っている自治体の1つである東京都品川区では、要介護認定データや介護給付実績データ(介護レセプト)、そして世帯構成等を含めた小地域ごとのデータを組合せて分析することで、日常生活圏域単位での地域特性を把握しながら、要介護度改善に寄与する施策に関する分析を進めている。この分析にあたって、東芝デジタルソリューションズ(以下、東芝)が提供している地域包括ケア「地域マネジメント」支援ソリューション「ALWAYS-ICC(※)」が、品川区が設定する小地域ごとの詳細な情報を可視化する基盤として採用された。

(※)ICCは、Integrated Community Care(地域包括ケア)の略称

品川区では、介護施設におけるサービスの質の向上に向けて、独自の施策として要介護度改善ケア奨励事業を実施しており、施設に対してインセンティブを付与する活動を行っている。
その指標は、客観性とわかりやすさから入所者の要介護度の変化に着目しているものであるが、要介護度の改善に向けた科学的なアプローチなど詳細分析に課題が残っていた。
また、日常生活圏域(小地域)における高齢者の状況や介護事業所等の基盤を踏まえたサービスの需給状況等を可視化し、これに基づく有効な施策づくりにおいても基礎情報が求められていた。

高齢者ごとに要介護認定データや介護給付実績データ、介護保険資格データなど各種データを突合することで、施設別あるいは小地域別に要介護度の改善状況やサービス需給などが詳細に分析、可視化できるようになった。
分析基盤を整備したことにより、品川区における日常生活圏域単位での特性の把握と施設や在宅の介護サービス基盤の情報整理を実現した。
また、次の展開として、これらの詳細な情報を介護事業者と共有したり、さらに本人や介護者家族へ必要な提供をすることによりケアの方向性の統一・充実への見通しが立つものと期待される。

導入の背景

介護施設の評価へ積極的に取り組む品川区

 2000年より始まった介護保険制度以前から「できる限り住み慣れた我が家で暮らす」を高齢者介護の在り方として定めてきた東京都品川区。
 品川区福祉部 高齢者福祉課による統括在宅介護支援センター・地域包括支援センターを中心に、コミュニティ単位として古くから存在する13地域に、20の在宅介護支援センターを設置し、同センターを核とした高齢者への自立支援やその家族に対する相談、ケアマネジメントの体制を整備している。
 また、2017年度に行政窓口である13地域センター内に区社会福祉協議会と協働した生活支援コーディネーターを配置した「支え愛・ほっとステーション」を展開し、在宅介護支援センターと両輪で地域包括ケアシステムの強化を図っている。
 区内に設置されている各相談場所で行われた相談内容等は、ネットワークシステムによって一元管理・共有され、高齢者へのきめ細やかな支援が可能な体制を整備している点が特長だ。
 そんな品川区の取り組みは、現在国が推し進める地域包括ケアシステムのモデルとなるなど、地域に根差した高齢者福祉に関する先進的な自治体として全国からも注目される存在となっている。

永尾 文子 氏

品川区福祉部
福祉部長

永尾 文子氏

 品川区では、介護・障害者施設サービスの評価・向上に積極的に取り組んでおり、国が行う介護サービス情報の公表や東京都が行う福祉サービス第三者評価だけでなく、2003年より区内施設が自主的に運営する「品川区施設サービス向上研究会」においてセルフチェックを実施しており、区がその活動を支援している状況だ。
 「セルフチェックの項目は、施設長と区で毎年協議しながら決定し、その結果を報告書として取りまとめています。この報告書は委員会メンバー全員さらには運営法人に共有され、それぞれの施設で改善に向けたPDCAを実施し、総括していくことで施設のサービス向上に努めています」と品川区福祉部 部長 永尾 文子氏は施設サービスの評価における取り組みについて説明する。

導入の経緯

要介護度の改善に資する活動への科学的なアプローチが必要に

 なかでも施設におけるサービスの質向上への積極的な取り組みを評価すべく、品川区では独自施策として品川区要介護度改善ケア奨励事業を実施しており、入所(居)者の要介護度が改善された場合には、1人当たり月額数万円の奨励金を支給する活動を展開している。
 「要介護度の改善に至る取組み・サービスの質を評価することで施設職員の意欲向上を図り、質の高いサービスが継続して行われることを推進する目的から始めた制度です。高齢者個人の視点に立って、介護の質向上に資する活動に対してインセンティブを付与しています」と永尾氏は区独自の制度について説明する。

 この介護サービスの質の評価については、自治体の枠を超えた形の活動も行っている。その一例が、2015年に岡山市の働きかけによって立ち上がった「介護サービス質の評価先行自治体検討協議会」で、先進的な活動を行う7自治体の1つとして品川区もこの協議会に当初から参加した。
 心身状況の改善状況に応じて介護サービス事業者へインセンティブを付与する自治体の取り組みを共有し、持続可能な介護保険制度に向けた国への政策提言も実施している状況にある。

高桑 春彦 氏

品川区福祉部
高齢者福祉課 支援調整係長

高桑 春彦氏

 この取り組みの課題の一つは、個々の入所者の状況をふまえた要介護度の改善に資する活動の科学的なアプローチだった。「“ベッドに寝かせたままにしないよう働きかけた”“声掛けを頻繁に行った”など、要介護度の改善に向けた主観的な活動報告が多く、要介護度の改善には具体的にどうすればいいのか、何が本当に改善に寄与したのかを科学的に分析していかないと次に生かすことは難しいと考えたのです」と永尾氏。

 実は、介護保険を所管する厚生労働省も、要介護度の改善に寄与する具体的な活動について関心を寄せていたという。
 「要介護度だけではない、ビッグデータに基づく科学的な分析を行うことで、さらなる有益な政策提言につなげたいと考えました」と同部 高齢者福祉課 支援調整係長 高桑 春彦氏は説明する。

導入のポイント

先行自治体のノウハウが活かせる点と拡張性

 「介護サービスの質の可視化に関しては、すでに川崎市様で先行していたデータ分析(事業者インセンティブ事業~川崎市健幸福寿プロジェクト)の成果事例があり、そのノウハウを活用できることは貴重で、効率的に分析が行えると考えました。また、どのような分析手法であっても、可能な限り、いつでも現状が把握でき、単なる分析結果を出すことで終わるのでなく、その結果を踏まえて具体的かつ効果的なアクションが取れる仕組みが整備できることが望ましい」と高桑氏は語る。
 そこで先行する自治体事例としてのノウハウを生かしながら介護事業所自身が改善に向けたPDCAを実施できる環境が望ましく、そのための基盤として現場の実情に適した地域マネジメントが可能になることに期待を寄せている。
 基盤づくりの第一歩として、事業所や小地域ごとの現状を可視化するプロジェクトがスタートした。

期待される効果

事業所や高齢者家族、自治体それぞれにメリットをもたらす

 現在は、要介護認定データや介護給付実績データ、介護保険資格データなど高齢者ごとに各種データを突合し、事業所ごとの要介護度の悪化や改善状況を的確に把握したうえで、品川区が管理単位としている小地域、いわゆる日常生活圏域ごとに分析を実施。
 品川区内の事業所ごとや小地域ごとに、要介護度の改善状況やサービス需給などが詳細に分析、可視化できるようになる。
 この結果、高齢者統合データベースの実現による地域包括ケア「地域マネジメント」ツールが獲得でき、過去10年の高齢者の心身状態や利用サービスの追跡・分析による事業所別サービスの質の可視化や、小地域別の高齢者実態把握やサービス需給分析などが可能になった。

 今回の分析では、事業者はもちろん、高齢者本人・家族や自治体それぞれにメリットが出てくると永尾氏は説明する。
 「実データに基づいた分析が可能となり、さらなる改善活動に役立つ情報が入手しやすくなります。他の事例を参考にしてもらうことで、これまで以上に自主的な改善活動が進んでいくことが期待できます。また、ケアマネジャーにとってみても、サービスや福祉用具の最適な組み合わせだけでなく、将来は症状と服薬の関係などが効率的に把握できるようになり、経験の浅いケアマネジャーでも活用可能なケアマネジメントの標準化に寄与する情報が入手しやすくなるのは大きなメリットになる」と永尾氏。
 さらに、高齢者本人・家族にも、根拠としてデータに基づく活動を示すことで納得してもらいやすくなり、在宅でのケアにもいい効果をもたらすことになると期待されている。

 もちろん、品川区にとっても大きな効果が期待されている。実際に品川区のなかでも、例えば大規模団地への入居者の多くが高齢世代に入った八潮地区と、再開発が進んで若い世代が流入している大崎地区では高齢化率も大きく異なり、それぞれ打つべき施策も異なってくる。
 「街づくり自体が地域によって特色があり、構成自体が大きく変わりつつあります。地域ごとの特色を把握できれば、施設の整備や事業所の最適な配置が可能になり、次の一手につながる方針づくりの基礎データとして活用できます。効率的な保険料の活用につながりますし、長い目で見ればいい影響がいろんなところに波及してくるはずです」と永尾氏は期待を寄せている。
 つまり、日常生活圏域などの小地域別に各サービスの需要供給状況が可視化できるようになり、これまで困難だった小地域ごとの高齢者状態像を考慮したきめの細かい介護サービス基盤の整備が可能になるわけだ。
 また、介護サービス事業所ごとの多種多様な心身状態の改善率や悪化までの平均維持期間の算出といった介護サービスに関する質の可視化により、自立支援・重度化防止に向けての具体的施策立案が可能になることも大きな効果の1つに挙げている。

 得られた分析結果は、国への政策提言を進めている介護サービスの質の評価先行自治体検討協議会でも役立つものになるはずだと力説する。
 「データ分析そのものは長い間続けられており、サービスの質を表す指標も要介護度を使うべきかどうかなど議論は常に行われています。そんな状況だからこそ、品川区としても第一ステップとしてデータ分析することで、そこから見えてくるものをはっきりさせ、協議会の中でも共有していきたい。各自治体とも悩んでいますが、データがないと次の一歩が進めない状況にあるのは間違いありません」と永尾氏。

将来展望

将来展望:医療データも含めながら分析の幅を広げたい

 今回分析を通して「行政的な視点はもちろん、区民・生活者の視点にも配慮した分析に期待しています。この結果も生かし、第8期の計画につなげていきたいと考えています」と高桑氏。
 将来的には現在の分析に医療系の情報を突合させるなど、分析の幅が広がる可能性に期待する。

 一方、国でも保険者機能の抜本強化を図るべく、データに基づく課題分析と対応をはじめ、適切な指標による実績評価、そして財政的インセンティブの付与などを制度化する取り組み(保険者機能強化推進交付金の創設)が行われている。
 「現在行われている指標による保険者の評価も、今後はさらに厳しいものになっていくはずです。そんな時でも、確かなエビデンスが提示できるよう、分析にあたっては、各指標に対してしっかり評価してもらえる内容となるよう議論していきたいと思います。ただし、実際に行ったことで「介護予防につながった」「自立支援に大きく貢献した」などというその成果が本来の意味であり、自立支援に向けた方向性を示せることが今回のプロジェクトにおいて真価が問われるポイントなのです」と永尾氏は力説する。

SOLTION FOCUS

地域包括ケア「地域マネジメント」支援ソリューション「ALWAYS-ICC」

 「保険者機能強化」及び「地域包括ケアの地域マネジメントPDCA業務」のさまざまな課題をモデル自治体様の高齢者統合DB利活用による先行実績を踏まえ解決します。
 高齢者の全ライフステージをカバーする4事業(データヘルス、総合、介護、医介連携)の目標達成に向け、小地域別サービス需給分析、サービスの質の可視化、費用対効果推計・検証、保険者インセンティブ制度対応等の新たな業務を支援。
 東芝は今後も、地域包括ケア事業における先進的な取り組みを支え、最終的に、健康寿命の延伸、医療・介護給付費等の適正化(抑制)、さらには持続的な社会保障システムの実現に貢献します。 

この記事の内容は2018年9月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、組織名、役職などは取材時のものです。

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