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Vol.22 IoTに求められる即時性と拡張性 センシングデータを現場でフルに活用する

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#02 デジタルトランスフォーメーションを実現するエッジコンピューティング技術 「SmartEDA」が支える、現場データの即時処理 東芝デジタルソリューションズ株式会社 商品統括部 商品企画部 参事 吉本 武弘

現場のデータを、いかにリアルタイムに処理するか。デジタルトランスフォーメーションの実現に向けた課題です。ミリ秒単位で発生する高頻度かつ多種多様なIoTデータのすべてをデータセンターに集め、データベースに書き込み、時系列の変化から一瞬の異常値を逃すことなく見つけ出すことは非常に難しい課題といえます。ネットワークにかかる重い負荷を考えても、クラウドコンピューティングに頼ったデータ処理は、デジタルトランスフォーメーションを実現する際の大きな障壁となるでしょう。必要なのは、現場とクラウド間の通信量を抑えながら、現場における即時処理を実現する高速で効率的なデータ処理基盤です。ここでは、東芝が「SPINEX」のコア技術として位置付ける「エッジコンピューティング」を具現化する「SmartEDA」をご紹介します。

クラウドとエッジの協調を支える
SPINEXのコア技術

ビジネスや暮らしのさまざまなシーンに、クラウドサービスが広がっています。IoT*で集められたビッグデータをAI*で効果的に分析し、ユーザーに高度な利便性や新しい体験を届けていく。こうした一連のプロセスを環境や社会の変化に対応しながら速やかに行うために、クラウドにすべてのデータが集められてきました。

* IoT:Internet of Things(モノのインターネット),AI:Artificial Intelligence(人工知能)

しかし、センサーデータや画像、音声、映像など、クラウドに集まるIoTデータの種類と量は、提供するサービスの質が精緻になればなるほど膨大になっていきます。また、取得される対象も、工場やビル、フィールドの設備や機器から、電力の使用状況や交通などの社会インフラ情報、さらには人の行動や状況、感情にまで拡大されていきます。このようにクラウドのデータが膨れ上がる近い将来においては、クラウドだけでサービスを提供する方法は限界を迎えるでしょう。クラウドの利用だけでは、爆発的に増加するすべてのデータをとても支えきることはできないからです。
そこで東芝が早くから提唱してきたのが「エッジコンピューティング」です。機器やゲートウェイ側にもインテリジェンスをもたせることで、エンドユーザーに近い現場で処理を実行。クラウドとエッジ(現場)を連携させ、自律的に処理を分散させながら、最適化を行うというものです。これなら通信やクラウドへの負荷と遅延を最小限に抑えながら、適材適所でIoTデータを高速に処理することが可能となります。現場で処理するデータはリアルタイム性の高いものにフォーカスし、クラウドに集めて処理するデータと棲み分けることで、より役立つデータ活用のあり方や、革新的なサービスの創出が図れます。クラウドと協調したエッジコンピューティングの利用は確実に進み、2020年にはクラウドに置かれたデータの40%がエッジに移行するだろうとの予測もあります。将来的には、自動運転システムやドローンを使った監視システムなどの実現に、エッジコンピューティングが大きく寄与するのではないかとの期待もかけられています。

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高度なインテリジェンスと
柔軟なルール設定

東芝IoTアーキテクチャー「SPINEX」は、コア技術にエッジコンピューティングを位置付けています。時系列に集まる大量なデータを、現場とクラウドで効率よく協調分散処理。現場での素早いリアクションとクラウドでの高度な分析が連携した、デジタルトランスフォーメーションに相応しいデータ処理基盤を構築するテクノロジーです。
東芝のデータ収集/イベント処理基盤「SmartEDA」は、エッジコンピューティングを構築・運用するプラットフォームです。機器やゲートウェイ側で自律的にデータ処理を行う「SmartEDAエージェント」と、クラウドや工場、施設などの拠点でデータ収集やデバイス管理を行う「SmartEDAサーバー」で構成。インテリジェンスを備えた機器とサーバーが互いにコミュニケーションをとり、役割を分担することで、現場とクラウド間の通信量を抑えながら現場のデータの即時処理を実現します(図1)。

図1 エッジコンピューティングにおけるSmartEDAの役割と機能

SmartEDAエージェントの大きな特長のひとつは、エッジでのインテリジェンスです。ミリ秒単位で集まるデータから素早く異常を検知して、通知や自動処理を実行するために、さまざまなアルゴリズムや判別機能を実装しています。例えば、指定された時間範囲内のセンサー値を母集団として、突出した値だけでなく、徐々に変化や劣化をしていく傾向を検出する「3シグマ分析」、特定パターンのログデータの発生を検知する「ログパターン検知」、エッジでのデータの値や組み合わせに応じて、通知や自動処理を実行する「IF-THENルールエンジン」などを提供しています。
エッジで検知して判断されたさまざまな事象は、クラウドに蓄積し、分析して活用できます。機械学習を活用することで、異常の検出など、さまざまな事象を捉える精度の向上が期待できます。また、クラウド側では複数のイベントを組み合わせて複合的にデータ処理を実行。事象の連鎖や干渉による異常や予兆を検知して、プロアクティブな制御や予防保全を可能にします。
クラウドでのビッグデータ分析から得られた検知や処理のルールを現場のエージェントに設定できる利便性も、SmartEDAのもうひとつの大きな特長です。単に現場の機器に送り届けるだけでなく、現場の機器の構成に合わせてルールの設定や変更をすることができます。どのゲートウェイ機器にどの工作機器がつながっていて、その工作機器のソフトウェアのバージョンはいくつなのか、といった構成情報を管理することができるため、機器によって適用ルールが変わるような場合に役立ちます。これにより、大量生産を行う製造ラインでの定型的な利用だけでなく、製品・部品・材料などがダイナミックに変わる多品種少量生産にもエッジコンピューティングは対応することができます。

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保守の効率化から位置情報と組み合わせた利用まで
広がる可能性

吉本 武弘

SmartEDAには、工場での機器の監視や異常検知だけでなく、フィールドIoTをサポートする画期的な機能も実装されています。機器や設備の保守やメンテナンスにおいては、故障の連絡を受けると、現地に赴いて実際に見て初めて交換が必要な部品がわかり、これを調達した上で再度同じ場所に赴き交換を行うといったケースはよくあります。SmartEDAが提供するリモートアクセス機能を使えば、こうしたコストや時間のロスを軽減する遠隔保守が容易に実現できます。クラウド経由で現場のゲートウェイ機器にログインし、機器の状態やログを遠隔地から確認。必要な交換部品などの目安を、あらかじめつけておくことが可能です。
また、広域マップとの連携や、構内や店舗内などのフロアマップと連携した情報表示機能など、お客さまそれぞれで異なる業務の特色や課題にあわせたアプリケーションを簡単に効率よく整備し、管理できる機能を提供します。
エッジインテリジェンスに基づいた現場でのリアルタイムなデータ処理能力と、高度な管理性、利便性をモバイル利用することにより、SmartEDAは幅広いシーンで、その活用が期待されています。
スマートフォンにエージェントを搭載して、ゲートウェイ機器の代わりに利用することで、センサーから取得した情報とスマートフォンが持つGPS*の位置情報を組み合わせてクラウドに送信することができます。

* GPS:Global Positioning System(全地球測位システム)

例えば流通の分野では、トラックの現在位置や、温度や量といった積載物の状態などを把握し、配車の最適化や配送リスクの低減につなげることなどが考えられます。生鮮野菜の配送トラックの保冷状態や運転時の衝撃を把握して、最適な配送の分析や、配送コンテナの位置を把握するといった実証実験にSmartEDAが活用されました。またIF-THENルールエンジンと組み合わせることにより、センサーの状態やスマートフォンを持った人の位置などに応じた処理や通知をあらかじめ設定し、必要なときに必要な処理を自動的に実行することなどもできるようになります。
車載用ゲートウェイにSmartEDAを搭載して自動車IoTを実現する用途での、商品化を進めています。
さらに、数キロメートルのデータ伝送距離を持つLPWA*無線技術との連携も検討しています。LPWAを使って広域のセンサー情報を極めて省電力で取得できるようになれば、IoTの活用が一気に加速します。そうなると、現場の機器やゲートウェイ機器でのデータ一次処理、異常検知、判断を提供するSmartEDAの利用用途も大きく広がるでしょう。

* LPWA:Low Power WideArea

エッジコンピューティングによるデジタルトランスフォーメーションの実現を通じて、SmartEDAIoTによる豊かな産業や社会の発展の一翼を担うことができれば、これほど嬉しいことはありません。

※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2017年7月現在のものです。

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