東芝デジタルソリューションズ株式会社

お客様インタビュー
カンパニー:全日本空輸株式会社
導入の背景

No.1のエアラインを目指して

最新鋭旅客機ボーイング787

最新鋭旅客機ボーイング787

 「たった2機のヘリコプターからの出発。そのささやかなスタートに比べ、私たちの胸はなんと大きな夢を抱えていたことでしょう。いつか、いっぱいのお客様を乗せて、この空を飛びたい…」。そんなナレーションと小型ヘリの映像で始まる2010年秋から放送された全日本空輸(ANA、http://www.ana.co.jp/別ウィンドウで開きます)のテレビコマーシャルは、日本の成長の歩みと重なるところも多く、懐かしさと共感を伴って多くの視聴者に受け入れられたことは記憶に新しい。

 コマーシャルで語られた同社の夢は現実のものとなり、1952年の創業から半世紀の時を経て、年間で延べ4,500万人に利用されるまでに成長を遂げてきた。いよいよこの秋には、全世界に先駆けて最新鋭旅客機ボーイング787の定期便就航も決まり、「新生ANA」として「クオリティで一番」「顧客満足で一番」「価値創造で一番」を目指したサービスの向上と経営改革に日々取り組んでいる。

導入の経緯

安心と信頼の空の旅を支える世界トップレベルのITシステム

蔵本 直樹 氏

IT推進室 開発推進部長

蔵本 直樹 氏

 ANAでは、1970年代から順次IT化を進め、現在は大きく分けて5種類(1. 全便の運航を管理する運航系、2. お客様の予約や決済等を管理する旅客系、3. 整備系、4. 貨物系、5. 社内の情報・管理系)のシステムと、約1万台の業務端末と基幹システムをつなぐ基盤系ゲートウェイシステムが稼動している。「お客様に安心かつ快適なフライトを提供するためにも、昼夜問わず、ITシステムが止まることは許されません。私たちは、世界トップレベルの高い可用性と信頼性を実現したミッションクリティカル(*1)なシステムの構築と運用を進めてきました」と、ITシステムの開発と運用を統括するIT推進室開発推進部長の蔵本直樹氏は述べる。

 同社が業務の拡大とITシステムの拡張を進める上で、大きな役割を担ってきたのが東芝ソリューションだ。その関係の始まりは1987年頃に溯る。東芝グループが培ってきた鉄道向けシステムの経験やメカトロニクス技術を生かしてANAに提案した磁気ストライプ付航空券端末が全国の旅行会社向けに採用されたのがきっかけである。「航空業界では旅行会社に発券端末を置いてもらうところからすでに競争が始まっています。提案された初めての端末は、小規模な店舗にも十分置けるほど小型で、そういう技術を持っているのであれば、とお付き合いが始まりました」(蔵本氏)。
(*1 ミッションクリティカル/業務やサービスの運用に必要不可欠な高性能コンピューターシステムにおいて、障害や誤作動が許されないこと。特に、交通機関や金融機関の基幹業務用コンピューターなど、社会的に重要なインフラシステムに求められる。)

導入のポイント

信頼から生まれた運航情報システム

松本 恭典 氏

IT推進室 開発推進部 副部長

松本 恭典 氏

 ANAは「市内系able端末」と呼ぶ航空券の予解約・発券端末システムをきっかけに、1990年代前半からはシステムベンダー、プロジェクトのコーディネーターとしての役割を東芝ソリューションに依頼するようになる。旅客系システムの開発を統括するIT推進室開発推進部副部長の松本恭典氏は次のように述べる。「以前インターネットでの発券を検討していたとき、取引のあったベンダーはできないと回答してきたなかで、東芝ソリューションだけがさまざまな工夫を提案してくれました。そうした積み重ねから信頼関係が築かれてきました。その後だんだんと広い範囲をお願いするようになり、今では航空機の運航情報システムを担当してもらっています」。

 蔵本氏や松本氏は、次のような点で東芝ソリューションを評価しているという。ひとつは、マルチベンダー環境において、全体をまとめ上げるインテグレーション(*2)力を持っている点。次に、他社製品を含むさまざまなテクノロジーやプロダクトを適用して統合する技術力の高さ、その人間力である。
(*2 インテグレーション/各種存在するシステムをひとつにまとめて、それぞれの機能が正しく動作するようにすること。また、業務内容の分析や、課題にあわせたシステムの企画・立案からプログラムの開発、必要なハードウエア・ソフトウエアの選定・導入、完成したシステムの保守・管理までを総合的に行うこと。)

導入の効果

利用者目線で使いやすさにもこだわる


グッドデザイン賞を受賞した
「市内系able端末」

 旅客系システムの開発における代表的な案件のひとつに、前述の「市内系able端末」のエンハンス(*3)がある。これは、全国の旅行会社やANAの直営店およびコールセンター(ANAテレマート)に展開されている端末約8千台に対し、業務支援や上位システムへの接続機能、専用発券機などを提供するものだ。1987年に第一世代を開発・納入し、これまでに第三世代まで開発を行っている。ここで使われている端末にも特長がある。全国の旅行会社の社員が窓口で使用するため、操作性や発券スピードはもちろん、情報の表示方法や画面設計、さらにはロール紙を入れ替える際の作業効率をも含めた総合的な使い勝手が重視される。また、デザインや信頼性も重要だ。このような要件に対して、特に第三世代の市内系able端末の開発では、東芝ソリューションのインテグレーション力が遺憾なく発揮された。松本氏は次のように述べる。「旅行会社や当社が提示するニーズをユーザー目線でくみ上げながら、システムインテグレーターとして複数ベンダーを的確にコーディネートしてくれました。ここまでコンパクトな端末をきちんとまとめ上げられるベンダーは、おそらく他にはないのではと感じます」。なお、ユーザーインターフェースや外観の設計では、東芝のデザインセンターが全面的に参画し、人間工学的な知見まで盛り込んだ。こうした取り組みもあって、第三世代の「市内系able端末」は2006年度のグッドデザイン賞(商品デザイン部門)を受賞している。
(*3 エンハンス/既存のシステムに手を加えたりオプション製品を追加することで、機能の拡張や性能を強化すること。)

ANAを支える運航情報とディザスタ・リカバリ

松本 副部長

 ANAのミッションクリティカルなシステムの開発として代表的なプロジェクトに、航空機の運航統制やダイヤ作成を行う基幹となる運航情報システム(FIS:Flight Information System)の開発がある。ANAはこれまで運航系をメインフレーム(*4)で運用していたが、サポート契約の終了や老朽化などの理由で、さらに効率の良いオープンシステム(*5)への全面的な切り替えを2006年に決断した。24時間365日の稼動を中断することなく、従来のメインフレームから新しいオープンシステムへの切り替えを行わなければならない。この非常に難易度の高いプロジェクトに加え、さらに大規模震災や障害時の業務継続に備えたディザスタ・リカバリシステム「バックアップ(OPBUP)」開発の取りまとめを東芝ソリューションに委ねることを決めた。

 「日本のベンダーならではのきめ細やかさを持ちながら、全体を俯瞰し、課題にも的確に対処してくれるという信頼感があり、運航系のオープン化の取りまとめを依頼しました」と、蔵本氏は言う。そしてFISは2009年3月にカットオーバーし、現在まで安定稼動を続けているという。

 その他にも注目すべき開発には、国内主要16空港に設置された約400台のANAの旅客向け総合案内表示システム「canary」がある。羽田空港の100インチを超えるディスプレーをはじめ、さまざまな利用客が空港内で運航状況を正確に把握できるよう、ユニバーサルデザインや多国語へ対応するなど工夫を盛り込んだ総合案内表示システムだ。また、基盤系の開発では、ANAの業務端末約1万台とホストシステムを接続する「ゲートウェイ(ATCP-GW:ANA Terminal Control Protocol Gateway)」システムがある。大型連休の販売開始時などには5分間で約5万アクセスを処理するなど、ANA社内の業務連携にも大きく貢献している。
(*4 メインフレーム/企業の基幹業務用の大規模なコンピューターシステムのこと。ミニコンピューターやオフィスコンピューターより大型で、オープンシステムよりも各メーカーによる独自設計の比率が高い。)
(*5 オープンシステム/標準化された規格に準拠したソフトウエアやハードウエアを組み合わせて構築されたコンピューターシステムのこと。)

総合案内表示システム「canary」で制御された羽田空港の大型LEDディスプレー(左)と
地図案内ボード(右)が、旅客を搭乗機までスムーズに案内する。

将来の展望

新しい空の時代に向けて取り組みを強化

蔵本 部長

蔵本 部長

 航空業界を取り巻く市場は大きく変化しつつある。ANAは、羽田空港および成田空港の発着枠拡大も見据えながら、ルフトハンザ航空(独)やユナイテッド航空(米)、コンチネンタル航空(米)との戦略的提携をさらに強化するなど、国内線のみならず国際線の増強にも力を入れている。さらに最近では、格安航空会社と呼ばれるLCC(ローコストキャリア)が世界的に台頭し、日本でも価格志向の旅行客が増えてきた。同社ではそういったニーズにも応えられるよう、日本発の本格的LCCとなるPeach Aviationへ出資したり、2011年8月末にはLCCアジア最大手のエアアジアと共同で新会社エアアジア・ジャパンを設立するなど、新たな顧客層の創造にも他社に先駆けていち早く着手している。また、スマートフォンの急速な普及を踏まえ、モバイルを利用した顧客サービスの増強にも積極的に取り組んでいる。

 こうした環境の変化において蔵本氏は次のように述べる。「新たな時代を迎えるなかで、われわれがITベンダーに求めるのは、最終的には信頼できる人間関係に他なりません。端末に始まって、今ではITシステムの多くを東芝ソリューションに任せるまでになりました。これからも新しい提案と高い技術力を期待しています」。

 冒頭で紹介したANAのテレビコマーシャルは「これからも創業時の若い志を胸に挑戦し続ける、私たちANAです」の一文で結ばれている。東芝ソリューションはこれからも、高い志に向かってまい進するANAの安心と信頼の空の旅を支えていくに違いない。


この記事の内容は、2011年8月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、組織名、役職などは取材時のものです。

COMPANY PROFILE

会社名
全日本空輸株式会社
設立
1952年12月27日
代表者
代表取締役社長 篠辺 修
本社所在地
東京都港区東新橋1-5-2 汐留シティセンター
事業内容
定期航空運送事業、不定期航空運送事業、航空機使用事業、その他付帯事業
URL
http://www.ana.co.jp 別ウィンドウで開きます

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