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お客さまインタビュー

視覚障がい者用の録音図書の製作にRECAIUS音訳エディタ(DaisyRings)が活躍

カンパニー:株式会社図書館流通センター・新宿区立戸山図書館×ソリューション:コミュニケーションAI「RECAIUS音訳エディタ(DaisyRings)」
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 視覚障がい者サービスが充実している新宿区立戸山図書館では図書館流通センター(以下TRC)を指定業者として、2016年4月に東芝デジタルソリューションズ(以下、東芝)のコミュケーションAI「RECAIUS音訳エディタ(DaisyRings)」を試行的に導入。新書や法律書、医学書、実用書などをテキスト化して、RECAIUSで音訳し、視覚障がい者向けに提供を開始した。また「新宿区声の図書館だより」や、録音図書・新着CDなどを知らせる目録の製作、ラジオ日本から音源が提供される「わたしの図書室」の定型文データにも活用している。戸山図書館では読書支援だけでなく、視覚障がい者向けの区報や行政からのお知らせ、文字の認識が困難なディスレクシアのような学習障がいの人向けのマルチメディアDAISY図書などの作成にRECAIUSを活用して行きたいと考えている。

地域公共図書館としては珍しい、視覚障がい者向けの録音図書づくりを手がけてきたが、人による音訳では1冊の製作に最速でも3ヶ月ほどかかり、年60タイトルが限界だった。そこで、テキスト化した本をデジタル録音図書の国際標準であるDAISY化する方法を模索していた。

RECAIUS音訳エディタ(DaisyRings)を導入することで、音訳が自動化され、新書や実用書、自己啓発書などの音訳が容易にできるようになった。RECAIUSの音訳が適しているジャンルが明確になったことから、視覚障がい者向けの図書館からの便り、録音図書やCDの目録などの作成にフル活用している。

背景

製作時間の短縮による、録音図書タイトル数の拡大を模索

大城 澄子 氏

新宿区立戸山図書館 
館長

大城 澄子 氏

 昭和55年に開館した新宿区立戸山図書館では、視覚障がい者サービスの拠点館として、録音図書(音訳本)の作成や貸し出し、対面朗読サービス、大活字本の収集などを行っている。同館が立地する戸山地域には東京都心身障害者福祉センターや日本障害者リハビリテーション協会、ヘレンケラー協会など、視覚障がい者向けの施設や、日本点字図書館などが近くにあるため、新宿区は区内に11ヶ所ある図書館の中でも、戸山図書館を拠点として位置づけている。

 戸山図書館の視覚障がい者向けサービスの利用登録者は110名ほど。図書館では利用者の方たちからリクエストが来ると、全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)が運営する音訳本や点字図書のデータベース(サピエ:視覚障害者情報総合ネットワーク)を確認し、録音図書がある場合は利用者に提供、ない場合には録音図書を製作する。戸山図書館では9年ほど前から、毎年60タイトルもの録音図書を製作している。

 戸山図書館では42人の音訳ボランティアが、録音図書の製作を行っている。「60タイトルというのは大変な量です。小説を1冊読み上げるのに9時間から13時間かかり、その前に本を読み込んで、固有名詞や個人名などの読み方やイントネーションを詳細に調べなければなりません。それで1冊3ヶ月はかかりますが、それでも大変速いと言われていて、通常は6ヶ月、国会図書館の場合、セレクトから承認、製作、完成までのステップで2-3年かかります。一方で、リクエストする利用者は発売された本をすぐにでも読みたいわけですから、そんなに待てません。そのようなこともあり本が刊行されたらすぐに音訳できるようにしたいと、以前から考えていたのです」と新宿区立戸山図書館 館長 大城 澄子氏は語る。

 従来、戸山図書館を指定管理者として運営しているTRCでは、録音図書の早期刊行のためにさまざまな努力を続けてきた。その中で、まずはテキスト化できれば、カセットに代わって、視覚障がい者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のためのデジタル録音図書の国際標準として普及してきたDAISY(Digital Accessible Information System)化も容易になり、汎用性も非常に高くなると考えていた。

導入の経緯

読者が違和感を持たない録音図書製作を実現

 TRCが書籍のテキスト化を模索していた2015年、東芝の営業担当者が訪れ、コミュニケーションAI「RECAIUS音訳エディタ(DaisyRings)」のデモンストレーションを行った。RECAIUS 音訳エディタは文字情報を音訳し、質の高い音訳コンテンツの作成が可能なクラウドサービスだ。「デモを見て、クラウドで簡単に使えるという点で、これは使えると思いました。自治体の情報政策、セキュリティ面の問題がありましたので、TRC業務用ネットワークでしか使わないことを新宿区と確認した上で、試しに何冊か音訳してみようということになりました」(大城氏)。

 

 実際の作業は本をバラバラにせずに、開いた状態でスキャンできるスキャナーとOCRソフトを使って、書籍をテキストデータにする。それをRECAIUSで自動的に音訳、読みやアクセントの修正などの編集作業を行って、DAISY図書にする。「最初に試したのは、ひらがなだけの文章が書いてある本でした。音訳者がどのように読んだら良いのかわからず、、、おかしな読み方になった言葉もありました。しかし、他の本を音訳したところ、こちらの本は文字が多く、文章もわかりやすかったので、違和感なく、音訳することができました」(大城氏)。

 その結果を受け、戸山図書館では2016年4月から一部の編集にRECAIUSを使うことを決定。そして、編集も最初は図書館スタッフだけで行っていたが、最近ではボランティアの人たちにも協力してもらい、本格的に活用するようになっている。

導入のポイント

クラウドで使いやすく、英語対応や音声の性別切り替えも可能

谷口 絵莉子 氏

新宿区立戸山図書館
館長補佐 障害者サービス担当

谷口 絵莉子 氏

 RECAIUSを導入した理由は3つ。1つ目はパッケージをインストールする必要がなく、クラウドで使いやすかったこと。2つ目は日本語だけでなく、英語の話者も選ぶことができること。そして3つ目は声を男性と女性から選ぶことができること。実際、資料や参考文献として、英語やドイツ語などの書名がたくさん出てくる本も多い。それを音訳する際、人が読み上げるよりもRECAIUSの方が正確できれいな発音になる。「英語の発音がとてもきれいだったのに、ちょっと驚きました。参考文献がたくさんある本では、とても重宝しています」(大城氏)。

 RECAIUSを使って、音訳に取り組んだ3冊目は500ページほどある作品だった。「OCRにかけてテキスト化し、音訳していきました。図鑑のような本で、植物の写真と成分やデータに加えて、専門用語やアルファベットと日本語が組み合わさっている言葉もありました。修正が必要な部分は編集して修正して、正しい読み方にしました。クラウドなのでソフトがインストールされていないPCでも使うことができて、とても便利でした」と新宿区立戸山図書館 館長補佐 障害者サービス担当 谷口 絵莉子氏は説明する。音訳者は同じ言葉や長い単語を読み上げる時、間違えてしまうこともある。ところがRECAIUSなら同じ言葉は同じ調子で正確に何度でも読み上げることが可能で、間違えても編集で簡単に直すことができる。

 「3冊目を国会図書館へデータアップしましたが、ダウンロード件数がとても多いとの事でした。ですから図鑑のような本は音訳者が読むよりも、RECAIUSで作った方が借りる人が多くなるように思います」(大城氏)。

導入の効果

声の図書館だよりや図書・CD目録作成にもフル活用

 戸山図書館では、こうした経験から、RECAIUSによる音訳に適する分野があると考えている。内容を把握してから読み上げることが必要な小説や詩の本よりも、一定の調子での読み上げで問題のない、新書や医学書、法律書、実用書、自己啓発書、便りやお知らせなどには最適だ。戸山図書館では新しく作成した録音図書や新刊書評、戸山図書館で購入した音楽CDの新着案内、図書館からのお知らせなどをカセットテープ版、もしくはDAISY版で作成した「新宿区声の図書館だより」を隔月で希望者に郵送している。

福田 梓氏

新宿区立戸山図書館
障害者サービス 児童サービス担当

福田 梓 氏

 従来、この製作は4人の音訳者が一日かけて読み上げ、それを直ちにDAISY編集し、図書館スタッフができあがったものをチェックし、発行していた。それをRECAIUSで行うことにして、製作にかかる時間を大幅に短縮することができた。「例えば、図書館だよりは色々な情報を載せるのですが、作業中に追加する情報が出てきたりします。そうすると、追加で音訳をお願いするので、わざわざ来てもらわなければならず、利用者に声のお便りを届ける時間が遅くなってしまいます。それがRECAIUSであれば、音訳者を頼む必要もなく、簡単に追加でき、完成させることができるので、とても助かっています。RECAIUSも最初はうまく読み上げることのできないところもありましたが、1、2回やっている内に編集の仕方も分かってきて、簡単に修正できるので、とても便利です」と新宿区立戸山図書館 障害者サービス・児童サービス担当 福田 梓氏は語る。

南雲 祐子氏

新宿区立戸山図書館

南雲 祐子 氏

 また戸山図書館ではラジオ日本で放送中の朗読番組『わたしの図書室』の放送が終わった後、その音源をDAISY編集し、サピエ図書館などを通して、全国の視覚障がい者に貸し出している。「日本テレビアナウンサーの井田由美さんと声優の羽佐間道夫さんが幅広いジャンルの作品を朗読したものを、録音図書として聞くことができるので、とても人気があります。毎回入る定型的な部分はRECAIUSで音訳して、使っています。それ以外にも年1回、戸山図書館が製作・購入した録音図書や音楽CDの目録を作っていますが、これもRECAIUSに切り替えました。タイトルや著者名などのテキストを音訳していますが、正確な目録を簡単に作ることができます」と新宿区立戸山図書館 障害者サービス担当 南雲 祐子氏は語る。

将来の展望

区報や行政からのお知らせ、ディスレクシア支援まで、さまざまな活用に大きな可能性

集合写真

(左から)大城 澄子氏、谷口 絵莉子氏、福田 梓氏

 戸山図書館では今後、RECAIUSの活用範囲を大きく拡大させることができると考えている。自治体の情報政策に則って、セキュリティを確保しながら、クラウドでRECAIUSを使える環境を作り、読書支援だけでなく、区報や行政からのお知らせなども視覚障がい者向けにスピーディーに出せるような体制を整えていく。

 また、北海道や東北のように雪が多く積もる地域では、冬の間、視覚障がい者が図書館に来るのはむずかしい。それが自宅にいながら、DAISY図書をダウンロードできるようにできれば、来館の必要もなくなり、郵便や宅配便で送らなくても済む。RECAIUSを使ってDAISY図書を作成する図書館が拡大すれば、さまざまなジャンルでDAISY図書が製作され、視覚障がい者が読むことができる本も大きく拡大する。さらに文字の認識が困難なディスレクシアのような学習障がいの人への支援にも有効だ。「ディスレクシア支援で有効とみとめられているのは、図や文字を音声で認識できるようにするマルチメディアDAISYです。教科書はマルチメディアDAISY化(デジタル教科書)が進んでいますが、それ以外にも、問題集や参考書などさまざまな本をRECAIUSでマルチメディアDAISY化できれば、多くの方々にとても役に立つようになると思います」と大城氏は述べる。東芝の技術は今後も快適な図書館の環境づくりに貢献していく。

この記事の内容は2017年10月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における主な数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。

COMPANY PROFILE

名称
株式会社図書館流通センター
設立
1979年12月20日
代表者
代表取締役社長 石井 昭
本社所在地
東京都文京区大塚三丁目1番1号
事業概要
図書館向け図書やデータベースの販売、図書館運営の受託
URL
https://www.trc.co.jp/ 別ウィンドウで開きます
名称
新宿区立戸山図書館
設立
1980年4月26日
代表者
館長 大城 澄子
所在地
東京都新宿区戸山2-11-101
事業概要
所蔵資料の貸出、視覚障がい者等サービス
URL
http://www.city.shinjuku.lg.jp/library/index04.html 別ウィンドウで開きます

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