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Vol.31 ビジネスと、その進化をとめない マネージドサービスが創造する新しい世界

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#04 目視に頼らない高精度な品質判定をマネージドサービスで 「AI画像処理サービス」の鋼材品質管理への適用 東芝デジタルソリューションズ株式会社 福山 洸太

ものづくりの現場で実績のあるソリューションを、お客さまが利用しやすい形で提供していく。それは東芝マネージドサービスの大きな使命です。東芝デジタルソリューションズでは、厳格化する品質管理と熟練した検査員の不足という2つの課題に取り組む製造業において、製品の品質管理の現場を支援するため、「AI画像処理サービス」の具現化に取り組んでいます。当社が長年にわたり実績を積み重ねてきた画像検査ソリューションに、AIとクラウドを活用し、マネージドサービスで提供していきます。ここでは、鉄鋼業界において、鋼材の品質管理を行う現場が抱える課題の状況と、その課題解決に向けて当社が取り組んでいる「鋼材AI画像処理サービス」をご紹介します。

目視による鋼材等級判定の課題

鋼材とは、建築物や機械などの材料として利用できるように、板や棒、管などの形状に加工された鉄鋼製品です。強度や靭性(じんせい)に対する要求が厳しい鋼材において、その品質を左右するのが、製造する過程で鋼材の中にわずかに混入する非金属物質(非金属介在物)の存在です。酸化物や硫化物といった非金属介在物は完全に除去することが難しく、その組織や大きさ、量によっては構造物の割れや製品の破損につながる危険があります。

そこで、鉄鋼メーカーや、鉄鋼を加工して自動車や航空機などの部品を製造するサプライヤー(以下、部品メーカー)の品質管理を行う現場では、徹底した金属組織の検査が行われています。鋼材の一部を切り出した試験片を対象に、検査員が顕微鏡を用いて非金属介在物の種類や量、鋼の結晶粒度の大きさなどを目視で確認。結晶粒度は、JIS*で規定された標準図と見比べ、粒度番号で判定(等級判定)を行うのが一般的です。

*JIS:Japanese Industrial Standard(日本工業規格)

単純作業の繰り返しのように見えるこれらの検査は、多くの経験を必要とします。熟練度、さらには個人の感覚が大きく影響し、判定結果がバラつくことが懸念されています。また長時間の検査業務は検査員に与える負担が大きく、判定の誤りや、品質データの入力や転記でミスが生じやすくなるという問題もあります。さらに、経験豊かな人材の確保や技術の伝承が難しく、新人を一人前になるまで育て上げるためには相当な年月とコストがかかります。さまざまな産業領域で人材不足が急速に進む現代において、鉄鋼製品の信頼性を高めて競争力を維持し、発展させるうえで、これらは深刻な課題です。

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東芝30年の実績を結晶した「METALSPECTORⅡ-C」

福山 洸太

金属組織の検査におけるこうした課題に対し、東芝デジタルソリューションズ(当時は、東芝)は、1988年に画像センサーを用いた非金属介在物測定装置を発表しました。当時はモノクロ画像の画像処理でしたが、金属組織の検査を人間の目視による判定に近づけて自動化したことで、品質検査を行う現場の効率化につなげた画期的な製品でした。

非金属介在物測定装置は、人間の目をカメラに、品質を判定する脳をコントローラーに置き換えたものです。当社はその後も、カメラで撮像した画像データを処理して品質の判定を行う画像処理技術に磨きをかけ、進化した製品を次々と発表。画像処理に関する豊富なノウハウを積み重ねてきました。その結晶ともいえるのが、現在提供している「METALSPECTORⅡ-C」です。

METALSPECTORⅡ-Cは、鋼材の品質保証に関連する規格に準拠した各種測定法だけでなく、メーカー独自の測定法にも対応しています。当社独自の測定アルゴリズムとオートフォーカス機能を組み合わせ、ひとつのサンプルに対して、ASTM*法で約6分、JIS点算法で約2分と高速で、かつ、電子顕微鏡を使って目視で識別したときの介在物の幅や長さとの差異が±0.25µmという高精度な判定を可能にしました。また、数種類が存在する介在物、例えば硫化物介在物とそこに内在する酸化物介在物などを個別に抽出して識別できるなど、これまでにはなかった強力な画像処理を実現。現在、多くの品質検査の現場でご利用いただいています(図1)。

*ASTM:American Society for Testing and Materials

図1 METALSPECTORⅡ-C

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画像検査のノウハウとAIを融合し、マネージドサービス化

秦 久典

METALSPECTORⅡ-Cの開発と提供を通じて蓄積してきた金属組織の検査に関するノウハウと、品質検査の業務に関する豊富な知見を、最大限に生かすサービスの開発に取り組んでいます。お客さまのパートナーとして鋼材の品質を現場で見つめ続けてきた当社は、2019年10月に東芝マネージドサービス「Albacore(アルバコア)」の提供を開始するにあたり、鉄鋼メーカーや部品メーカーの現場で十分な実績を持つ画像処理技術に、先進のディープラーニング技術を融合。「鋼材AI画像処理サービス」として、AIを活用した精度の高い画像解析を、金属組織を検査する現場で運用しやすいSaaSでの提供を実現します。

当社は、このサービスの肝となる学習モデルに対して、実際の現場での有効性を検証。熟練した検査員の目視に近い認識精度が出ていることが確認でき、厳正な品質管理が求められる現場で、今すぐにでも活用できる水準の技術であると評価しました。

この鋼材AI画像処理サービスを、METALSPECTORⅡ-Cに連携させて提供します。

METALSPECTORⅡ-Cで撮像した鋼材のミクロ組織画像のデータを元に、クラウドのAIが鋼材の品質の特徴量を自動的に抽出して分析。鋼の結晶粒度の等級判定を行うモデルを自動的に生成し、等級の推論結果を現場のオペレーション端末に報告します(図2)。

図2 鋼材AI画像処理サービスの全体像

こうして、標準的な測定法だけでなく、ミクロ組織検査にも対応した同一基準の金属組織検査をノンプログラムで実現。さらに、各種規格に対応した報告書の作成までという一貫したプロセスの自動化を実現します。

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マネージドサービス化のメリット

小林 賢治

マネージドサービスには、AIに関する専門的な知識がなくても、最新のAI分析を継続的に利用できるという利点があります。利用すれば利用するほど分析精度は向上。AIは自律的に学習し続けて成長し、熟練の検査員のようなスキルを継続して身に付けていきます。

検査結果はミスや漏れなく報告書に反映され、蓄積された品質データは堅牢に管理されるため、ユーザーは証跡管理やセキュリティの面での心配もありません。将来、組織をまたぐ品質情報の共有や、業界内で品質基準の統一化が図られた場合、鋼材AI画像処理サービスは、各社共通のAI基盤へと進化していきます。

今後、東芝デジタルソリューションズでは、医薬品の製造過程で起こる錠剤やカプセルを包装するPTPシートの欠陥や、フィルムや紙、不織布などウェブ製品の表面の欠陥に関する画像検査を、AIとクラウドを活用してマネージドサービス化し、展開。既に幅広い領域で活用いただいているこれら画像検査ソリューションも、AI画像処理サービスに進化させていく予定です。

熟練した技を伝承する難しさや、労働力の不足という社会課題を乗り越え、ものづくりの品質向上を支え続ける東芝マネージドサービスの今後の広がりに、ご期待ください。

※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年11月現在のものです。

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