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Vol.21 東芝のIoTアーキテクチャー「SPINEX」登場 産業界のビジネスモデルを変える、日本発のデジタル革新

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#01 日本初、デジタルトランスフォーメーションを支える 東芝のIoTアーキテクチャー 「SPINEX」のすべて 株式会社東芝 インダストリアルICTソリューション社 IoT技師長 中村 公弘

今、世界の産業は、デジタル化によって産業構造自体が大きく変わってしまう時代に、「第4次産業革命」に入ったといわれています。中でも製造業は大きなインパクトを受け、従来のようなモノの機能価値だけでなく、モノの使用を通じて得られる顧客にとっての使用価値や経験価値などに経済価値がシフトしつつあります。

新しい時代で生き残り、一層の競争力を発揮するには、IoT*やビッグデータ、AI*などのデジタルテクノロジーをうまく使ってモノの価値を高める、新たなビジネスモデルへのシフトがますます重要になります。

東芝では、お客さまのこのような「デジタルトランスフォーメーション」を支え、また自らも変わっていくため、東芝グループの最新の技術と、これまでエネルギーをはじめとする社会インフラや製造などの非常に幅広い現場で培ってきた経験やノウハウを結集させた、IoTアーキテクチャー「SPINEX」の提供を始めました。

SPINEXは、技術をつなぎ、製品をつなぎ、サービスをつなぎ、お客さまのビジネスモデルの変革をもたらすインダストリアルIoTソリューション(群)です。

* IoT:Internet of Things (モノのインターネット),AI:Artificial Intelligence (人工知能)

一層加速する、
世界の第4次産業革命

「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」。「2001年宇宙の旅」で有名なSF作家、アーサー・C・クラークの言葉です。彼が言うように、私たちはIoTやAIといったデジタルテクノロジーがもたらすイノベーションにより、例えば、チェスや将棋の世界で起きたように膨大な組み合わせの中から最適な手を打てるようになったり、複雑な要因を解析して一歩先の未来を予知したり、大量なデータの中から新たな関連付けや意味を見つけ出したりといった、これまで人間技では到底できなかったことができるようになりつつあります。 そのテクノロジーを知らない人から見るとまるで魔法のように見える技術を手にして、うまく企業活動に利用した者が勝ち残る、そんな時代になってしまうかもしれません。

インターネットやスマートフォンなどの普及により、一般社会で急速な勢いで広がったデジタル化やソフトウェア化、ネットワーク化の波が、今、産業界をも覆い始めたといえます。これまで時間や場所といった物理的な制約でモノと一体となっていた機能の一部がソフトウェア化されて、モノから離れることができるようになりました。そしてネットワーク化により、その機能やカタチを自由に変えながら、国境を越えて、モノや人と瞬時につながり活用されることが可能になりました。

「第4次産業革命」を牽引する米国やドイツでは、これら新たなテクノロジーへの投資を推し進め、イノベーションを次のステージへと加速させています。

ドイツの国家プロジェクト「Industrie 4.0」では、その中核を担う「Cyber Physical System」の構築に向けて画期的な構想が動き出しています。個々の機器や部品、ビジネスプロセスなどに「Administration Shell」というソフトウェアをかぶせてそれぞれの違いを包み込んで抽象化し、標準規格に準拠した通信インターフェースやデータフォーマットに対応させ、製品や部品、装置、設備、人、業務プロセスなどがデジタル空間上で自由につながるようにしてしまおうとしています。これにより、現実の製造工程をデジタル空間に写像した「デジタルツイン(デジタルの双子)」をつくり、きめ細かいシミュレーションや製品の設計・試作・製造を一気通貫で行います。また、顧客の要求に個々に応える製品を作ったり、工場全体をデータでモデル化して、工程の設計や配置などをすべてコンピューター上で検討したりするなど、ものづくりを圧倒的に高度化させようという取り組みです。

一方、米国の「Industrial Internet」が目指しているのは、製品が顧客に利用されている段階での使用価値の向上です。これを実現するのが、製品の機能の一部をソフトウェア化する「ソフトウェア・デファインド・マシーン」という考え方です。例えば、センサーで集めた製品の使用状況の解析結果に基づき、製品に組み込まれたソフトウェアを遠隔からアップデートさせるだけで、顧客それぞれの使い方や環境に最適な機能と性能を発揮させたり、遠隔で製品の状態を把握して最適な運用や故障の予防を行ったりというような、製品の使用価値の向上を行います。また、このようなサービスによって新たなビジネスモデルの創出にもつなげようという取り組みです。

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「SPINEX」から始まる、
日本発のデジタルトランスフォーメーション

日本でも多くの企業で、IoTを活用したデジタルトランスフォーメーションにより、産業や社会のイノベーションを進めようとする動きが始まっています。しかし、その実現にはさまざまなハードルがあります。工場や社会インフラ、産業用の機器などをつなぐ、と一口に言っても、実際の現場には古い機械や、単独で動いている設備、機器などがたくさん存在しています。またつないでデータを集めたとしても、それをどのように活用していくのか、そのためにはどのようなデータをどのように揃えていくのかという課題もあります。さらに高度な分析や現場への迅速なフィードバックをどのように行えばよいのかなど、IoTを企業の活動に生かしていくためには多くの課題が存在します。

このような課題に真正面から向き合い、解決を図っていくため、東芝は2016年11月、IoTアーキテクチャー「SPINEX」を提供することを発表しました。
SPINEXは、エネルギーなどの社会インフラや半導体、電子機器といった幅広い事業領域で得た豊富なノウハウに、IoTやAI、音声・画像認識などの先進技術を掛け合わせることで、お客さまのデジタル化に向けた課題に最適に適合。「エッジコンピューティング」「デジタルツイン」「メディアインテリジェンス」という3つの特長を備え、設備・機器・製品の接続からデータの収集、蓄積、見える化、分析とその活用までをトータルに行える環境を提供します。そのために、SPINEXではオープンアーキテクチャーを採用し、グローバルなパートナーシップによるマルチクラウド・マルチデバイス接続を可能にしています。
東芝はこのSPINEXにより、多種多様な機器や製品が自在につながり、現場の状況に合わせて自律的に動くデジタルトランスフォーメーションの世界を、日本発のテクノロジーとグローバルなイノベーションを組み合わせて、ものづくりをはじめ、あらゆる産業や社会のさまざまな領域で、お客さまやパートナーと共に実現していきます(図1)。

図1 東芝IoTアーキテクチャー「SPINEX」全体像

SPINEXは、脊椎動物が外界の環境変化や事象を知覚したときに素早く反射行動をとったり、知覚したことを神経系を通じて情報として脳に蓄えたり、さらには言語や画像などを介して他者から情報を得たりすることで、さまざまな経験や知見、思考に基づいてそれぞれの環境に適応していくという、生命・進化のメカニズムを支える重要な骨格「脊椎(Spine)」のようにありたいという思いを込めて名付けました。

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東芝の経験とテクノロジーが、
「SPINEX」に結晶

SPINEXの特長の1つが、エッジ(現場)でのリアルタイムな処理とクラウドでの高度な処理を最適に組み合わせるエッジコンピューティング技術です。膨大なセンサーデータはもちろん、音声や画像、映像、振動といったデータを、クラウドとエッジで協調しながら分散して処理。ネットワークによる遅れを最小化しつつ、ディープラーニング(深層学習)などのAIによる高度なデータ処理までをも現場で行える環境を整備することで、機器や設備の異常検知や自律制御、即応性の高い予兆検知などを実現します。

中村 公弘

もう1つの特長が、デジタルツインの構築技術。これまで東芝が培ってきたものづくりや社会インフラなどの豊富な知見が最大限に生かされたキーテクノロジーです。刻々と変化する現場の状況を可視化したり分析したりするためには、現場の機器や製品で現実に起こった出来事をデータモデルとしてデジタルに再現する必要があります。その際、業界や現場での課題解決に役に立つデータを選び出し、どのように集めて分析すべきかを見極めなければなりません。これまで東芝は、非常に幅広い機器・製品のものづくり、運用、保守などを手掛けてきているため、実際の現場で得た経験を元にした実用性の高い「デジタルツイン」を構築・提供することができます。このデジタルツインに、東芝が持つ高度なAI技術やシミュレーション技術を組み合わせることで、さまざまなお客さまが求める高度なCPS*が実現できるのです。

* CPS:Cyber Physical System

3つ目の特長は、東芝が長年取り組んできたメディアインテリジェンス技術をIoTに活用することです。音声や画像、映像などのデータを高い精度で認識・解析できるため、設備・機器・製品をつなげるだけでなく、それを利用する人の意図や状況とも結びつけながら、プロセスやシステムを、状況に応じてダイナミックに最適化します。

SPINEXでは、デジタルトランスフォーメーションを進めるお客さまのさまざまな課題を解決するトータルな基盤を効率よく整備。世界中から選び抜いたハードウェアやソフトウェア、ネットワーク、セキュリティ、サービスなどを最適に組み合わせ、機器や装置の稼働率や生産性の向上、バリューチェーンの最適化、オペレーションコストの削減のほか、豊かな経験価値を生み出す新規サービスの創出などを図っています。

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SPINEXのエッセンスを
「IoTスタンダードパック」として商品化

このSPINEXで基本となる構成要素を活用した、利便性の高いソリューションが登場しています。その1つが、グローバルに稼働する産業機器の見える化・遠隔監視を迅速に実現させる「IoTスタンダードパック」です。

現場にある機器や設備との接続はもちろん、データの収集から見える化までをオールインワンパッケージで提供。IoTの導入に必要な作業を短期間で効率的に行えるテンプレートによって、事前準備やエンジニアリング作業の短縮化や現場作業を簡素化しています。これにより、異常時にのみ現場の詳細なデータを送ったり、遠隔からソフトウェアをアップデートしたりするエッジコンピューティングを備えたIoTを、素早くスタートすることができます。さらに東芝が開発したUXデザイン*の手法による、直感的で使いやすい見える化画面を用意。誰でも容易に機器や設備の稼働状況や変化を多角的に把握することができます。

* UXデザイン:User eXperience (顧客の経験価値) を高めるための人間中心設計手法を取り入れたデザイン方法
※IoTスタンダードパックは、#02で詳しく紹介しています。

一方、工場の現場やグローバルでのものづくりの見える化に大きな力を発揮するのが「次世代ものづくりソリューション「Meisterシリーズ」です。つながる工場の見える化ソリューション「Meister Visualizer」は、IoTにより製造現場のデータを収集し、東芝独自のリアルタイムデータ処理技術とユーザーインターフェース技術を組み合わせて、”つながる工場”を実現。世界に広がる各工場で刻々と変化する生産状況や品質情報などのきめ細かな見える化と、リアルタイムな把握ができるようになります。

企業活動の背骨に相応しいスケールと柔軟性、先進性を有すると同時に、「IoTスタンダードパック」「Meisterシリーズ」で業務課題に応じたIoTシステムを迅速に導入できるという利便性も備える。その対応シーンの幅広さも、SPINEXならではの魅力といえます(図2)。

図2 お客さまそれぞれのIoTニーズに対応した商品群

SPINEXで構築されたIoTシステムにより、東芝グループにおいては、NANDフラッシュメモリを製造している四日市工場での品質・生産性向上や、スマートコミュニティセンター(ラゾーナ川崎東芝ビル)でのビル・ファシリティーの運用などで大きな成果が出ており、また既に多くのお客さまにも導入いただき、その真価を発揮しつつあります。

人、モノ、ことを自在に結びつけ、技術を、製品を、サービスをリアルタイムにつなぐSPINEX。一歩先の未来を予知して、ずっと社会に安心を届けていく。ちょっと意外な気づきから、もっと便利な製品や新しいサービスを生み出していく。日本発、デジタルトランスフォーメーションによる新たな産業革命。SPINEXは、産業や社会のさまざまな領域で、ビジネスモデルを大きく変える新しい時代の「魔法」を広げていきます。

※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2017年7月現在のものです。

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